【10番目の悪徳勇者編<第3章:2/2>♡ブリジットの視点♡】「本気で許さない!」絵師を侮辱され、推し活をバカにしたエリクを最強魔法で制裁する!

「その発言を取り消せよ! 推し活は心の避難所なんだよ!」

「……それで?」

「わからないの? みんな生きることに疲れているんだよ! 絵師はただ絵を描くだけじゃない。みんなの疲れた心に癒しをお届けする誇り高き職業なんだ! みんなの気持ちを踏みにじるなんて許さない……。バカにするのも大概にしろ!」


 だが、エリクは反省の色が見えず「ダークメイジは偉大だ」と言って生意気に杖を掲げた。

 杖の周辺に浮かび上がる黒い紋章が禍々しく光る。


くろりゅうよ。晦冥かいめいにさまよい、罪人ざいにん地獄じごくとしたまえ」


 エリクの周囲を渦巻く黒煙。それがやがて一匹の巨大なドラゴンへと形を変える。


いのちれ。闇竜ダークドラゴン!」


 これは天魔級魔法。黒煙が自ら意志を持ち、術者の要望に応える黒魔術。

 ならばこちらは聖魔級でいくか。

 私はすぐに杖を掲げ、呪文を唱える。


玉樹ぎょくじゅなる精霊せいれいたちよ。五百枝いおえなす大樹たいじゅとなりて、万朶ばんだのごとく枝条しじょうを広げよ!」


 詠唱と共に私を中心に超巨大な幾何学模様の術式が現われる。


霊木翠蓋れいぼくすいがい!」


 術式はいわば空間転送儀式。

 使用者が魔法を扱うために必要なのは魔力と術を連携させること。

 万物すべての力を魔法で変換しそれを形にする。

 強い魔法を生み出すには相当な魔力が必要だ。


「14歳の少女がこんな魔法を……」

「言ったでしょ。私はゴッドウィザードだって」


 幾何学模様の術式から芽が生えてきた。

 すぐに木々になり、枝から葉を生やしていく。

 闘技場より遙かに高い。

 樹齢10000年以上の超大木ができあがった。

 幹の直径は10メートル。周りをグルッと回るだけでも30メートル以上もある。


「これが霊木……しかも聖魔級だと?」

「天才ですから」

「だが相性が悪い。燃やしてくれる!」


 ダークドラゴンの吐く黒い炎が霊木を包み込む。

 霊木は大量の枝を傘に変形させた。

 炎を包み込み、ゆっくりと吸収していく。


「なんだと……?」

「属性の相性だけで戦えば良いってもんじゃないよ。火があるからこそ種子がまかれて成長する。それが霊木。魔力消耗が相当激しいと思うんだけど?」


 エリクは「まだまだ」とつぶやき、「こして噴煙ふんえんとなせ! 火砕流かさいりゅう!」と唱えた。


 熱い煙が私の視界を覆い隠す。


「灰となって散れ」

「レイちゃん。やっちゃって~」

「!?」


 かっこつけて私を殺そうとしたつもりだったのだろう。

 その前にレイちゃんは枝葉を伸ばして私の体を囲んだ。


「なに……!?」


 火砕流を吸収することで葉っぱがどんどん大きくなっていった。


「霊木翠蓋は精霊を宿した木。魔力を吸収して自身の力に変えるんだよ」


 あと10秒唱えるのが遅かったら死んでた。


 それだけ火砕流は厄介なのだ。


 マグマよりマシだけど、最大100メートルまで広がる高温の煙は生身の人間が対抗できるはずがない。


 直接触れなくても飛び散った灰だけで皮膚がやけどするし、まともに喰らえば血肉を溶かし、骨を焦がすだろう。

 会場内にいる人たちを巻き込もうとした時点で相当イカれてる。


「レイちゃんは【属性殺し】の異名を持つ」

「だから何だと言うのだ! ダークドラゴン! 黒煙を吐け!」

「レイちゃん。竜血樹りゅうけつじゅだよ」


 無数の枝が大量に発生し、ダークドラゴンを縛り付ける。

 ダークドラゴンは枝に絡め取られていく。

 やがて樹木を赤く染め上げた。


「嘘だろ……俺の……切り札が……」

「樹木の偉大さだよね。漫画やラノベも木がなければ生まれなかった。紙は木から作られるからさ。大切に資源を使わせていただきます」


 フェイさんを見つめた。


「ところで独身で陰湿な非モテ男子のエリクさんに質問なんだけど」


 私は笑顔になる。


「レイちゃんと結婚してみる?」

「は?」

「霊木翠蓋の最大の特徴は【人食い】だからね。攻めは最大の防御。血肉を求めて今宵も精霊たちは綺麗な棘と花を咲かせ続ける」

「……チートだろその能力……卑怯者が!」

「あんたが言うな。バーカ。フェイさんを傷つけた罰だよ。それに絵師と推し活を侮辱したんだ。あの世でじっくりと反省しなさい」

「た、たすけ……」


 ツタがエリクをつかみ取る。

 巨大な花が口を大きく開き、彼を呑み込んだ。

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