【10番目の悪徳勇者編<第4章:2/4>■零和充一の視点■】「エレシュキガルに力をもらうためにあえて【口説いた】結果……」

 185㎝くらいの高身長。

 花嫁衣装のような黒をベースにした綺麗なドレスを着こなす。

 白肌は美しく、紫色に艶めく唇に視線が奪われてしまう。

 黒くアイメークした京紫色の瞳がフレちゃまを捉える。


「驚いたわジークフレイヤ。まさかあなたほどの実力者がそこまで弱体化するなんてね。ただの子どもじゃない」

「これには深い訳があってな。ミコナ様のお母様が亡くなってから事情が変わったのだ」

「ミコナ?」

「魔王娘だ」

「今はその子が魔王軍を率いているの?」

「残念ながら魔王軍は滅んだ。今では悪徳勇者が世界の敵だよ」

「どうりでダークパワーを感じるわ。てっきり邪神が復活したと思ったけど」

「ふざけたことを抜かすな。神、魔神、英雄、魔族、すべての最強たちが一致団結して1100年も戦ってようやく倒せたんだぞ」

「それこそ複数の星を何度も渡って戦ったわね。星々が消滅した時はさすがの私もドン引きしたわ」


 星が消滅する!? すべての最強たちが集まって1100年かけてようやく倒せた!?

 どんだけ邪神強いんだよ。

 俺の知らない世界でそんな大戦争が行われていたなんて……。


「ちなみに今何年?」

「神歴1100年だ」

「ソルネール王国の最初の皇帝が生まれてからもうそんなに経ったのね。……あら?」


 ようやく俺に気づいたのか。

 顔を近づけてきた。

 キスしそうなくらいの距離感。

 体をジロジロ見つめられる。

 香水というのか。

 アロマについてはそこまで詳しくないけど、女特有の甘ったるい香りが彼女の体から発した。

 理性が狂わされそうな、大人の女性に恋い焦がれるような、そんな不思議な気持ちにさせられる。


「何この子。若くて可愛くて素敵。というかすごく私好み」

「え?」

「私と結婚したいの? いいわよ。おいで。すぐに子作りしましょう」

「はいぃ!?」


 何を言ってるんだこの女神。

 いくら相手が美女だからって欲情するわけではない。

 男にも選ぶ権利はあるし、相手のことを知らずに抱くのは抵抗がある。


「もしかしてはじめて?」

「そ、それが何ですか?」


 童貞だからってバカにするなよな。


「卒業させてあげよっか?」

「え?」


 いいの?

 こんな綺麗な女性と……。

 それじゃぁ~お願いしてもいいですか。


「って落ち着け俺!」


 何期待してるんだ!

 相手は冥界の女神でしかもフレちゃまの敵だったんだぞ。

 色気でやられるほどこの俺――零和充一が簡単に落ちると思っているのか!


「ふ、フレちゃま……」


 葛藤する俺の姿を見てどう思ったのか「やれやれ。これだから男は簡単にハニートラップに引っかかりやすい。悲しき性欲だな」とつぶやいた。


「その少年愛をどうにかしたほうがいいぞ。エレシュキガル」

「美少年は正義よジークフレイヤ。それに君だって早く気持ちいいことをしたいでしょ? 夫になった証として君の愛を全部私にちょうだい」

「目的を見失うなよ充一。コイツは夜魔と同じ誘惑術チャームを得意とするからな」


 言われなくても分かっている。

 ここは冷静になれ。

 小学生の頃の俺は純粋無垢で異性よりもゲームに熱中していただろ?

 唇ではない。おっぱいではない。お尻ではない。

 ……頭から離れられないんですけど。


「素直になりなさい。私と結婚できる人間はどこを探してもいないわ」


 深呼吸した後、俺は告げる。


「エレシュキガルさんに協力してほしい」

「へぇ」


 あやしく笑うエレシュキガル。


「てっきりこのままプロポーズしてくれると思ったんだけど、がんばって理性を保とうとしているのね」

「悪徳勇者を倒すためにどうしてもあなたの力が必要なんだ」

「じゃあ私との勝負に負けたら結婚してくれる?」


 やはりそう来たか。


「あと冥界へ帰ることが条件。君を夫に迎えるから」


 これかなり責任重大だ。


「冥界には戻ってもらいたい。だが充一は世界を救う勇者だ」

「ネルガルから力を奪ったのがいけないのよ」

「和解の印だ。奪ってなんかいない」

「嘘よ。ネルガルはジークフレイヤに色仕掛けされて騙されたんだわ。この泥棒猫!」

「嫉妬は醜いぞ」

「なんですって!」

「現実を見ろ。ネルガルとお前が暴走したせいで世界は破滅に追い込まれていたかもしれないんだぞ」

「だけどネルガルは死んだのよ? あなたを守ったから」

「改心をしたからこそ、彼は世界を救うために自ら犠牲になったんだ。誇り高いと思わないのか?」

「じゃあ私がこの子を夫にしたっていいじゃない!」


 このままじゃ埒が明かないな。

 仕方ない。


「負けたらエレシュキガルさんと結婚してもいいよ」

「なに!?」

「ほんと? じゃあ誓いのキス」

「ちょっと待って! 俺が負けたらだよ?」

「そうよ。我慢できないから今すぐ宿へ行きましょう!」


 俺が負ける前提で会話が進んでいるとは。


「勝利条件はエレシュキガルさんを倒すことではなくて俺の信念を認めてもらうことでいいですか?」

「信念?」

「俺は真の勇者として世界を救いたい」

「口ならなんとでも言えるわ」

「世界を救うためにはエレシュキガルさんの力が必要なんです!」

「え?」


 まだだ。もっと彼女の心を動かす何かを考えるんだ。


「充一ちゃんは私が何者か知ってて言ってるのよね?」

「もちろんです。すべての女性が嫉妬する美しき冥界の女神様ですよね?」

「美しい……そ、そうよ! 私は美しいの。でも、充一ちゃんの言ってることはめちゃくちゃだわ。冥界は地獄そのもの。憎悪が反映されやすいのよ」

「エレシュキガルさんは孤独のままずっと苦しんでいたんですよね? 俺はあなたを受け入れる覚悟があります」

「嘘よ……私と結婚したくないんでしょ?」

「俺が世界を救えないと思うなら……好きにしていいですよ」

「しゅ、しゅきにしていいの?」

「興奮しすぎだろ!?」


 捨て身の覚悟で言ってやった。

 フレちゃまは心配そうに俺を見つめているが、分かってる。

 これは駆け引きだ。


「本気で世界を救うの?」

「はい」


 エレシュキガルは何か考えているようだが、急に笑顔になった。


「あなたのプロポーズ。喜んで受け入れるわ」

「ぷ、プロポーズ?」

「魂を合体させるんだから当然よ。ネルガルならきっと同じこと言ってたと思うわ」

「じゃあ今すぐ」

「戦ってみたいわ」

「え?」

「いきなり力を与えるわけにはいかないわよ。覚悟があるならそれ相応の実力があるってことでいいのよね?」


 エレシュキガルを包み込む青紫色のオーラが漂う。


「……これが最高ランク……」


 立ってるだけで限界なんですけど。


「さあ、かかって来なさい。たっぷり可愛がってあげる」


 それから俺は――

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