【10番目の悪徳勇者編<第3章:3/4>♡ミコナの視点♡】「屈辱だわ……」カルラの卑怯な手により追い込まれるミコナ。しかも下着まで……。

 蹴りを食らう直前に彼女の右足を左手で受け止めた。

 革製の黒い鉄靴はとても固く、手がピリピリする。


武闘家ぶとうかなの?」

「よく分かったわねぇ」


 カルラの格好からして己の肉体を武器に戦う職種だ。

 しかも私より身長が高い。

 人間の中では脚力があるほうだ。


「さすがのあなたも下着対策はしているみたいね」


 武闘家はスカートよりもズボンを好むと聞く。

 黒のホットパンツを穿いているのはこういった動きを見せた際にチラ見せを防ぐためだ。

 下着が見えたら恥ずかしくて試合どころではない。


「剡弐以外に見せるつもりはないわよ」

「好きなんだ? アイツのこと」

「やれやれ。これだからお子ちゃまは困るのよねぇ。いい? よく聞きなさい。あたしと剡弐はねぇ」

「どうでも良いからかかってきなさい」

「……チッ。ほんと生意気な小娘ね。そこまで言うなら殺してあげる」


 私のお腹へめがけて直蹴りを決めようとしている。

 カルラの足が触れる直前に私は一歩下がった。


「ふぅん。少しはやるようねぇ」

「まともに喰らったらお腹に風穴が空くから」

「さすが魔王娘ねぇ。気づいていたのぉ?」

「魔王娘の動体視力を舐めないでね」


 武闘家はガントレットやセスタス、ナックルダスターといった手に装着する武器を好んで使用すると聞いたことがある。

 腕力に加えれば敵を切り裂くことができるわけだ。


鉤爪かぎづめ?」

「どちらもあったほうがいいわぁ」


 両手足にそれぞれ装着してあるとは。

 しかも仕込み型。

 どういう理屈なのか知らないが伸び縮みしている。

 長さが調整できるようだ。


「そのウエストポーチにも何か武器が入ってるの?」

「さあ? 確かめてみたらぁ?」


 武器の特性上、近距離戦闘なので間合いを詰めてきたところをカウンターで狙えば確実に勝てる。


 体を回転させて私を切り裂こうとしてきた。


「今だ」


 私は右手に魔力を込める。

 赤紫色にバチバチと放電した。


「天雷手刀」


 カルラの背後に着地すると同時に横へ薙ぎ払う。

 手応えは感じた。

 カルラの首は吹き飛び……私の手に着地――


「どこ狙ってるのよ」


 グサッ……。


「!?」


 カルラは逆立ちしたまま私の右手を突き刺してきた。


「首が切断されてない?」


 体幹が鍛えられているだけあって体を垂直にしたまま平然としていられるとは。


「斬られる寸前に私ごと跳び上がったのよ。武闘家だからって舐めないでくれるぅ?」


 どうやら私が斬ったのはカルラが着用していたウエストポーチだった。

 私としたことがどうやら焦っているようだ。

 冷静に振る舞ってはいるものの、フェイを傷つけた彼らに対する怒りが判断力を鈍らせる。


「ミコナ様!」


 フェイの悲鳴が聞こえる。

 彼女だけではない。

 他の観客たちも同様の反応だった。


「さあ、断末魔の叫び声を聞かせてちょうだぁい!」


 カルラはさらに体重をかけてきた。

 私の右手がどんどん根元まで奥深く挿入されていく。


「く……」

「まだ平気なの? じゃあもっと痛めつけてアゲル」


 人間だったら耐えられないほどの激痛だろう。

 魔力で痛覚を麻痺させることはできるが、消耗しやすい。

 痛みを逃れても戦うために魔力を使わなければ意味がなかった。

 こうなったらアレを使うしかない。


「これで抜けられないわぁ。それじゃもう片方の手も串刺しぃ」


 ズブリ……。


「ミコナ様!」

「やった! やったわぁ! これで魔王娘の両手が使えな――あら? いない」


 私はカルラの周囲を回り続ける。


「高速移動ぉ?」

「魔王娘を舐めると痛い目見るよ」

「でも右手がちぎれてるじゃなぁい。そんな手で戦えるとでも思ってるのぉ?」

「左手があるわ」


 カルラの目では私の動きは追いつけない。

 次は背後を狙う。


「!?」


 ふと体に異変が起きた。


「……あ……れ?」


 そのまま地面に転げ落ちる。

 突然の状況に頭が追いつけず、私は目を大きく見開いたまま激しく呼吸をした。


「……これは……まさか……」

「アハハハ。かっこつけてるみたいだけど、ちゃぁーんとを打っているのよぉ」


 カルラは余裕の笑みを浮かべて私を見下ろしている。


「痺れて動けないでしょぉ? 私の爪は痺れ薬を塗っているの。それにぃ~魔王娘って普段どんな下着穿いてるの? チェックしちゃいまーす。あらやだぁ。見た目によらずエッチなパンティを穿いてるのね。お客さんみんな興奮しちゃうわよぉ」


 私は四つん這いのまま醜態をさらしていた。

 足が震えてしまい立ち上がれない。

 屈辱だ。魔王娘ともあろう私が……こんな恥ずかしい体勢を……。


 チャドさんは「これは嬉しいハプニングです! 男たちを惑わすそのはしたない姿……これは魔王娘のファンが急増かぁ!?」


 観客たちの中には「うおお見えたぞ!」「魔王娘が薄い布地のパンティを穿くとかエロすぎ!」「生きててよかったぁ!」など品のない会話が聞こえていた。


「潔く負けを認めなさいよぉ。パンティ丸見えのミコナちゃんっ」

「舐めてるわね」


 カルラにまだ魔王娘の秘密について気づかれていない。

 

 タイミングを見て発動するしかないようだ。

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