転生したら11番目の勇者だった~先に転生した10人のチート級の悪徳勇者たちに全て奪われたので歴代最強の魔王娘や仲間たちと共に世界を取り戻す~
【10番目の悪徳勇者編<第3章:1/4>♡ミコナの視点♡】「9さん?」闘技場へ向かう途中、突如出会った謎の美少年(男の娘:おとむす)に出会う。
【10番目の悪徳勇者編<第3章:1/4>♡ミコナの視点♡】「9さん?」闘技場へ向かう途中、突如出会った謎の美少年(男の娘:おとむす)に出会う。
東区のとある一角にナイトタウンと呼ばれるエリアがあった。
歓楽街として有名で、ナイトスポットといえばここらしい。
バーやクラブ、カジノ、ショッピングなどがあり、ナイトライフを満喫できる。
しかし、十塚剡弐がこの区域一帯を支配してから治安が悪くなったそうだ。
スリやぼったくりといった軽犯罪が当たり前らしい。
老若男女年齢問わず、多くの男女が欲望をむき出しになるのも【出会い】あるいは【快楽を貪るための場】に利用されるからだそうだ。
しばらく歩いていると、ヒルダは「ここです」と指をさした。
ナイトタウン最大の闘技場【スペクタクル・アリーナ】
かつて世界中から多くの戦士たちが集まり、1位を決めるために争っていたのだという。
その歴史は長く、1100年前に遡るらしい。
「運営者は十塚剡弐に経営権を譲ったんですよ」
「どうして?」
「衰退を防ぐためです。昔は盛り上がっていたみたいですけど、今の若者は殺し合いよりも【ゆるふわ】や【ほのぼの系】が疑似体験できる漫画やラノベのほうが好きなんです」
「スローライフも最近流行ってますよね」
ヒルダ曰く「冒険者協会もスローライフブームに乗っかって気軽に冒険を楽しむための道具やサービスを提供している」のだそうだ。
「闘技場の存続のためには悪徳勇者に頼るしかないってことね」
「悪徳勇者に支配されてしまえば『彼らのせいだ』と言い訳ができますから」
「ほんとふざけてるわ」
巨大な時計塔がある。
ソルネール王国のランドマークタワーとして有名らしい。
時計台には巨大な鐘が設置されている。
文字盤に向けて光が放たれており、明るくて見やすい。
「もうすぐ23時です」
「いよいよね」
その時だった。
「あの、すみません」
「!?」
後ろを振り向くと、見知らぬ人間がこちらを見つめていた。
「誰?」
「知り合いですか?」
黒一色のローブ姿。
フードを被っているせいか、顔がよく見えない。
ガス灯に照らされているため不気味だった。
「まさか仮面の男じゃ……」
「なんですって! オイそこの怪しい人間! ミコナ様に近づくな! 何者か答えろ! 返答次第では生かしておけない!」
フェイがフードを被ったその人物を睨み付ける。
「落ち着いてフェイ」
「十塚剡弐のことです。おそらく、私たちに奇襲をかけて弱らせようと企んでいるのでしょう。なんて卑劣な連中だ! 許しません!」
「ち、違います! ぼ、僕は……怪しい者ではありません」
「証拠があるのか!」
「無いですけど……僕がここへ来たのはブリジットさんにお会いしたくて」
「私ですか?」
「ほ、本物だぁ!」
ブリジットの両手を握って上下に振っている。
その勢いでフードが外れ、素顔が晒された。
「お、おじさんじゃない……?」
「え? ああ、僕これでも17歳ですよ」
美しい顔立ちだ。
腰まで届く黒髪のロングヘア。
薄紫色の瞳。
美白の肌はとても綺麗だ。
女の子? それとも男の子?
声は男の子っぽいが、充一くんと比較すると高めのボイスだ。
女性に近い声色をしている。
充一くんと同じ世界から来た人なのだろうか。
「日本人ですか?」
「え?」
どうやら違うようだ。
「ブリジットさんのファンでして、いつも漫画やイラストを楽しんでます! 応援してますよ!」
「そうだったんですね! ありがとうございます!」
「騙されてはいけませんよブリジット様。どこかに刃物を隠し持っているかもしれません」
「大丈夫だよフェイさん。ゴッドウィザードの勘は当たるんです。この方は絵を愛する素晴らしい人だと!」
「本を売りたいだけですよね?」
「ヒルダも怪しむの? あなたは私のファンなんですよね?」
「もちろんです! 推しに会えて嬉しい……あのぉ~サインいただけますか?」
「喜んで!」
ブリジットは色紙とペンを受け取った。
「せっかくなので私の秘伝のサインペンを使って書いていいですか?」
「え? イイですけど」
「手に馴染みのあるサインペンのほうが綺麗に字が書けるんですよ」
そう言って懐から取り出したのは高級そうな羽根ペンだった。
プレミアムなのか、そこら辺には売ってなさそうな特別感がある。
しかも微力ながらペンから魔力を感じた。
「名前はなんて書いたらいいですか?」
「9さんでお願いします」
「9さん?」
「すみません。本名は無理なんです」
「いいですよ」
ブリジットが書いたサイン色紙を受け取り、9さんは飛び上がっていた。
「世界でたった一つのサインです。できれば……大切に保管してくれると嬉しいです」
「何を言ってるんですか! ファンにとって推しのサインは宝物ですよ! 一生大切にします! ありがとうございます! あ、それと……」
私の目を黒い瞳が覗き込んだ。
一瞬、魔力か何かを感じたが気のせいか。
彼(?)は笑顔になる。
「『ついにお互いの夢が叶いましたな! じゅーいち殿』と彼にお伝えください!」
「え?」
「それじゃまた!」
何度も頭を下げた後、遠くへ去っていった。
「あのペンに何か秘密でもあるの?」
「気づきました? おまじないです」
「おまじない?」
「お守り……といったほうがいいですかね。私たちにとって敵か味方かであの子の運命が変わるかもしれません」
「運命?」
「一種の禁術です。できれば発動してほしくないですけど」
「それって法律違反じゃ」
「大丈夫ですよ。ファンなら問題無く彼女は過ごせます。それどころか良いことばかり起きますので」
「なら良いけど」
「それにおとむすなことにびっくりしました」
「おとむす?」
「男の娘と書いてオトコノコとも呼ぶらしいです。呼び方が新しく変わったらしいので、ソルネール王国ではおとむすで浸透されていますね」
「男なんだよね?」
「男なのに女性の格好をしまして、身も心も女の子なんです」
「身も心も……」
「あんなに可愛い子が……? 人間って不思議な生き物です」
私はともかく、フェイまで驚愕している。
「なので彼というより彼女になりますね。いやぁまさかこの私にもファンができちゃうなんて嬉しいです。ん? ミコナ様?」
顎に手を当てたまま私はつぶやく。
「……さっきじゅーいち殿って言ってたよね?」
「充一様のお知り合いですかね?」
「それならおかしいですよ。先輩は二日前にこの世界へ転生したんですよね? 会えるはずないですよ」
「悪徳勇者だったりして?」
「まさかぁ~私のファンですよ? 良い子しかいませんって。仮に敵だったら大丈夫ですよ。さっき言った禁術が発動するので、私たちのこと守ってくれますよ」
「ならいいけど」
正直、今もゾッとしている。
みんなは気づいていないけど、私だけ異様な気配を感じ取っていた。
笑顔の裏に憎しみを抱いているようなおぞましい視線。
まるで恋敵に対する殺意だった。
「ミコナ様、ブリジット様ですね?」
会場の入り口に一人の男性が立っていた。
「あなたは?」
「案内人のリドリーと申します」
深みのある渋い声で丁寧にお辞儀してきた。
白髪で白髭を生やしている。
燕尾服を着用しており、物腰が柔らかそうな印象を受けた。
黒い革靴をコツコツと鳴らして私たちに近づく。
「ところで零和充一様は?」
「後から来ますよ」
「そうでしたか。十塚剡弐様からお話は伺っております。今宵、我が闘技場でどうか客人たちをもてなしてくださいませ」
「……あなたが運営者だったのね」
リドリーは背中を向け「これも存続のためです」と静かに告げた。
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