【10番目の悪徳勇者編<プロローグ:2/3>♡魔王娘ミコナ・パルヴァティの視点♡】「何者!?」魔王軍幹部(四天王たち)を壊滅させた敵の正体は……。

「大変です!」


 扉が開き、灰色の肌をしたダークエルフが走ってきた。


 現在の魔王軍は女性のみ戦闘ドレスだ。

【強い、美しい、自分らしさ】の3つをテーマにしている。


 フルーエもフェイと同様、父の代から私を守ってくれる親衛隊副隊長である。

 灰色のショートボブがよく似合う。

 エルフも大妖精も寿命が長く、見た目が若々しい。


 薄い本を読んでいたことが知られたくないので、慌てて玉座の後ろにソレを隠す。


「ど、どうしたの? フルーエ」


 フルーエは片膝をつき、こうべを垂れる。


「四天王たちが正体不明の敵に殲滅させられました」

「「な……」」


 突然の訃報に言葉を失った。


「そんなバカな……魔王軍最強の四天王ですよ……!」

「……お父様の預言が的中したわね」




 6歳の頃である。

 魔王族専用の墓地へ墓参りしに行った時のことだ。

 母の墓にある花立てに白椿を添えた後、父に駆け寄る。

 2メートルの高身長。

 豪華な服を着こなしており容姿端麗だ。

 父は私に背中を見せたままどこか遠くを眺めている。

 魔王族は魔族の中でも珍しく、太陽光を浴びても平気な種族だ。

 陽光がまぶしいため、父が今どんな表情をしているのか分からない。


「いいかい? ミコナ。真の勇者が現われたらその者と共に悪徳勇者から人類と魔族を守りなさい」

「どうしてですか? 人類は敵ですよ。ましてや勇者なんかと手を組むなんて」

「いつかわかる。それに得たいの知れない何かが魔王軍を襲撃するだろう」


 その後、ヒルダとの出会いをきっかけに人類と友好関係を持ちたいと考えた。

 魔王軍が人類に侵攻しなくなった理由がソレである。




「このままでは魔王軍は全滅です。早くお逃げくだ――う……」

「!?」


 突然、フルーエの体が反り返った。

 よく見ると胸元から剣が突き出ている。

 灰色のドレスが真っ赤に染まった。

 傷口から大量の血が噴き出しているのだが、そこから煙が発生した。

 彼女の体が激しく痙攣し、灰色の皮膚が黒く焦げ始める。

 焼き焦げた臭いが部屋に充満した。


「く、くそ……」


 フルーエは口元から血を流したまま前のめりに倒れ込んだ。


「歴代最強の魔王がまさかの魔王娘。見た目は可憐な美少女」


 感情が読み取れない声色でソイツは話す。

 フルーエの胸元を突き刺した剣が引き抜かれる。


「いくら魔王娘が強くても他がザコでは話になりませんよ」


 大量に流れているはずのフルーエの血は蒸発した。


「ん?」


 フルーエは剣先を握りしめている。


「仮にも……私は親衛隊の一人……ミコナ様には指一本……触れさせない……」

「そうですか。でしたら細胞ごと爆死させてあげましょうね」

「!」


 一瞬、何が起きたのか分からなかった。

 剣先が赤く染まり、煙が発生したかと思いきや、フルーエの体に異変が起きる。


「う、動けな……み、ミコナ……さま……」

「フルーエ!」

「申し訳……ございま……せ……」


 フルーエの体が硬直し、やがて全身が砂と化した。


「いつ見ても私の力は素晴らしい。これも主様のおかげですね。剣先に付着した汚いゴミはこうやって綺麗にしましょう」


 ソイツが剣を薙ぎ払うと同時だった。

 砂になったフルーエは粉々に粉砕される。


「……そんな……フルーエ……」

「おや? 魔王にしては珍しいですね。部下に愛情を感じるとは。てっきり使い捨てのゴミだと思ったのですが……その目、私に対する憎しみを感じます」

「……何者?」


 ドスの利いた低い声でソイツに聞き出す。


「悪徳勇者の愛弟子です」

「ふざけているわね」


 声からして男なのは間違いない。

 というのも仮面を付けているため、顔が見えないのだ。

 長身痩躯。

 黒服に身を包んでいる。

 ロングコートでフードを被っているため、肌はおろか髪の毛すら見えない。

 白い仮面の中央に描かれているのは、黒色の大きな一つ目だ。

 目の周りを炎のような記号で赤く塗られている。


 仮面なのに目の部分に穴が空いていない?

 どうやって私の姿を見ているの?


「早速ですが降伏してくれませんか? 先代魔王のようになりたくないでしょ?」

「父のこと知ってるの?」

「主様の妻になるなら教えてあげてもよいですよ」


 私は目を閉じて言い放つ。


「くだらない」


 玉座から30メートル離れた位置まで瞬間移動。

 男の背後へ着地するのと同時に首をはねた。


「な……に……?」

「隙だらけなのよ」


 右手の周りがバチバチと赤紫色に放電する。

 あまりの速さに空間に赤紫色の線が切り刻むほどだった。


「【天雷手刀てんらいしゅとう】よ。基本技だけどこれで十分。ま、言っても意味ないか」


 吹き飛んだ生首は床に落ちることなく、私の手に着地した。


「悪徳勇者の愛弟子……主様」


 つまり1~10番目の悪徳勇者のうち、誰かの命令でここへ来たということだ。


「ミコナ様!」

「ん?」


 この生首変だ。

 切断しているはずなのに血が出ていない?

 しかもどんどん膨張していき――


「まさか……」


 ――刹那せつな


 強烈な白い光が放たれる。

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