【10番目の悪徳勇者編<第3章:2/4>♡ミコナの視点♡】「必ず皆さんを救います!」戦いに勝たなければ東区の住人、全員皆殺し!?

「ご来場の皆様! 長らくお待たせしました! 十塚剡弐主催のデスマッチ! 見る者すべてを魅了する血湧き肉躍る試合をとくとご覧あれ!」


 大勢の観客たちで埋まっている。

 闘技場は天井が無く、満天の星空が広がっていた。


「今回のアナウンスを務めさせていただきます! チャドと申します! 最新の技術により、会場の皆さんに声が届くような仕掛けになっております」


 チャドが手にしているモノは一体何だろう?

 会場内に彼の声がこんなに響き渡るとは。


「アレはマイクと呼ばれるものです」

「マイク?」

「日本から輸入された技術を用いて作られたそうですよ。さっきもカラオケって呼ばれるお店があったんです。まだ行ったことないですけど」

「カラオケって何を楽しむの?」

「ソルネール王国で有名な人気歌手が提供した音源をマイクで歌うんです。ストレス発散にピッタリですよ」


 充一くんがいた国の技術に驚かされる。


「時計台のライトアップといい、会場内の照明といい、みんな異世界から持ち込まれたモノなんです。あの審査員が着てる服もそうですよ」


 チャドの服装はスーツと呼ばれる衣服らしい。

 悪徳勇者が来てからソルネール王国をはじめ、他の国々も急激な進化と経済成長を遂げたのは間違いない。


「おっと! 我らが誇る偉大なるスターたちが現われました。会場の皆様! 大きな拍手を!」


 大きな観音扉が開き、そこから白煙と共に3人の姿が現われた。

 中央を歩くのは剡弐。

 一歩後ろに下がったところにカルラとエリクが追う形でこちらに近づく。

 カラフルな色合いの照明が彼らに向けて照らす。

 カルラにいたっては場内に向けて手を振りながら投げキッスをしていた。

 実に不愉快である。

 隣にいるブリジットは「何がスターなんですかね。悪党の間違いでは?」と呆れた表情でつぶやいていた。

 しかも驚くことに、場内から爽快な音楽が流れているのだ。

 古い歴史を誇る闘技場なのに近代的な技術と魔法が組み合わさっていた。


「どうやら11番目の勇者様は後から参加されるみたいです」


 観客席からは「どうせ来ねぇよ」「剡弐様に勝てるはずがない」「何が真の勇者だよ」と罵詈雑言の嵐だった。

 魔力を耳に集中させれば遠く離れた相手の声も聞き取れる。


「奴らはただの盛り上げ役です。気にしないでください」

「わかってるわ」


 チャドは続ける。


「ルールについて簡単にご説明します! 1対1のデスマッチ。武器および道具の使用はアリにします。ただし、仲間の手助けは禁止です! 私からも警告を出しますが、それでも助けた場合、失格といたします! さらに、今回の試合ですが、充一様チームが敗北した場合、場内にいる皆様には申し訳ないですが死んでいただきます」

「なに!?」


 会場はざわつきはじめた。


「救えない命は削るべし! これこそが他者の命を賭けた正しいデスマッチなのです!」


 その言葉に多くの観客たちが唖然としていた。


「剡弐様……何を……」

「剡弐様は俺たちのこと何とも思っていないんだな……」

「所詮、奴隷だもん」

「死にたくない……助けて……ミコナ様!」


 彼らの悲惨な声が聞こえてきた。


「罪の無い人たちを苦しめて何が楽しいの?」

「そりゃ人が苦しんでる姿を見るとスッキリするだろうよ」

「外道が!」

「魔王に言われたくねぇよ。バーカ」


 これは責任重大だ。


「まずは前座ということで組み合わせを発表していきます!」

 

 会場の壁際に浮かび上がる巨大な魔法掲示板。

 会場内の観客たちにも見えるように大きく表示されていた。


【ミコナVSカルラ】

【ブリジットVSエリク】


 時間の関係上、同時に試合が開始されるようだ。


「あれ?」


 ヒルダとフェイは客席にいる。

 正体を隠すためにヒルダは舞踏会に使われそうなマスクをしていた。


「あれで変装しているつもりかな?」

「ちょっと天然な一面がありますがそこが可愛いんです!」


 すると剡弐は「おいチャド。ルール追加だ。魔王娘だけ【半殺し】か【敗北を認めさせたら負け】にしろ」と注文してきた。


「どうして?」

「8番目に高値で売るためだ。妻にしたいらしい」

「……あなたがなぜ勇者失格なのか分かった気がする」

「こっちにも事情があんだよ。やれ」


 剡弐はカルラとエリクに視線を配る。

 と、同時だった。


「ミコナ様!」

「!?」


 私の視界を遮る影。

 それがカルラであることを認知した時にはすでに耳元に風を切る音が聞こえていた。


 パァン!!!!!


 軽快な音が場内に響き渡る。


「おっと! カルラ選手! ミコナ選手にハイキック炸裂!」


 左耳に向けて直撃。

 確かに早いけど……。

 

「あら? 手応えがあったと思ったのにぃ」

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