【10番目の悪徳勇者編<第3章:2/2>💀十塚剡弐の視点💀】「コイツ……強すぎる……」9番目VS10番目の対決。剡弐が悪徳勇者になった理由とは?

「『神との戦争に協力してほしい』と主様はおっしゃってますよ」

「!?」


 男の声が聞こえていた。

 印象的なハスキーボイス。

 どうやら本体が仮面の男を通してしゃべっているようだ。


「断る。俺様は悪徳勇者になるつもりはねぇよ。魔王娘を倒さなければならないからな」

「『今の魔王軍は世界政府と同盟関係だが?』と主様はおっしゃってますよ」

「魔王娘を嫁にしたい野郎共はいるだろ。そいつらに奴隷として売り物オークションに出すんだよ」

「『金のためなら何でもするのか。勇者失格だな』と主様はおっしゃってますよ」

「妻を養うためには金がたくさん必要なんだよ。勇者なのに報酬が少な過ぎる。生活が苦しいんだよ。気にくわないなら返り討ちにしてやるからさっさと8番目を呼んでこい!」

「『それはできない。なぜなら私はリア充が嫌いだからだ』と主様はおっしゃってますよ」

「舐めてんのかお前」

「『その代わり、9番目を連れてきた。存分にやられたまえ』と主様はおっしゃってますよ」

「9番目?」


 現われたのは子どもだった。

 少年? 少女? 髪の毛が長いため、性別が判断できない。

 剡弐と同様、マントを着用している。

 細い。そして小さい。160㎝すらないだろう。


「はじめまして。九条です。あなたと同じ元日本人だよ」

「本当に悪徳勇者なのか?」

「うん。1番目からダークパワーをいただいたからね」

「なんだそりゃ?」

「世界を支配する偉大な力だよ」

「馬鹿馬鹿しい。そんな力で世界が支配できるなら苦労しねぇんだよ」

「よほど日本に住んでいた時に苦しい思いをしたんだね。元総合格闘家さん」

「うるせぇよ! 努力家舐めんな」

「まあいいや。あなたが悪徳勇者にならなかったら充一くんが転生できないみたいだし」

「充一だと?」

「知りたければ3人同時にかかってきなよ」

「舐めてんじゃねぇぞ! クソガキ!」


 だが敗北した。

 九条の力に剡弐たちは歯が立たなかった。


「何この子の能力……」

「見たことがない……黒魔術には無い力だ……」


 九条は無傷だった。

 しかも服に汚れ一つ付いていない。

 圧倒的な実力差を目の当たりにした。


「『九条くんでこの強さだ。我々に刃向かうとどうなるか分かったかな?』と主様はおっしゃってますよ」


 だとしたら、1番目はどれほどの実力なのだろう。

 勝てるビジョンが全く浮かんでこない。


「『悪徳勇者になれば今より強くなれる。仲間と共に新たな伝説を残すことができるだろう』と主様はおっしゃってますよ」

「本気で言ってるのか」

「『信じなさい。悪徳勇者は世界を支配できる。1番目の偉大なる力を使えば恐れ知らず。自由にビジネスができるだろう』と主様はおっしゃってますよ」


 それから勇者の道を捨てた。

 冒険者協会から「裏切り者」と罵倒されたがどうでもよかった。




「九条さんとの再会はまた今度にしましょう。おや? 何やら会場が騒がしいですね」


 この位置からでもよく見える。


「歴代最強の魔王娘だ!」

「まさか本物に会えるなんて!」

「神絵師にして最強と名高いゴッドウィザードのブリジット・ローレンスも!」


 会場は大盛り上がりだ。


「オイ」


 剡弐は目を疑った。


「アイツは?」

「変ねぇ。本来なら来てるハズなんだけどぉ」

「後から来るのだろう」

「のんきなこと言ってる場合か。アイツが来なかったら俺様の……」

「どうされましたか?」


 仮面の男の前でコレを話してはマズい。


「何でもねぇよ。ま、どうせ来るだろ」


 久しぶりに充一に再会してハッキリした。

 アイツは何も分かっていない。


「俺様が死んだ本当の理由は……」


 ふとあの記憶が脳裏に浮かんだ。


「どうして世界チャンピオンになる夢を諦めたんだ」


 夢なんて……。


「おい八神やがみ、聞こえるか」


 剡弐は椅子から立ち上がる。


「零和充一を悪徳勇者デビューさせるのはこの俺様だ。手柄を取るからな」

「『手柄を取るのは別に構わないが、ナンバー2の座は譲らない』と主様がおっしゃってますよ」

「舐めてんのかお前。2番目や3番目がどれだけヤバい奴らなのか知ってるだろ」


 強さこそが正義。

 弱者は死ぬか強者に従うだけだ。

 弱い人間に人生を選ぶ権利はない。



「弱い選手しか相手にしないくせに何が無敗の記録保持者なんでしょう?」

「だから傷害事件を起こしたんだろ。殴られた相手……雑誌記者だぞ」



 ドン!!!!


 椅子を蹴り飛ばす音にカルラは「ど、どうしたの?」と慌てている。


「嫌なことを思い出しただけだ」


 ――ワタシノコエ……キコエ……ル?


 まただ。


 たまにオルガの声が脳内に聞こえるのだが、コイツのふざけた声真似にはうんざりしていた。


「なんでその声なんだよ。悪鬼の分際が」


 ――チガウ……ヨクキイテ……。


「黙れ。お前は俺様が転生した時に手に入れた力だ。おとなしく言うことを聞け」


 0時10分。

 あと1時間以内にオルガの力を全て引き出さなければならない。


「悪く思うなよ。1番目」


 充一を悪徳勇者デビューさせるのはあくまでも二の次。

 本当の目的は【1番目の呪縛】から逃れるために禁断の儀式を行うことだった。


 だからアイツらを闘技場へ呼ばなければならなかったのだ。


「行くぞお前ら」


 大剣を背中に背負い、特別室を後にした。

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