【10番目の悪徳勇者編<第2章:7/7>■零和充一の視点■】「剡弐に……勝てない……」悪徳勇者を倒せるのは【真の勇者である充一】だけ。その衝撃の理由とは?

「邪神の加護だ」

「なにそれ」

「ダークパワーの一つでな。真の勇者以外のすべての攻撃を完全無効化する。つまり俺様を倒せるのは充一だけだ」

「はじめて聞きましたよ。このゴッドウィザードである私が知らないなんて」

「1番目が独自に編み出したチート能力らしいぜ」


 チートというレベルではない。

 もはや神そのものではないか。


「魔王城を守るためとはいえ、今まで城から出ずによくもまあ悪徳勇者俺様を倒せると思ったな? 世間知らずは良くないぜ」

「そんな……」

「充一以外で殺せるならわざわざコイツを転生させないだろ。仮に俺様を追い込んでも殺せなかったら意味ねぇよ」

「1番目の勇者って何者なの?」

「だから教えねぇって言ってんだろ。それより」


 剡弐は俺を見下したまま告げる。


「お前が悪徳勇者になればここにいる冒険者たちを奴隷にしない。どうだ? 良い案だろ?」


 周囲はざわつき始めた。


「騙されないで! 充一くん!」

「だそうだ。なあ大妖精」

「……」

「フェイ?」

「魔王娘って人望がないんだな。行くぞお前ら」

「待ちなさい! く、今は充一くんが優先ね」


 彼らの笑う声だけが協会内に静かに響き渡った。


「充一! しっかりしろ!」

「今すぐ救護ハウスへ!」

「フェイ。あなたに聞きたいことがあるわ。十塚剡弐とどういう関係なの?」

「……も、申し訳ございません!」


 フェイは土下座していた。

 涙を流したまま何度も何度も頭を下げている。


「落ち着いて! 怒らないから。ちゃんと話して」

「じ、実は……十塚剡弐と仮面の男に弱みを握られておりまして……それで、魔王軍を壊滅させるためのお手伝いをしていたんです」

「なに……?」

「嘘……でしょ……」

「私が異世界に行くタイミングを狙ってやったのか?」

「だってそうしなかったら……フレちゃまが仮面の男を返り討ちにするかもしれないし……」

「ふざけるな! 自分が何をしでかしたのかわかっているのか!」

「わかってるよ! 何も知らないくせに偉そうに言わないでよ!」

「なんだと!」

「フレちゃま落ち着いて。フェイはどうして私のこと殺そうとしなかったの?」

「違います! 私は……ミコナ様とフレちゃまだけは……」


 フェイが裏切り者?

 いやそれより俺は何をしていたんだ?

 せっかくアマナ様と契約を交わして力が手に入ったのに何もできないじゃないか。


「泣くな! シャキッとしろ! それでも勇者か! 馬鹿者!」


 フレちゃまの言葉に俺はカチンときた。


「うるさい」


 俺は何度も拳を床にたたき付けた。

 血が滲み出るほど……手の感覚が無くなるほど……何度も何度も!


「止めてください!」


 ヒルダに手を掴まれる。

 とっさに俺は叩くのを止めるが、同時に虚しさがこみ上げてきた。


「どうしてこんなことを」

「俺の気持ちなんて誰もわからないもんな……」


 涙声で……しかも、みっともない姿を公共の場でさらけ出していた。


「これが11番目の勇者?」

「弱くない?」

「十塚剡弐に従ったほうがいいんじゃ」

「やっぱり力がすべてなんだよ」

「期待外れだろこいつ」……など。


 引きこもりの不登校少年が勇者になるなんて幻想だったのかもしれない。

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