【10番目の悪徳勇者編<第3章:1/1>💀9さんの視点💀】「充一くんに会いたかったな。だって君のことが……」

「早く充一くんに会いたいな」


 9さんはミコナたちの後ろ姿を目で追う。


「かつてオンラインゲームで共に過ごした戦友同士。おとむすである僕を受け入れてくれた優しきイケメン。引きこもりの不登校少年同士だからこそ、お互いに悩みを打ち明けることができた。いわば大親友。充一くんは僕のことを友達だと思っているかもしれないけど、僕は本気だからね」


 サイン色紙を胸に抱き、9さんは星空を見上げる。


「だけど今は敵同士。充一くんを悪徳勇者にさせることを条件に彼を夫にする。それが1番目との約束。あの能力がある限り僕は女の子になることができるからね。だから近づいてまでミコナに仕掛ける必要があった」


 思い出しただけで腹が立ってくる。


「充一くんとベッドで……き、キスを……」


 唇ではないだけまだマシだった。

 それだったらとっくに発狂していたし、あの部屋でカルラとエリクも巻き込んで充一くん以外全員殺していた。

 額だろうがしてはいけない。

 どうせ、勇者様と結婚すれば玉の輿を狙えると思っているのだろう。

 やましい女だ。

 仮面の男から事情を聞いたから分かる。

 魔王城が崩壊しようが、魔王軍が壊滅しようが、ミコナは充一くんに恋する憎き女なのだ。


 ああいう勘違いしている泥棒猫は排除しなければならない。


「憎い……憎い……ああ憎い!」


 周りの人たちの視線を感じる。

 十塚剡弐にとやかく言われそうだ。

 趣味も価値も合わないザコでも同じ悪徳勇者として彼の試合を見届ける必要がある。


「大丈夫? あの子」

「フラれたのかな?」

「かわいそー」


 どいつもこいつもクズしかいない。


「なあなあお嬢ちゃん。よかったら俺たちと遊ばね?」

「可愛がってやるよ」

「奴隷になりたい? 調教してやりたいなぁ。ぐへへ」

「……へえ、僕と遊んでくれるんだ?」


 しっかりと対象者の目を見る。

 これで準備完了。

 彼らの運命は決まったも同然。


「おいどこへ行くんだよ」


 彼らの後ろへ通り過ぎながらこう言った。


「うるさいなぁ……グチャグチャになって死ねよ」


 背後で聞こえる3人の悲鳴。


 骨が折れる音と血しぶきが聞こえる。


「な、なんだ……?」

「どうなってる!?」

「さっきまであの3人普通にしゃべっていたよな?」

「あの子がやったのか?」

「でも何もしてないぞ」

「そうだよ」


 通行人たちに向かって告げる。


「何もしていない。だから僕は悪くない」


 これが能力。


 予め仕掛けておけばいつでもどこでも簡単に発動できる。


「ダークパワーを使ったらもっとすごいんだろうなぁ」


 1番目が与えてくださったこの力がある限り、ミコナのくだらない愛をぶち壊せる。

「充一くんは絶対に渡さない……僕だけの王子様……歴代最強の魔王娘でも僕に勝てない。イチャラブした罪は大きい! 覚悟してよ! ミコナ!」


 救護室は管理が手薄だ。

 壁に穴を空けてまで隣の部屋から彼らの様子を監視していたなんて誰も思うまい。

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