【10番目の悪徳勇者編<第1章:2/6>■零和充一の視点■】「零和充一が11番目の勇者に選ばれた理由がヤバすぎた」

「逆にいえば充一様が悪徳勇者にならなければ最終戦争が起きずに済むわけです」

「ちょっと待て!? なんで俺の名前を知ってるんだ? ってかどんな人なんだ?」

「それについてなのですが、なぜか世界政府が公表したがらないんです」

「はあ!?」


 意味が分からない。

 世界の命運がかかっているのに、貴重な情報を教えてくれないなんてバカだろ。


 1番目に脅されているのか?


「あなたがいた世界で会ったことがあるんじゃないの?」

「俺は引きこもりの不登校少年だったから友達はいなかったぞ」


 オンラインゲーム仲間はいたけど。


「言ってて恥ずかしくないのか」


 し、仕方ないだろ……俺だって好き好んでぼっちになったわけじゃないし!


「なんで10人も転生させたんだよ。1番目が駄目なら2番目か3番目で終わりにすれば済む話だろ?」

「転生させたのは私ではない」


 フレちゃまじゃないの?


「神々でさえ転生させた犯人が分からないのが現状だ」


 それガチでピンチじゃん。


「ちょっと待って。転生のことについては分かったけど、戦争が起きないのに対立状態が続くって逆におかしくないか? いくら俺が転生しなかったからといって、ちょっとしたいざこざがあればやり合うもんじゃないの?」

「ところがそうでもないんです」

「どういうことだ?」

「彼らは悪徳勇者ですが、あなたの国から持ち込んだ文化や技術を提供してくれたおかげで今の世界が成り立っているんです」

「経済成長に感謝。だけど神との戦争はよくない」

「悔しいが、奴らは完全な悪……とも言い切れないのだ」


 確かに現代の日本とこの世界では価値観が全く異なる。

 ところが反抗したから悪徳勇者として認識された。

 それってさぁ。


「世界政府にとって都合のイイ勇者が欲しいってことか? どっちが悪なんです?」


 我々に逆らえば敵だって言いたいのか。

 支配者の政治的理由なんかのために世界を救うくらいなら俺は勇者なんてやりたくないんだけど。


「そう思われますよね。ですが神との戦争が勃発してしまえば、どのみち世界は終わります。私たちが今こうして生きているのも、あなたがまだ悪徳勇者になっていないからです」


 あの、すみません。全然実感が湧かないんですけど。


「1番目があなたを悪徳勇者にさせたがっている理由が分からない以上、あなたを野放しにするわけにはいかないのです」


 人間界のみならず霊界や冥界など全世界を管理するのが1番目の最終目的らしい。


「充一のいたあの世界も全て含まれるだろうな」

「あんな世界、別にどうでもよくない? 転生しちゃったんだし」

「馬鹿者。管理されるということは生きるも死ぬもすべて1番目の都合に振り回されるんだぞ。一生不幸のまま真実を知らずに生き続けたいのか?」


 そ、それはさすがに困る。


「だからこそ、充一様を【11番目に転生した最後の勇者】としてフレちゃまに連れてくるように頼んだのです」


 話を整理するとこうか。


 1番目はなぜか俺を知っている。

 俺が悪徳勇者になると神々との最終戦争が起きてしまい、世界が滅んでしまう。

 それを防ぐには、俺が11番目に転生した最後の勇者として悪徳勇者を全員倒すしかない。


 いやいや責任重大過ぎるだろ!


 ついさっきまで引きこもりの不登校少年だったんですけど!?


「それともう一つお願いしたいことがあります」

「なんですか?」

「人間だけではなく種族問わず救ってほしいのです」

「種族問わず……?」

「同盟関係を結んでいるわけですが、11年もこの関係が続くと新しい時代へ進んでいきます」

「いわゆる多様性。そして産業革命。ソルネール王国にも多くの種族たちが出入りしている。そして彼らにとっても悪徳勇者は天敵だと表明している」

「悪徳勇者は憎しみで世界を支配しますが、真の勇者は愛で世界を救わなければならないのです」

「……愛なんてくだらない」

「え?」


 この世は残酷だ。

 みんな自分勝手だから。


 そんな奴らに無償の愛を捧げろと?


 バカバカしい。それで世界が救えるなら俺は引きこもりの不登校少年になることはなかったんだ。

 誰も心配してくれなかった。

 引きこもりや不登校ってだけで問題児扱いされる。


 ほんとふざけてる……。


「転生前のお前とは違うんだぞ。勇者として最後まで役目を果たすんだ」

「でも……」

「絶対にできる! 己を信じるんだ!」


 そうだよな。

 憧れの勇者になれたんだし、やれるだけやってみるか。


「悪徳勇者を倒す順番とかって決まってるんですか?」

「特に決まっていません。ただ番号順でほぼ強さが決まっているので最初は10番目の悪徳勇者から倒すのが得策かと」

「だがソイツも強い。油断したらすぐにやられるかも」

「マジか」


 フレちゃまは「安心しろ」と自信満々に告げる。


「お前一人だけじゃないぞ。仲間がいる。特にミコナ様はお前の良きパートナーとしてサポートしてくれるだろう」

「ミコナ様?」

「フレちゃまの雇い主。魔王娘と呼ばれている」

「今の魔王軍は人類の味方です。まだお互いに信用仕切れていないところがありますが、それでも真の勇者として種族を問わず救ってほしいのです」

「わかった。やれるだけやってみるよ」


 その時だった。


「エリシア様! ルナリア様!」


 勢いよく扉が開くと同時にハリのある女性の声が耳に届く。


 現われたのは白い肌をした金髪碧眼きんぱつへきがんの美少女だった。

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