【10番目の悪徳勇者編<第2章:4/7>■零和充一の視点■】十塚剡弐との再会。早速倒そうとするが……。

 協会内に響き渡る声。

 3人の男女がこちらに近づいてくる。

 周りの人たちは彼らが何者なのかすぐに理解したようだ。

 彼らから距離を置いていた。


「この子が11番目の勇者くん? 可愛いわねぇ」


 赤髪のポニーテール姿のベージュ系の肌をした大人の美女がこちらを見つめていた。

 俺と同じ高さ。つまり175㎝だ。

 襟付きのヘソ出しタンクトップから胸が盛り上がっている。

 肩とお腹は露出しており、ベルト付きのホットパンツから伸びる太ももが引き締まっていた。

 上腕二頭筋(二の腕)が鍛えられており、チラリと見える腹筋が綺麗に割れている。

 お姉様というより姉御肌な女性だ。

 革製の黒い鉄靴をコツコツ鳴らして近づく。


「カルラよ。こうみえて人妻なの。ごめんなさいねぇ」


 よく見ると指が空いたグローブから光る何かが見えた。

 左手の薬指に指輪をつけている。


「年上の女性って好きかしら?」

「え?」


 紅色べにいろの瞳が俺を捉える。


「色目使うんじゃねぇよ」

「嫉妬した?」

「うるせ」

「エリクも何か言ってあげなさい」

「特に無い」


 二人目は黒髪ショートヘアの成人男性。

 俺より身長は低い。165㎝くらいだ。

 足下まで届く黒をベースにしたオシャレなローブ姿。

 色白の顔は見えているが、口元をネックウォーマーのような黒い布で覆っている。

 浅葱色あさぎいろの瞳をしており、視線をこちらに向けることなく真下に落としていた。


「中学時代の時と比べたら少しは男らしくなったじゃねぇか。なあ? 充一ィ」

「十塚剡弐……」

「彼のこと知ってるの?」

「前にいた世界で有名だった」

「今は世界を救う勇者様の一人なんだぜ」

「悪徳勇者の間違いでは?」


 ヒルダの言葉に剡弐は目を細める。


「まさか騎士団副団長のヒルダがいるとはな」

「あなたがいる限り、東区の住人たちは迷惑しているんです。山賊の襲撃についてですが、裏であなたが指示を出しているのは騎士団が調査済みです」

「相変わらず抜け目ねぇな騎士団ってんのは」

「当然です。ソルネール王国騎士団は偉大ですから」


 これはチャンスなのでは?

 今の俺なら……。


「俺様に勝とうって思ってんじゃねぇよな?」


 目の前に立つ巨体。

 身長は確か195センチだったはず。

 総合格闘家だった頃にネットの公式プロフィールにそう書かれていた。

 俺と身長差が20センチもある。

 筋肉隆々とした体躯たいく

 背中に大剣を背負っている。

 短めに切った黒髪に狐色きつねいろの瞳。

 ロングタイプのライダーブーツを履いている。

 勇者というより傭兵や剣闘士のイメージが強い服装だ。


「今逃げたいって思っただろ?」

「思ってない」

「総合格闘家だったからわかる。対戦相手を見るとな、ソイツが何を考えているか大体読めるんだよ」


 俺の肩に手を置いた。


「お前は俺様を傷つけることすらできない」

「……っ!」

狼狽うろたえるな充一! 悪徳勇者が目の前にいるんだぞ!」


 わかってる。むしろこれはチャンスだ。

 ここで能力を開放すれば……。


 あれ? 体が動かない?


「お前が魔王娘か。勇者時代に討伐する予定だったが、こういう形で会えるとは思わなかったぜ」

「悪徳勇者の間違いよね?」

「昔は真面目に世界を救おうとしたんだぜ。んで? 魔王城が崩壊してからすぐにソルネール王国へ来るってことは充一と手を組もうと企んでいるのか?」

「なぜそれを知ってるの?」

「知りたければ充一と手を組むのを止めろ」

「そう言われて止めると思ってるの?」


 ミコナの言葉に剡弐は目を大きく見開く。


「マジかよ。そこまでして充一に頼りたがってるのか? よほど家族が奪われてショックだったんだな」

「他人事のように言わないでよ!」

「事実そうだろ。勇者と魔王は敵対関係だったはずなのによ、落ちこぼれどもが」

「今は同盟関係よ。互いに憎しみ合ってる時代じゃないの」

「弱者同士の傷のなめ合いかよ。くだらねぇ」

「なんですって!」


 お前の相手はこっちだぞ!


 何俺の肩に手を置いたままミコナと話してるんだよ。


「まあいいわ。お父様を殺した悪徳勇者を探しているんだけど、まさかあなたじゃないよね?」


 突然、周囲の空気が変わった。

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