【10番目の悪徳勇者編<第2章:6/7>■零和充一の視点■】「悪徳勇者になる方法は1番目と【契約】することだった!?」追い込まれる充一。ミコナは充一を守ろうと剡弐を攻撃するが……。

「うおおおお!」

「馬鹿者! ミコナ様の警告を聞け!」


 黒魔が無理なら白神でいくしかない。

 白神の刃が剡弐の胸元へ届く直前だった。


「なんでこんな奴を悪徳勇者にさせたがるんだろうな。1番目は」


 剡弐の背後に浮かび上がる黒い塊。

 それが巨大な手の形になって素早く俺を握りしめてきた。


 バキバキ!!!!!


「ぐ!? うう……」


 全身の骨が折れるのを感じた。

 痛みのせいで手から白神が離れる。


「充一さん!」

「動くな。コイツが死んでもいいのか?」

「く……」


 ミコナは俺のことを気にしつつ「召喚魔術?」と剡弐に聞き出している。


「ああ。【鋼鉄の悪鬼スチールデビルオーガ】は俺様だけの特別な力。半自動セミオート型の悪霊あくりょうだ」

「あなたの命令とは関係なく攻撃したり、防御したりするってこと?」

「宿主が死んだら困るだろ? おいもういいぜ。死んだら死んだで1番目にとやかく言われるのも面倒だしな」


 ようやく解放された。

 痛みのせいで体が動かない。


「そもそも悪徳勇者は1番目と契約を交わした勇者しかなれない」

「なに……?」

「で、一度契約したら二度と【真の勇者】に戻ることができねぇ」

「戻れない?」

「そこまでして悪徳勇者になる理由メリットはなんなのよ」

「力だ」

「力?」

「充一は【Fランク】だろ?」

「Fランク?」

「能力値の階級のことだ」

「ガキのくせに分かってるじゃねぇか」


 剡弐はフレちゃまのことを知らないようだ。

 Fランクはレベル1~10に相当する。

 経験値や特殊能力を得ることでランクが上がるらしい。

 ただし能力値には個人差があるそうだ。

 限界値を迎えるとそれ以上成長しないらしい。


「そこで1番目が悪徳勇者になった証としてダークパワーを授けてくれる」

「ダークパワーだと?」


 呆然とするフレちゃま。


「それを扱えるのは邪神だけだ。なぜ1番目が?」

「さあな。俺様が知るわけねぇだろ」

「なぜ神たちはこのことを黙っていたんだ。いや知らなかったのか? だとしたらヤバいぞ。これは非常にマズすぎる!」


 そこまで焦ることなのか?


「ダークパワーは神殺しの力とも言われていてな、邪神が魔神戦争の際に生み出したんだ」


 使用者の能力値をむりやり限界突破させる。いわば禁術ドーピングだそうだ。


「そして厄介なことに、愛を拒絶し、憎しみがそれを上回るとダークパワーが急激に増大していく」

「よく知ってるな。ただし過剰に使用すると俺様の体を蝕む恐れがある。下手すりゃ自我を失っちまう。まさに諸刃の剣ってやつだぜ」


 剡弐は俺を見下す。


「憎いよなぁ? 俺様のこと」

「そんなことは……」

「憎しみにすべてを委ねちまえよ。わかるだろ? 愛なんてくだらねぇ。互いに憎しみ合って傷つけるのが世の中だ。だから支配して従わせなくちゃならねぇ。結局最後に勝つのは他人の痛みを知らねぇ強ぇ奴なんだよ!」


 ドン!!!!!


 剡弐の拳が俺のお腹にめり込んだ。

 それと同時に胃から温かいモノがこみ上げていき、吐血した。


「充一くん!」

「こうやって容赦なく殴れるしな!」


 なんだこの威力……。

 顔面に一発。

 胸やお腹に数発。

 気を失いそうなほどの痛みが全身を駆け巡る。


「!?」


 剡弐の背後にある黒い塊が変化した。


 え? 嘘だろ!? どうなって……?


 黒い塊は美少女になった。

 肩まで届く黒髪のボブカット。

 ルビー色の瞳をしている。

 黒と赤を組み合わせたマント付きの衣装姿。

 黒い2本の角を生やしており、ミコナとは違う種族のようだ。

 剡弐の真後ろに浮かんでいるのだが、なぜか俺のことを見て汗を流したまま驚いているのだ。


 それに気のせいか。どこかで会ったような気がする。


 日本人……?


「え?」


 よく見るとその子は俺に向けて何か話している。

 声は聞こえないが口の動きから連想すれば何を伝えているのか分かるはず。


 タ、ス、ケ、テ。


 助けて……? どういう意味だ?


「よそ見してんじゃねぇよ! 充一ィ!」


 痛みがさらに増していく。

 マズい。このままじゃ死ぬ。


「トドメだ!」


 渾身のストレートが俺のお腹に食い込んだ。


「そのまま吹き飛べェ!」

「ぐああああ!」


 遠くの壁へ激突した。

 衝撃により壁が破壊される。

 仰向けに倒れた。


「う、動けな……」


 ドガッ!!!!!


「!?」


 いつの間にか俺の顔スレスレに剡弐の足があった。


「オルガのやつ。いくら気まぐれだからって力を制御しすぎだろ」


 違う。この子は俺を殺さないようにしているんだ。


「これでわかったよな? あの時お前がほざいた【夢】は妄想なんだよ! 現実を見ろ! お前は世界を救う価値がねぇザコだ!」


 胸にぽっかりと穴が空いたような感覚だった。

 両腕をだらりと横におろしたまま、激しく呼吸をする。

 体が痛くて思うように動かせない。


「悪徳勇者になれ。言わないと殺す」

「た、助け……」


 グサッ!!!!!


「……なに?」


 剡弐のお腹を貫くグングニル。


「充一くんを悪徳勇者にさせない。あなたはここで死ぬの」

「へー死ぬのか?」

「!?」


 ミコナは槍を引いた。

 腹部から血が出ているはずなのに、剡弐は平然としていた。


「え?」

「嘘でしょ?」

「あり得ない……」


 すでに傷が消えていた。

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