【10番目の悪徳勇者編<第3章:2/2>♡大妖精フェイの視点♡】「なんだ……こいつ……」仮面の男、フェイを瀕死まで追い込み……そして裏切らせる。

「何か気づいたの? ちょ、きゃああああ!」

「ぐ……うう……」


 フェイを中心に突風が発生した。

 周辺の木々が激しく揺れ動き、カルラとエリクを遠くへ吹き飛ばす。


「あとはアイツらだけ」


 カシラと剡弐、そして仮面の男を発見した。


「驚いたぜ。まさかたった一人でここまで戦えるなんてな」

「おれの部下がほとんど死んじまったぜ。ま、ゴミはいくらでも集められるけどよ」

「ひどいですね。これが山賊の運命ですか」


 フェイは一歩ずつ前進する。

 ミコナ様のご期待に応えるため。


「魔王軍の親衛隊隊長として必ず勝ちます。どうか、私のことを見守ってください」


 だが事態はさらに悪化した。


「……なんだ……こいつ……」


 フェイはその場で倒れた。

 口元から血が溢れる。

 強引に手でそれを拭うも痛みのせいで全身に倦怠感が襲う。


「この私が……ここまで……追い込まれるなんて……」


 カシラは弱すぎて敵ではない。

 カルラとエリクは戦闘不能。

 剡弐も本気を出してはいないとはいえ、彼に勝てる自信があった。


 だがこの仮面の男は一体何者だ?

 奴の持つ剣に仕掛けがあるのか?


 剣先に触れただけで爆発する。

 炎系の魔法にしては初めて見た。


 ただの爆弾ではない。


 異世界から持ち込んだ技術か何かか?


 周囲の森は焼け野原になっていた。


「主様のためとはいえ、私もちょっと遊んでしまいました」

「ったく、破壊兵器の分際で俺様の手柄を横取りしやがって」

「ですがこのままではフェイさんに負けていましたよ?」

「悔しいがそれは認める。コイツは俺様よりも強ぇよ。いや相性が悪いって言ったほうがいい。9番目のアイツと良い勝負ってところだろ」


 9番目……?


「確かにそうかもしれませんね。主様の前では瞬殺されるでしょうけど」

「ったく、どいつもこいつもチート過ぎるんだよ」

「仮に悪徳勇者連合を打ち負かせるとしたら11番目の勇者になるんでしょうかね?」

「充一だろ? 本当に転生するのか?」

「もちろんです。そのために色々と手を打ってます。全ては1番目のご意志なのです」

「アイツなんかのために……だが、それ以上のメリットはあるからな。めんどくせぇけど任務は果たすしかねぇぜ」


 彼らの会話から聞く限り、11番目の勇者がもうすぐ転生するようだ。

 まだ増えるというのか?

 どうせ十塚剡弐みたいにすぐに悪徳勇者になるに違いない。

 これ以上、あなたたちのせいでこの世界をめちゃくちゃにしないでほしい。


「勇者なんて嫌いだ! 死ねばいいのに!」

「勝手に思ってろ。支配してやっからいっぱい苦しめ」

「くそ……」


 このまま無意味な抵抗をし続けるべきではない。

 全ての力を解放したところで憎しみが増すばかり。

 故郷を守るどころかかえって迷惑をかけてしまう。


「……お母様。こんな娘をお許しください」


 フェイはゆっくりと立ち上がり、両手を挙げた。


「何の真似だ?」

「降参します。これ以上故郷をめちゃくちゃにしないでください。その代わり私の命を差し出します。奴隷なり、殺すなり、売るなり、好きにしてください」


 もうこれしか選択肢はなかった。

 ミコナ様に会えないと思うと申し訳ない気持ちになる。

 せめて別れの挨拶だけでもしたかった。


「仲間にしてぇな」

「駄目よ。私がいるんだから」

「エリクの嫁にしてやろうと思ったんだが」

「あーそれもいいわね。どう? エリク」

「……好み。調教して奴隷にしたい。どうせ大妖精は強い者に媚びる娼婦しょうふに過ぎない」


 エリクの気持ち悪い笑みに沸々と怒りが湧いてきた。


「ふざけるな……これだから勇者もその仲間も信用できないんだ」

「おいおいさっき自分で好きにしてイイって言ったじゃねぇか」

「女はね気持ちが二転三転するのよ」

「お前が言うな。カルラ」

「てへぺろ」


 憎い。

 勇者が憎い。

 人間が憎い。

 愛なんてどこにもないではないか。

 心を喰らい尽くすこの憎しみをどう受け止めればいいのだ?

 本当に理不尽過ぎる。


「1番目の意志を守ったほうがよいのでは?」

「それもそうだな。だったらフェイはお前に任せる。仮面野郎」

「了解です。フェイさん。早速ですが、故郷を守りたいのでしたら魔王城へ私を連れて魔王軍を壊滅させるお手伝いをしてください」

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