【10番目の悪徳勇者編<第2章:2/7>■零和充一の視点■】「ミコナとのファーストコンタクト」すると後ろにいる大妖精が充一に対して……。

「零和充一の知名度を高めるためには神絵師であるこの私が必要だよ」

「そういうことかよ!?」

「世界を救う勇者様が冒険者協会で堂々と全裸。これ絶対に話題になるよね!」

「話題になるどころかすべての信頼が失うって!」


 ブリジットは周りをキョロキョロと見渡した後、俺に向かって小声で説明し始める。


「ぶっちゃけ薄い本って売れるんだ。ただマイナーばかり攻めるのはもったいないじゃん。漫画家としての私は本名なんだけど、人気急上昇中なんだよね。ラノベの表紙にキャラ原案に挿絵も仕事の依頼があるんだよ。やがては原作者として映画化! サイン会に握手会。そしてトークショーもして懇親会で華々しいスピーチを……くぅ~やりたいことが多すぎて幸せ過ぎる! わかりますか先輩! これは私のためでもあり先輩のためでもあるんです!」


 俺もオタクだから理解できる。

 好きなことを熱く語ってると早口になるということを。

 だがここはあえて彼女のノリについてこれない体でいこう。


めてくれ! 俺は真面目に世界をだな」

「だからこそ宣伝材料として先輩のセクシーな肉体美を女性ファンに……あん……デュフりそう」


 変態か!?


 誤解を生み出されたらどうするんだよ。


「ってか、この世界に漫画やラノベや映画があるの?」

「もちろんだよ。だって元勇者さんが布教したんだし」


 悪徳勇者にもそういうタイプがいるってことか?

 十塚剡弐ではないのは確かだ。


「ところで新聞は読んだんだよね?」

「まあな」


 ソルネール王国の東区は古くから印刷技術の影響もあるらしい。そのため新聞や本が好まれる。

 フレちゃまが「日本語版もある」と教えてくれた。翻訳してくれるのはマジでありがたい。

 世界政府と魔族連盟の協議により、経済成長促進のために日本語を世界共通語に決定したそうだ。

 いや普通にすげぇなそれ。

 11年も経てば必然的にそうなるわけだ。


「新聞で話題持ちきりだよ。ソルネール王国騎士団副団長ヒルダ・ゴールトンが、自称【11番目の勇者】と名乗る青年とこの国に迷い込んだ【魔族らしき幼女】と共に山賊を討伐!」


 先日、山賊討伐に成功したが、11番目の勇者の知名度が一気に広がったわけではなかった。

 俺ではなくヒルダの評判が高くなったのだ。

 最初はこんなもんか。

 俺を見て「あ、勇者様だ」なんてあり得ないもんな。

 転生してすぐなわけだし。


「だからこそ! 人気絵師である私が先輩の知名度を高めて差し上げましょう!」


 ブリジットは咳払いをする。


「皆さん! こちらのお方は本物の11番目の勇者様ですよ!」


 ブリジットの言葉に周りは騒ぎ始めた。


「本当に11番目の勇者だったのか」

「てっきりフェイクかと思った」

「山賊たちの襲撃を防いだのは彼なのか?」

「だとしたら彼が世界を救うのか」

「まだまだお子様じゃない? もっとダンディなおじさまのほうが良いんだけど」とコソコソ話している。


 てっきり尊敬の眼差しでも向けてくれるのかなって思ったけど、歓迎ムードではないようだ。

 むしろ警戒されている気がする。


 悪徳勇者の弊害だな。


「久しぶり。ヒルダ」

「どうやって入国されたんですか? 推薦状がほしければ事前に手紙で知らせてくれたらすぐに送りましたよ」

「あーそれは」


 ミコナは隣にいる大妖精らしき部下と視線を合わせている。


「緊急だったの。この人が11番目の勇者様?」

「そうですけど、充一さんが来るのを知ってたのですか?」

「ううん。ソルネール王国に行けば会えるかなって」

「それなら魔王城でお待ちいただけたら彼を連れてきましたよ……って、服が汚れてらっしゃるではありませんか! まさか徒歩で来たのですか?」

「あ~これね。ちょっとトラブルが……あはは。あ、はじめまして。魔王族のミコナ・パルヴァティです」


 角を生やした美少女。

 尻尾は生えていないようだ。

 身長はヒルダと同じ。

 胸は控え目だけど俺は好きだな。

 どう見ても人間にしか見えない。

 しかも丁寧だ。

 てっきり「我は魔王娘だ! 愚かなる人間どもよ! 我の偉大さを前に頭が高いぞ! ひれ伏すがいい!」とか言ってそうなイメージだったけど、可愛らしくて素敵だ。


「零和充一です。日本語上手いね」

「魔王族は日本語教育を受けてるからね。話せて当然だよ」

 

 魔王が日本語を学ぶとは……。

 想像すらしなかったな。


「充一くんって呼んでいい?」

「いいよ。俺やヒルダと同じ17歳?」

「そうだよ。こちらは大妖精のフェイ。私の優秀な部下で血はつながっていないけど大切な家族なんだ」

「……よろしくお願いします」


 表情が固いな。勇者の前だから緊張しているのかな?


「あなたはミコナ様のことをどうお思いで?」

「仲良くしたいと思ってるけど」


 フェイは驚いた顔でミコナと目線を合わせた。


「だから言ったでしょ」

「嘘ではなくて?」

「嘘じゃないよ」

「ちなみにミコナ様を見てどう感じましたか?」

「どうって……素敵な子だなって」

「なぜそう思ったのですか?」


 質問攻めだと?

 なんかめんどくさそうな子だな。

 適当に回答してもいいかもしれないが、今の俺は魔力を感じ取ることができる。

 だからこれは気のせいではない。

 さっきからフェイから異常なほど殺意を感じるのだ。

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