【10番目の悪徳勇者編<第3章:1/2>💀十塚剡弐の視点💀】「魔王娘に殺されたのは【別個体の私】ですよ」仮面の男の正体判明。剡弐でさえ驚く。

「もうすぐか」


 薄暗い会場内が次第に明るくなった。

 血の祭典に会場は大盛り上がり。


【10番目の勇者VS11番目の勇者】


 この見出しだけで新聞は即完売。

 内容は以下の通り。


 圧倒的な力を誇る10番目の勇者といえば十塚剡弐だ。

 悪徳勇者になってからもさらに勢力拡大。

 東区最大都市イーストマルシェタウンを支配すると宣言。

 政府が関与できないこの危機を止めるべく、異世界から最後の切り札が現われた。

 彼の名は零和充一。

 若干17歳の美少年にして世界を託された若き勇者は果たして十塚剡弐を倒すことができるのか?


「話題持ちきりでしたよ。しかも主催者があなただとは」

「奴隷たちがいるだけで闘技場は盛り上がれるしな」

「よく言いますね。彼らの家族や恋人、大切な仲間たちを殺したのはあなたではありませんか?」

「俺様に刃向かったからいけねぇんだよ。だから闘技場で返り討ちにしたんだろうが」


 展望席は見やすい。

 長椅子に腰掛け、足を組んだまま隣に座る男と会話していた。


 相変わらず薄気味悪い仮面を被っている。


「零和充一さんを悪徳勇者にさせた上で自分の強さを改めて民たちに知らせる。しかもちゃっかり金儲けまでするとは。剡弐さんは見た目によらず意外に考えてますね」

「あ? そりゃどういう意味だよ。プロモーターって言えよそこは」


 格闘家だった頃の経験がこうも活かせるとは思わなかった。


「魔王城を襲撃したのは別個体のお前なんだろ」

「さすがの魔王娘も私の正体について気づいていなかったようなので」

「8番目の能力はえげつないな」


 魔王城をアレで爆破させるとは。

 人類が生み出した世界最悪の破壊兵器。

 独自にアレンジして作ったとされる。

 被爆の心配はないらしい。

 しかも正体不明のコイツらを使って世界を監視するよう、1番目に指示されている。

 充一がすぐに転生したのが分かったのもコイツらのおかげである。


 さらに言えば、新聞記者になりすまして情報を発信することも可能だ。


「ところで九条くじょうさんは?」

「アイツがどうした?」

「彼も東区にいらっしゃるんですよね?」

「こんな人混みが多いところへ来ると思うか?」

「確かにそうかもしれませんね。ですが、神絵師のブリジットさんが参加されるので必ず来るのではないかと思ってました」

「正直言ってそっちの文化はよくわかんねぇ。ってか俺様より強いのが一番納得がいかねぇ」

「お前が言うな仮面野郎」


 8番目、9番目、そして10番目。

 悪徳勇者たちの中では最弱組と揶揄される3人。

 納得がいかない。

 3人だけでも十分に小国を落とせるというのに。




「お前で最後だ。10番目の勇者。もうこれ以上アマナ様を裏切りたくない。1番目よ。なぜそこまでして11番目にこだわるのだろう? しかも肝心な11番目を私ではなくジークフレイヤにやらせようと仕向ける理由が知りたい」


 気がつけば暗闇に包まれた世界にいた。

 ついさっき大型トラックにはねられていたはず。


「悪徳勇者というのは理不尽だ。私を何だと思っているのだ」


 男の低い声が聞こえている。


「誰だ? 姿を見せろ」

「悪いがそういうわけにはいかない。私は人間と違い、この世界をすべて知り尽くしている」

「人間じゃないだと?」

「転生の神ということにしておいてくれ」


 暗闇に浮かぶ巨大な手。大きさにして2メートルほど。

 巨人か何かか?

 だが顔がわからない。あるのは両手だけだ。

 右手が剡弐を指差す。


「お前は今から勇者だ」

「はあ!? 勇者だと?」

「そうだ。この世界を救ってみろ。ついでに1~9番目の悪徳勇者を全員殺してくれ。もう利用されっぱなしはこりごりだ」


 まさか勇者になれるとは思わなかった。

 ソロでも活躍できる。

 人に感謝される人生。

 悪くなかった。


「ねぇそこの素敵なお兄さん。よかったら私たちと一緒にパーティー組まなぁい?」

「名前は?」

「カルラよぉ。こっちはエリク」

「どうも」


 3人で冒険した。毎日が楽しかった。

 敵を倒す快感。クエストをこなす充実感。何もかもが満たされていた。


「カルラは結婚するのか?」

「したいけど私みたいな強い女って誰からも相手にされないのよね」

「もし俺様でよかったら……結婚しねぇか?」

「え? いいの? うれしい! もちろん喜んで!」

「エリクにもいい女を見つけてやるから」

「……どっちでもいい。だがおめでとう」


 だが悲運は突然訪れる。

 魔王城へ行く直前のことだった。

 剡弐たちの前に仮面の男が現われる。


「8番目の弟子だと?」

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