【10番目の悪徳勇者編<第3章:4/4>♡ミコナの視点♡】「これが魔王娘の華麗なる大逆転劇だよ」カルラが驚愕する魔王娘の秘密とは?

「あと30分で剡弐は生まれ変わるのね。今の剡弐じゃなくなるのはツライけど、それでも一生あなたについて行くから。ん? あらぁ? エリクってば食われちゃったじゃなぁい。まあいいわ。私が勝てばいいだけ……え?」


 私はゆっくりと立ち上がり、右手に召喚したグングニルを握る。


「お遊びはここまでにしましょうか」

「どういうこと? 回復魔法は禁止なはずじゃ」

「回復魔法は使ってないけど」

「はあ!?」


 私の手が綺麗に再生していく。

 魔王族だけが持つ【魔王細胞】が活性化しているのだ。

 カルラが驚いているのも無理はない。


「まさか剡弐と同じ邪神の加護?」

「残念だけど違うわ」

「じゃあ一体……」

「治癒力よ」


 そもそもなぜ魔王が人類に恐れられていたのか。


 圧倒的な力?

 膨大な魔力?


 それらもある。


 だが最大の恐怖は「倒せないのではないか?」だった。


 魔族たちは人間と違い、回復薬を使用しない。

 魔族の体に合わないからだ。

 かといって回復魔法をむやみやたらと使うと「自分たちは使っていないのに不公平だ」と人間たちに思われたら信用に傷がつく。

 人間に内緒で使えばイイと企む魔族も多いが、それでは信頼関係が失う恐れがあった。

 そこで体内に大量の魔力を予め溜めることで【魔族特有の体質】として認められるのだ。

 ただし「1日1回まで」と定められている。

 魔族による戦争の過激化を防ぐためだ。


「魔族用の薬が開発されたら解決じゃないの?」と思われるかもしれないが、現時点ではそういった薬は生み出されていない。


「降参して」

「降参?」

「敵とはいえ殺したくはない」

「魔王娘も落ちたわねぇ。ここはデスマッチよぉ? 何がそこまで人を好きになれるのよぉ」

「ヒルダと約束したから」




 今から5年前になる。

 当時12歳だった私は魔族連盟の戦争に参加することになった。

 悪徳勇者を倒すために人類と共闘するはずだったのだが、王族が何者かによって殺されたことがきっかけで魔族連盟に疑いがかけられる。

 互いに主張は譲らず、やがて紛争が激化してしまった。


「あなたが魔王の娘ですか?」


 平原で出会った一人の少女。

 下級クラスの魔族たちを一掃している。

 私もそう。

 腕の立つ戦士たちを魔族が好む魔槍まそうと呼ばれる紫色の三叉槍さんさそうで串刺しにした。

 遺体の山を見つめた後、私は彼女の質問に答える。


「そうよ」

「ヒルダ・ゴールトンです。まだまだ騎士団見習いですが、あなたの討ち取るよう政府から命令を受けております」

「子どもじゃない」

「あなたも子どもですよね? 同い年みたいですけど」

「魔王娘に刃向かったことを後悔しなさい」 


 私はヒルダと一戦を交えた。

 確かに強い。

 だが、父の後継者である私の相手ではなかった。

 すぐにでも殺せる。

 だがなぜか彼女を殺すのが惜しいと思ってしまった。

 剣と魔法を組み合わせた技。

 無駄のない動き。

 それに私の魔術を見破り、即座に対応する。

 ……仲間だったらどれほど嬉しいことか。


「なぜ殺さないのですか?」

「楽しいから」

「ふざけないでください。私は真剣に」

「じゃあ本気で殺していいの?」

「覚悟はできてます。魔族に殺された父の仇を討つと誓いました。魔族は滅びるべきです」

「……そっか」


 私たちは戦い続けた。

 日が暮れ、そして互いに疲弊しきった。


「もうお互いに限界だよね」

「そうですね。このまま……決着つけないと」


 私はためらっていた。


「「あの」」


 同時に声が重なった。


「ひ、ヒルダからどうぞ!」

「あ、えっと……た、戦いが終わっても……友達のままでいてくれますか?」


 ヒルダの言葉が引き金だった。

 魔槍を地面に落とし、ヒルダを抱きしめる。

 彼女は驚いていたが、私の気持ちをくみ取ったのか、背中に手を回してくれた。


「ごめんね。あなたの仲間を殺しちゃって」

「いえ……私こそ、魔族の誇りを踏みにじってしまって……本当にごめんなさい」

「殺さなかったらこうして抱き合えるんだね」

「はい。もしよければ、ミコナって呼んでいいですか?」

「もちろん。これからもずっと仲良くしましょう。ヒルダ」


 母が死んでから愛情やぬくもりが欲しかった。

 だからヒルダの気持ちが痛いほど理解できた。

 戦争なんて百害あって一利なし。

 だけど戦わなければ支配されてしまう。

 この矛盾をどうにかして解決したかった。

 だから私は思う。


 人間と魔族の垣根を越えた愛を実現できれば上手くいくと。


 他者を尊重し、思いやりのある社会が実現すれば、きっと平和な世界が実現できるはず――




「くくくく」


 それを聞いたカルラは含み笑いをしている。


「何がおかしいの?」

「人間と魔族が共に幸せに生きるですってぇ? 馬鹿馬鹿しいにもほどがあるわぁ」

「あなた……」

「支配こそすべてよ。剡弐が望むなら」

「なぜそこまで十塚剡弐のことを」

「妻だからよ」

「嘘……」

「改めまして。私の名は十塚カルラよ。愛する夫のためなら何でもする。それが妻の役目。あなたも充一くんが好きなんでしょお?」

「……今はまだ充一くんに余計な気遣いをさせたくないから。それに、旦那さんの愚かな間違いに気づかないなんてあなたは相当なバカ嫁だと思うよ」


 その言葉にカチンときたのか「このメスガキぃいい!」とカルラは突進してきた。

 すぐさまグングニルでカウンターを――


「そんな槍で殺せるわけねぇだろうがぁああ!」

「な……?」


 左手が貫通しているのにもかかわらずカルラは槍を掴んだ。


「死ねぇええ!」


 顔スレスレに触れる鉤爪。

 髪の毛が数本切られて宙を舞う。

 強引にグングニルの先端を引き抜く。

 手から血が流れていてもカルラは不気味に笑っていた。


巨大爪ジャイアントクロー!」

「!」


 ズバッ……!!!!

 背後の壁を見ると巨人の爪跡があった。


空爪乱舞クローダンス!」


 私はとっさに【魔王の瞳】を発動させる。


 深紅しんくに輝く瞳。


 魔王しか扱えない秘術である。


「なるほど」


 魔力を帯びた【三日月型の爪】が無数に飛び交っており、地面や壁、柱などに突き刺さっている。

 時間経過と共に焼失するようだ。

 肉眼では見破ることはできない。


「厄介だけど私の前じゃ無力だよ」


 すぐにグングニルを回してはじき飛ばす。


「なにぃ!?」


 花火のように火花が発生し綺麗に飛び散る。

 踊り子のように舞うその動きにチャドは「なんと……美しき魔王娘の華麗なる動き……まさに圧巻です!」と興奮していた。


「舐めるなぁああ!」


 着地したカルラは突進してきた。

 間合いを詰めて私を切り裂こうとする。


「もう終わりにするわ」


 グングニルでお腹を突き刺す。


「それで倒したつもりでいるわけぇえ~?」

「だからトドメを刺すって言ってるんだけど」

「は?」


 私の周辺に赤紫色の雷がピリッと発生する。


電霆一閃でんていいっせん


 右手から赤紫色の雷光が発生しグングニルを包み込む。

 バチィイイイ!!!!!


「ギャアアアアア」


 雷鳴が轟くと同時にカルラの全身を黒く焦がす。


「あ……ああ……」


 細胞すべてを焼き尽くし、確実に死に至らせる。


「技のセンス、隙の無い動き。そして度胸。伊達に十塚剡弐の妻なだけある。だけど一つ重大なミスを犯した」


 黒焦げになったカルラの腹からグングニルを抜いた後、私は後ろを振り向いたまま静かに告げる。


「生身の人間が雷を受けて平気なわけないでしょ」


 光輝くと同時にグングニルは私の手から消失した。


「カルラァ!!!!!」


 振り向くと彼はカルラの遺体に近づき、優しく抱きかかえていた。


「おい! しっかりしろ! カルラ! 目を覚ませ!」

「……もう死んだわ」


 剡弐は私を睨み付けた。


「よくも俺様の愛する妻を……許さねぇ……ぶっ殺してやる!!!!!」

「剡弐様! 落ち着いてください! 剡弐様のお相手は零和充一です」

「うるせぇ! カルラを殺した奴を放っておくのかよ!」

「で、ですが……」

「充一もお前も殺してやる! クソが!」

 

 すると観客たちは「あんたが言うな! バカ野郎!」とヤジを投げていた。


「ミコナ様は悪くありません! 悪を成敗したんです!」

「早く零和充一は来ないのか?」

「剡弐を倒して俺たちは自由だ!」

「くたばれ! 剡弐! 俺たちの家族を殺しやがって!」


 すると、剡弐は「バカが……どいつもこいつも……」とつぶやいた。


「まずはアイツだ」

「え?」


 その瞬間、観客の一人が胸を押さえて苦しみ始めた。


「仮面野郎に頼んで正解だったぜ。アイツの力はこうやって使うべきだよなァ?」

「どういうこと? だって仮面の男は私が殺したんじゃ……」

「それよりアレをみろ」


 胸を押さえたその観客は全身から血を吹き出した。

 どうやら息絶えたようだ。


「俺様は独裁者だ。逆らう奴は死ね」

「私たちのチームは負けてないじゃない!」

「黙れ! カルラを殺した悪党が!」


 このままじゃマズい。

 剡弐が暴走したら試合どころでは……。


「ミコナ様!」


 ブリジットが近づく。

 魔法を解いたのか、巨大な樹木たちは消えている。


「ブリジット。剡弐の暴走を止めないと」

「大丈夫です! 先輩が来ました!」


 闘技場の入り口に一人の男の姿が見える。


「間に合ったみたいね」

「マントなんてありましたっけ?」

「Eランクに昇格したんだよ。きっと」

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