【10番目の悪徳勇者編<プロローグ:1/3>♡魔王娘ミコナ・パルヴァティの視点♡】「魔王娘は人間が大好き」可愛い顔して部下と一緒に【自分がモデルの薄い本】に興味津々!?

「敵の詳細は不明……か」


 黒雲に覆われた魔王城。

 雷鳴が轟き、赤紫色の稲光が陰雲いんうんをジグザグに走る。


 私――ミコナ・パルヴァティは窓の外を眺めた。


 ガラスに反射した自身の姿が目に映る。

 昔と比べ、イマドキの若い魔族たちは人間に近い美的感覚を持ち合わせていた。

 メイクもするし、オシャレだってする。

 多くの女魔族たちから「肌が透き通っていて綺麗……うらやましいですわ」と言われた。

 ぱっちりとした大きな赤い瞳。

 白い肌。

 桃色に染まる形の良い唇。

 腰まで届く淡いピンク色のロングヘア。

 2本の角を生やしており、赤いリボンで髪留めしている。

 王族や貴族をイメージさせる優雅な衣装姿は魔王娘に相応ふさわしい。

 人間に似た姿をしているため亜人型あじんがたと呼ばれる。

 多くの種族たちを虜にしてきたこの美貌もすべて母親譲りである。


「フレちゃまが気になりますか?」


 背後から優しい声色で話しかけてくるのは女大妖精であるフェイだ。

 いつも私の相談に乗ってくれる魔王軍親衛隊隊長である。

 父の代から教育係としてお世話になっていた。

 私は「そうね」と透き通った綺麗な声で返事をした。


「今頃何をしてるのかなって」

「あの子は強いから大丈夫ですよ。それに魔王軍も幹部たちがいますし」

「私が出る幕はないかな」

「戻ってくるのを待ちましょう」


 ヒールブーツをコツコツ鳴らして玉座へ移動した。


【魔王の間】は最上階に位置する。

 広々とした空間。天井は高く、巨大なシャンデリアから明かりが放たれ、部屋全体を照らした。

 玉座に腰を下ろす。

 スカートなので下着が見えないよう、脚を閉じたまま斜めに傾ける。


「ところで私が購入した例のアレは読みましたか?」

「まだだけど。フェイはこういうの好きだよね」


 魔王娘は人間たちから絶大の人気を誇った。


 絵師と呼ばれる人たちの間で私の絵が流行ってるらしい。成人姿やロリっ子など多種多様な私が絵になって売られているそうだ。


「せっかくなので一緒に読みませんか?」

「みんなが戦っているのに悪いよ」

「ミコナ様のお気持ちは分かります。ですが、部下たちはミコナ様に忠誠を尽くすと誓った者たちです。ミコナ様のためなら命を捨てる覚悟ができていますし、どんな命令にでも従います」

「命は大切にしなきゃだめだよ。それに部下じゃなくて家族だからね。ちゃんとお給料は支払ってるし、無理させないようにお休みを取らせてるから」

「ああ……なんて素敵なミコナ様……。部下を想うその優しさが素晴らしいです。だからこそ、愛する部下たちを信じて、この貴重な時間を大切に使いましょう」

「貴重な時間か。あとで頑張ったみんなにご褒美をあげないとね」

「みんな喜びますよ。それにみんながいる前だと読めないですし、第三者の視点として楽しんではいかがですか?」

「もーフェイったら。……ちょっとだけだよ」


 フェイが極秘で入手したとされるソレを受け取る。


 ソルネール王国で最も人気の神絵師が描いた薄い本だ。


 綺麗な画力。しかも過激な内容ではないため女性でも安心して読める。


 タイトル名【魔王娘は君とイチャイチャしたい】だ。


 キャッチコピーは「恋人であるミコナ様と甘美な時間をお届けする」である。

 ページをめくるたびに様々なシチュエーションがセリフ付きでイラスト化されており、どれもときめくものばかりだ。


 ベッドの上で添い寝した私がいる。


「こっちにおいで。甘えさせてあげる」と両手を広げたまま優しい表情で読者を誘惑していた。


「次がキス顔のイラストです」

「う、うん……」


 ドキドキしながらページを開いた瞬間だった。

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