【10番目の悪徳勇者編<プロローグ:3/3>♡魔王娘ミコナ・パルヴァティの視点♡】「11番目の勇者様に会いたい!」ミコナ、人間たちがいる国へ行く。

 その光線はすさまじく、猛炎もうえんとなって周囲に広がった。

 壁や柱、天井、玉座など周囲にあるモノがすべて燃やされる。

 魔族たちが描かれたステンドガラスをドロドロに溶かしていった。


 だが心配無用。


 フェイを抱えたまますぐに高速移動をし始める。

 風圧によって粉砕されたガラス窓をくぐり抜けた。

 最上階から飛び出すと同時に魔力を背中へ集中させる。

 すると肩甲骨付近から翼長1.5メートルの黒い翼が生えた。

 召喚と言ったほうが正しい。

 魔族を象徴するカッコイイ形をした翼である。


「よし……これならすぐに……」


 魔王城から離れようと滑空した瞬間だった。


「!」


 背後から並外れたおぞましい爆発音が空高く響き渡る。

 強烈な光が解き放たれ、私の影が大きく伸びた。


「なに……あの力」


 巨大なキノコ雲が発生した。

 高い丘の上に立つ魔王城が巨大な火柱ひばしらに包まれ激しく燃え上がる。


 アレは爆弾? いや爆弾にしては異質だ。


 まるで生き物を殺すためだけに生み出された――としか表現のしようがなかった。


「ミコナ様!」

「嘘でしょ!? なんて威力なの……」


 高温を帯びた衝撃波が周辺の木々を木っ端みじんに吹き飛ばす。

 さらに紅炎こうえんに包まれた熱波ねっぱが猛スピードで迫ってきた。


「くっ……マズいわ」


 本気で力を解放すれば防げなくはないが、フェイを巻き込むわけにはいかなかった。

 それに敵の増援が来るかもしれない。

 魔力を温存するのが得策だ。


「今は逃げることだけ考えないと……」


 最高時速300㎞まで急加速する。

 フェイの顔を胸に抱き寄せたまま飛行し続けた。

 それからしばらくの間、空を飛び続けていると、爆風の勢いが弱まり始めることに気づく。

 減速しつつ後ろを振り向いた。


「ここなら大丈夫そうね」


 地上に降り立つ。

 黒い翼は空間に溶け込むように消失した。

 さすがの私でも高速移動を頻繁に使用することができない。

 飛び続けている間も魔力が消費し続けるからだ。


「まさかここまでの力だなんて……」


 3、4キロメートル以上の広範囲に渡る灼熱しゃくねつの地が目の前に広がった。

 生態環境が変わるほどの破壊力。


「悪徳勇者だけを警戒すれば良いと思ったけど……これは厄介ね」


 魔族連盟はこのことについて知っているのだろうか。


「怪我はない? フェイ」

「……はい」


 フェイをゆっくり下ろす。

 すると彼女は私に向かって頭を下げた。


「申し訳ございません!」

「フェイ?」

「私だけが生き残るなんて……」

「何を言ってるの? フェイがいなかったら私イヤだよ」

「ミコナ様……」


 フェイは震えている。

 わずか2時間で私とフェイ以外の家族が全滅したのだ。

 現実を受け入れられないのも分かる。

 私だって泣きたい。

 だけど魔王軍の長として弱さを見せるわけにはいかなかった。


「魔王軍は私にとって大切な家族。誰であろうとも快く受け入れる。おかげで弱体化したって揶揄されるけどね」


 フェイは何か言いたそうだったが、私は彼女の手を優しく添える。


「元気出して。私がいるから」


 倒壊した魔王城を見る。家族と過ごした思い出がすべて塵となって消えていった。


「お父様……お母様……ご先祖様……みんなを守れなくてごめんなさい」


 泣いちゃ駄目だ。

 泣いたら弱さを認めることになる。

 隣ではフェイは号泣していた。

 自分だけ生きていることに不安を感じるのだろうか。


「もう決めた」

「ミコナ様?」


 私は倒壊した魔王城に向かって頭を下げた。


「本日をもちまして……魔王軍の歴史に幕を下ろします」

「な、なぜ……」

「こうするしかないから」


 1100年の歴史を誇る魔王軍。

 私の代で最後になるとは思わなかった。

 魔王軍を再興するつもりはない。

 実力不足が招いた結果なのだ。


「魔物などいくらでもいる」という浅はかな考えはしない。


 今まで働いてくれた家族たちに申し訳ないから。

 遺族たちには直接会ってきちんと謝罪しないと……。


「ミコナ様は悪くありません。すべての罪は私が背負いますから」

「何言ってるの。長である私が責任逃れするわけにはいかないわ。ずっと最後まで私を信じて働いてくれた。だからお礼も謝罪も両方遺族たちにお伝えしたいの。何を言われてもいい。逃げたくない」

「ミコナ様……」


 少しずつ気持ちが落ち着き始めた。

 いつまでもくよくよしていられない。


「これから新しい人生がスタートするわ。居場所を失った魔王娘なんてみんなからバカにされるだろうけど」

「大魔王様に応援を要請するのはいかがでしょうか?」

「遠縁だけど苦手なんだよね」


 魔族連盟とは所詮名ばかり。

 互いの均衡を保つための利害関係に過ぎなかった。

 魔王軍が滅んだと知れば何をしてくるかわからない。

 むしろ人間のほうが信頼できる。

 他の種族たちを尊重してくれるからだ。


「ソルネール王国へ行けば11番目の勇者様に会えるかもしれない」

「ミコナ様まで勇者を信じるのですか? 私は反対ですよ。フレちゃまと対立したのをご存じですよね? 魔族連盟の恥です」

「今は同盟関係よ。フェイはどうしてそこまで勇者が嫌いなの?」

「悪徳勇者になるからです。善人ぶった愚かな連中たちですよ」

「だったら悪徳勇者にならないようにサポートしてあげればいい」

「ですが……」

「大丈夫。信じて」

「……もしその勇者がミコナ様に危害を加えるようでしたらその場で抹殺します」


 フェイの目は本気だ。

 私の知る中で最強クラスの大妖精である。

 勇者相手でも戦える実力を持つ。


「わかったわ。真の勇者様だったらちゃんと従ってね」

「承知しました。仮にその勇者が男だった場合、口説かれないように気をつけてください」

「それもアリかな」

「ミコナ様!」

「冗談だよ」


 素敵な人だと祈りつつ、私はフェイを連れてソルネール王国へ徒歩で移動することにした。

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