【10番目の悪徳勇者編<第1章:5/6>■零和充一の視点■】「二刀流だと!?」黒刀と白刀を扱う11の数字にふさわしい最強勇者デビューを果たす!

 神はこんなに大きいのか?

 身長は5メートルを超えている。

 腰まで届く長い髪は乳白色に輝き、風にそよぐ度に星屑が散りばめられたかのようにきらめいた。

 深い青の瞳は優雅さと威厳を兼ね備え、見る者の心を奪う。

 彼女の衣装は純白のローブで、その縁には金糸で複雑な模様が刺繍されていた。


「ご苦労だったな。ジークフレイヤ」


 その声は柔らかくも力強く、聞いているだけで心が浄化されていくような感覚だった。


「今は死神のフレちゃまとして生きております」

「正体を隠すのもどうかと思うが。……やはり魔王娘のためか」

「もちろんです」


 何の話をしてるんだろう。


「零和充一よ」

「あ、はい」

と契約を結ぶ。覚悟はよいか?」

「ちょっと待て」

「なんだ?」

「世界を救った後はどうなる?」


 まさか元の世界へ戻るとかそういうことはないだろうな。

 東京での暮らしはもうこりごりだ。

 平凡に生きるくらいなら英雄として生きたほうがいいに決まっている。


「余と同じ神様になりなさい。そこにいるジークフレイヤのように次世代の英雄を育てるお手伝いをしてほしい」

「ジークフレイヤってフレちゃまのこと?」

「そうだが?」

「神様って生きたままなれるのか?」

「何が言いたいんだ? 充一」

「今、神様になることはできないの?」


 それなら簡単に悪徳勇者を倒すことができると思うんだけど。


「すまんが、1番目対策のために今の充一を神に昇格させることができない」

「対策?」

「要するに英雄や魔神たちの力で悪徳勇者と戦ってほしいのだ。詳しくは言えない」


 1番目を倒さなければ俺は神様になれないってことか。


「ジークフレイヤも力を取り戻してほしい。かつて全盛期だった頃の姿になり、人類最強の女英雄として充一を支えるのだ」

「それでは彼の師匠は誰がやれば良いのですか?」

「安心したまえ。10番目の悪徳勇者を倒した時点で彼は一人前の勇者だ」


 アマナ様は俺に近づき「ジッとしてなさい」と言って大きな手を俺の頭に手をかざした。

 俺の脳――松果体しょうかたいにエネルギーが注がれる。

 体に浸透していき、丹田たんでん――おへそから下5㎝あたりが急に温かくなった。


「これで神力と魔力が両方扱えるようになった」


 ソッと俺から離れるアマナ様。


「分からないことはジークフレイヤに聞くがよい。情報は共有してある」


 静止した空間に色彩が帯びていき、アマナ様はその場から消失した。

 時が再び動き出す。


「うおぉおお!」


 奇声を上げる山賊たち。


「武器を召喚するんだ!」


 フレちゃまの指示に従い、俺は唱えた。


日輪にちりんみちびきしひかりおうよ、白日はくじつあおいで碧落一洗へきらくいっせんしたまえ」


 腰ベルトと共に鞘に収まった状態の刀が一本出現した。

 脇差しからそれを抜いた。

 貴族が手にしそうな高級感のある剣――白刀だ。


 続けて唱える。


光月こうげつみちびきしかげおうよ、昊天こうてんくらます暁月夜あかつきづくよ陰影いんえいにてくろしょしたまえ」


 今度は背中にベルトで固定した鞘が出現した。

 まさかの二刀流。これはテンションが上がる。

「これが充一さんの武器ですか?」


「【天無双神刀あまなそうしんとう】だよ」


 ふと背後に浮かび上がる巨大な天秤に俺は気がつく。


「これは女神ユースティティアの正義の天秤だ。神様になれないが、神具といった武器やアイテムを借りることはできる」

「神力って神の力じゃないの?」

「人間が扱うことができる神の力だ。神そのものではない」


 右の秤には白いアンティークな大きい懐中時計。

 左には金貨が大量に入った黒のポットが乗っている。


「この大人数を相手に戦うなら黒刀を使え」


 先に白刀を鞘に収めてから、黒刀を抜いた。

 魔族が使っていそうなカッコイイ形をした魔剣である。

 黒刀を横に向けて刃先に手を添えた。


天無神王術あまなしんおうじゅつ万能変身術オールトランスフォーム】タイプ【死神デスイーター】!」


 突如、黒いオーラが俺を包みこむ。


「な、なんだ!?」

 山賊たちは立ち止まっている。


 オーラが消えると俺自身の姿に変化が起きた。

 体を覆うのは漆黒のローブだ。

 闇そのものを織り込んだような質感で、まるで光を吸い込むかのように黒々と輝いている。

 ローブの縁には銀色の刺繍が施されていた。

 黒かった瞳は深い紅に変わる。

 手には黒刀ではなく鋭利な鎌が現れた。

 刃は細く長く、三日月のように銀色に光り輝いている。


 その姿はまさしく――


「死神? フレちゃまと一緒? どういうことですか?」

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