【10番目の悪徳勇者編<第4章:3/4>■零和充一の視点■】「オルガの正体……【セレナちゃん】だよね?」オープニングバトルの伏線回収!! 驚愕的な事実が判明する!!

「ようやく来たか。充一」


 会場入りした直後のことである。

 俺の姿を見て観客たちは大盛り上がりだった。

 天秤のシルエットが描かれたカッコイイ黒マントを肩に留め金で留めている。

 立て襟タイプで首を保護することが可能だ。

 後ろ姿は直接確認することはできないが、歩くごとに追い風が発生し、マントが音を立ててなびいているのは感覚でわかる。


「零和充一様でお間違いありませんね?」

「そうですけど、あなたは?」

「司会者のチャドです。デスマッチの前にルールについて簡潔にご説明しますね」


 一通り説明を聞いた後、俺は「わかりました」とうなずく。


「仲間が先に戦ってるってんのに、お前は一人で何やってたんだ?」

「Eランクになった」

「は? 嘘だろ。昨日まで最低レベルのFランクだったんじゃねぇのかよ」

「さっきまで冥界の女神と戦っていてね。それでようやくあんたを超えることができる」


 剡弐は呆れた様子で俺を見下す。


「Eランクになったところで俺様に勝つことはできねぇ。諦めろ」

「確かにあの時は油断した。でも今は違う」

「だったら」

「!」


 背後に潜む影。

 いつの間にか剡弐は俺の背後を回っていた。


「見せてみろ」


 ガキィイイイン!!!!!


 剡弐が大きく振りかぶる大剣を白神で素早く受け止めた。

 刃と刃がこすれ合う音が響く。


「てっきり拳だけでやると思ったけど」

「これでも勇者なんでな。大剣の一つは扱えないと見栄えが悪いだろ」


 さすがに力はある。油断したら潰れてしまいそうだ。


「捉えろ! 悪鬼オルガ!」


 剡弐の背後に浮かび上がる巨大な黒い塊。

 俺を捕えようと巨大な手に形を変える。


「おっと」


 捕まるギリギリのところで後ろに下がる。

 黒い塊は蛇のように地面を這ってくねらせ、俺の動きに合わせて追撃してきた。

 上空からミサイルを発射するように乱れ打ちをしてくる。

 地面に大きな穴が空くほどの威力。

 まともに喰らえばひとたまりもない。


「逃げてばかりじゃ俺様を倒すことはできねぇぜ」

「言われなくてもわかってる」


 本人は気づいていないようだが、これ以上彼女を苦しめるわけにはいかない。


「どうやったら彼女のことをあんたに気づいてもらえるのかなって」

「彼女? 何言ってんだお前。さっさと捕まえろ!」


 俺の体が黒い塊に包み込まれる。


「バカが。油断するからこうなる。Eランクだろうが俺様に勝つことはできねぇ。終わりだ!」

「……ごめんね」


 バシュッ!!!!!


「!」


 俺を握りつぶす前に彼女は破裂して跡形もなく消散した。


「何が起きた?」

「白神で封じた」

「は? 何言ってんだ?」

「もうすでに斬ったってことだよ」

「なわけねぇだろ!」


「大剣を振り回してきたので素早く左手で受け止める。


「なに……?」

「その玩具で俺を斬るのは不可能」


 体を1回転させて大剣を握った剡弐ごと場外まで投げ飛ばす。

 彼の体は壁に激突し大きな穴が空いた。


「あれ? 自分のこと最強って言ってたよね? 俺の動きが目で追えなかった?」


 ドガッ!!!!!


 壁の残骸が吹き飛んだ。

 砂埃が舞い上がり、それをかき消すかのように剡弐がこちらに向かって突っ切る。

 剡弐は首をゴキゴキと鳴らした後、大剣を拾って肩に担いだ。


「調子に乗ってんじゃねぇよ」


 チャドが観客を盛り上げている間、俺に近づく二人の美少女を見て苦笑する。


「どちらも無傷だとは」

「無傷ではないけどね。カルラは厄介だったし」

「エリクさんもそれなりに強かったよ」


 二人が苦戦するほどの相手だったのか。


「あとは先輩の活躍っぷりを漫画やラノベにしちゃうからね」

「ああ」


 二人は距離を置いて、俺を見守っている。


「さあ充一選手! 次はどうする?」


 背中にベルトで固定した鞘から黒魔を抜く。

 右手に白神。

 左手に黒魔。

 両手持ちのままかっこよく構える。


「また死神に変身するのか? オルガに勝てるわけねぇだろ」

「Eランクの俺でも勝てると確信したんだ。もうあんたじゃ無理だよ」

「ほざけ!」


 剡弐が大剣を大きく振りかぶったので、まずは武器を破壊すべく白神の能力を発動した。


 斜め上に振り上げることで振り下ろしてきた大剣を粉々に粉砕した。


「しまっ……」


 剡弐が怯んだ隙を狙って、白神を握りしめたまま斜め下へ向けて袈裟けさ斬りをする。


「くそ……」


 外したか。

 斬られる直前に剡弐は下がったようだ。


「その刀の能力やべぇな。大剣が錆び付く時点で普通じゃねぇよ」

「斬った相手の武器や能力、そして相手自身の時間をコントロールする」

「一撃必殺ってやつか。どんなに能力がすごくても俺様はギリギリかわせる。俺様の動体視力を舐めるな」


 さすがは元総合格闘家。

 能力が発動していても、きちんと相手を斬らないと一撃で倒すことができない。

 追撃しようとするも巨大化した黒い手が行く手を遮った。


「この動きについてこれるとはな」

「Eランクだからだよ」


 Fランク(レベル1~10に相当)

 能力値ステータス(体力、威力、速さ、防御、命中率、神力、魔力)が初期レベル。


 Eランク(レベル11~20に相当)

 Fランクより能力値がすべて通常値の2倍になる。魔神力が使用可能。

 

 さらに能力の使用中は五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)が一時的に活性化する。

 達人のように俺は剡弐の動きを見破ることができるのだ。


「白神で彼女を封じたつもりだったんだけど」

「封じるだと? オルガは悪霊だ。斬られる直前に魂を二つに分離させただけだ。弱体化したがそれでも十分にお前を殺せる。それにさっきから彼女って何の話だ?」

「少しでも彼女の負担を和らげようとしたかっただけだよ」

「何言ってんだお前。敵の能力を心配するバカがいるか。オルガの性別がメスなわけねぇだろ」

「……そっか」


 白神を鞘に収め、黒魔を横へ構える。

 そして詠唱破棄のまま俺のイメージによって体内に眠る周囲をオーラが包み込んだ。


「なんだ……? あの時と違くねぇか?」


 俺はEランクの死神になった。

 Fランクとの外見に違いがあるとすれば、髑髏の首飾りを装着しているところだ。

 あとは持っている鎌のデザインが違う。

 形状は同じ三日月型の黒い大鎌。

 刃に髑髏が装着されており、さらにチェーンが巻かれていた。


「死ぬ前に何か言いたいことはあるか?」


 俺は一歩ずつ近づく。

 すると剡弐は俺の歩に合わせるかのように後ろへ下がっていた。


「おい! なにしてんだオルガ!」


 どうやら彼女が剡弐を守るために体をコントロールしているようだ。


「彼女はもう戦いたくないんだよ」

「ふざけてんのかお前。俺様の能力だぞ。俺様に従って」

「彼女はあんたの道具じゃないよ」

「なに?」

「あんたを助けるために一緒にこの世界に転生したんだ。そうだよね? セレナちゃん」


 静寂が流れた。

 ミコナは首をかしげたまま「セレナちゃん?」と尋ねてきた。


「剡弐の」


「お前舐めてんのか!!!!!」


 答える前に剡弐の怒声により反射的に口を閉じてしまう。


「お前マジで死ぬ覚悟はできてるんだろうな」

「俺にはセレナちゃんが見えていた」

「まだ言うか! テメエ!」


 剡弐は肩を上下で揺らすほど呼吸が乱れていたが、やがて静かになった。


「何にも分かっちゃいねぇ」

「?」

「俺が死んだ理由はお前のせいなのによ」

「……は?」

「どういうこと? 充一くん」

「先輩のせいで死んだの?」

「いや知らない……」


 むしろあんたのせいでトラウマを植え付けられたんだぞ。

 剡弐は低い声でつぶやいた。


「なぜ妹を……セレナを救った?」

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