【10番目の悪徳勇者編<第2章:3/7>■零和充一の視点■】「け、結婚!?」ミコナが魔王娘としてこの国に住むためには勇者様と結婚したほうが良いらしい……?

 勇者に個人的な恨みでもあるのかな?

 返答次第では何をしてくるか分からない。

 安心させるために俺が思ったことを正直に話すことにしよう。

 細かく伝えないと納得してくれないだろうし。


「俺やヒルダに対して丁寧に接してくれただろ? しっかりしている子なんだなって思ったんだ。フェイさんに対して命令口調じゃないし、優秀な部下だって褒めてるし、家族のように接してくれる時点で部下思いの優しい上司だよ」


 フェイはすぐにミコナの耳元で「女性の中身を褒める男性は珍しいです! 希少価値ですよ! 普通は体しか興味がないケダモノばかりですからね!」と囁いているつもりだろうが、聞こえてますよ?


「先ほどは無礼を働きまして申し訳ございませんでした」


 深々と頭を下げるフェイさん。


「充一様は他人を思いやる素質をお持ちのようですね。感心しました」

「そっかな? あはは」


 俺のこと気に入ってくれたようだ。


「充一様ならミコナ様のことをお任せできますね」

「な、何を言ってるのよ」

「私が死んでも大丈夫ということですよ」

「そんな不謹慎なこと言わないで。フェイがいなかったら私……」

「……そうでしたね。ごめんなさい」


 ミコナは咳払いをする。


「ここに来た目的は充一くんのサポートがしたかったの」


 フレちゃまが言ってたな。頼もしい仲間ができるって。


「悪徳勇者と戦う動機があるってことだよな?」

「父の仇を取りたくて。それに私とフェイは充一くんたちと一緒に生きるって決めてるから」

「え?」

「やはり何かあったのですね?」


 フレちゃまに言われた瞬間だった。

 ミコナはその場に崩れるようにフレちゃまに抱きつく。


「ミコナ様!?」

「あれ……私……何をしてるんだろ……ははは」


 虚ろな眼差しから次第に涙を浮かべていた。

 泣きたいのを我慢しているかのように見える。


「俺で良かったら話を聞こうか?」


 その言葉が引き金だったのか、彼女の頬から涙が一気に溢れていた。


「やだ……どうして……涙が……止まらない……」

「大丈夫ですか!? ミコナ様」

「先輩……」

「いや待って! 俺泣かしてないって!」

「そのタイミングで言われたら女の子は嬉しいんだよ」

「え?」

「落ち込んでいる時に寄り添ってほしいのが女性の本音ですから」


 ミコナは俺を頼りたかったのか?

 まだ会って間もないのに。


「……魔王軍の歴史に幕を下ろしたの」

「な……!?」


 その言葉に誰もが驚きを隠せなかった。

 魔王軍は【悪徳勇者の愛弟子と名乗る仮面の男】によって壊滅させられたそうだ。

 たった一人で魔王城を崩壊させる時点で強敵だとわかる。


「なんてことだ……。この私が留守の間を狙うとは……許せん!」

「フレちゃまは悪くないよ。フェイもそう思うでしょ?」

「……ええ」


 フェイとフレちゃまはお互いに目線を合わせるとなぜか気まずそうにそらした。

 不仲なのか?


「世界を救った後もこれまで通り人間の皆様と友好関係を築き上げたいの」


 つまり功績が欲しいのだという。

 魔王は本来【人類の敵】なのだから真の勇者が認めていれば問題ないわけだ。


「それなら先輩と結婚するのが手っ取り早いですよ」

「「け、結婚!?」」


 ミコナと声が重なってしまった。


「種族問わず自由に恋愛ができる時代です。結婚もできます。ソルネール王国は多様性を尊重しているので人間と亜人のハーフが最近増えているんです」


 ミコナは顔を赤らめたまま首を横に振って両手を前に出す。


「べ、べつに私なんかよりも他にも素敵な女性がたくさんいると思うし、私は生涯独身でもいいから……あはは」

「ミコナ様。こういう時は遠慮せずに『充一様の妻になりたい』と女をアピールするんです」

「フェイ!?」

「魔王娘が真の勇者様と結婚すれば人々から信頼を得られるでしょう」

「そ、そうなの?」

「間違いありません。これなら私も安心できますから」

「でも先輩チョロそうだから誰でも良さそうな気がする」

「バカなこと言うな。俺は一途だよ……?」

「嘘だな」

「嘘ですね」

「先輩のへんたーい」

「く……」


 これ以上、いじられると勇者としての誇りが失いそうなので、俺は話題を切り替えるために咳払いをする。


「話を戻そうか」


 魔族連盟は魔王族(堕天使などを含む)、幻魔、妖魔、妖精、夜魔の5つの魔族によって構成されているらしい。

 代表が大魔王であり、ミコナの遠縁だそうだ。


 他にも連盟があるらしい。


「私たちがいますので安心してください! あと、私のことは呼び捨てでおなしゃす!」

「ありがとう。よろしくねブリジット」

「くぅ~推しに名前を呼んでいただけるなんて光栄! 尊すぎる! あーん限界化しそう!」

「よかったな」

「だってこれから冒険の旅が待ってるんだよ! 世界は広いし、お宝もたくさん眠ってるし、色々な種族と交流ができる! 最高の物語にするために頼みますよ!」

「ブリジットも仲間になりたいの?」

「いやいやその流れでしょうよ! 神絵師であるこの私をハブくんですか!」

「絵師って強いの?」

「失礼なこと言いますね。私は神絵師にしてゴッドウィザードのブリジット・ローレンスです!」

「ゴッドウィザード?」

「ブリジットは強いですよ。仲間にすると頼もしいです。あと博識なので魔族語まぞくごも読めるんです」

「くくく、どうです先輩! 私を仲間にするメリットがありすぎでしょ」


 ヒルダがそう言うなら間違いないか。


「どうしたの? フェイ」

「……実はお話したいことがありまして」


 バン!!!!!


 扉が強引に閉まる音が発生した。


「零和充一はここかァ!」

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