【10番目の悪徳勇者編<プロローグ:2/2>■零和充一の視点■】「素手で犯罪者を斬る幼女だと……?」転生する前の悲惨な出来事

 勇者という言葉を最初に知ったのは幼稚園生の時だった。

 小学校1年生の時点でゲームの才能を発揮する。


 勇者は俺の憧れだった。


 11歳の頃になるとさらに暴走する。

 学校の宿題で作文を提出するのだが、担任の先生がそれを見て苦笑いをしたのだ。

 将来の夢について俺はこう書いた。


 タイトル名……「俺は勇者」だ。


「この世は腐ってる。良い人のフリをした悪人たちがいるからだ。だけど俺なら世界を救えるね。だって真の勇者だし」


 これガチで書いたんだぞ。

 それから地獄を見た。

 高校入学して1週間経った日のことである。

 授業中にスマホから着信音が鳴った。


 曲名は【目覚めよエリート勇者】だ。


「目覚めよ勇者! 愛と勇気で悪を蹴散らせ! 世界を救えるのはこの俺! 零和充一だァ~!」


 下手クソ過ぎる俺の歌声が教室中に響き渡り、全員失笑。


 俺のあだ名は「勇者様(笑)」になった。


 あー死にてぇ。

 それから俺はスクールカースト最下位にして引きこもりの不登校少年になった。





「零和充一はどこにいる?」


 1年ぶりに制服を着て外へ出た。

 今年で17歳。

 人と接すること無く、ネットやゲーム、漫画にラノベ、好きなVチューバーの推し活などに溺れる毎日。

 正直言うと楽しい。

 このままずっと引きこもり生活を満喫できると思ったのだが、登校しないと退学になると教師たちに警告された。


「零和充一はどこにいるのかって聞いてるんだこの誘拐犯!」

「ぎゃああああああ!」


 正直言うと行きたくない。

 卒業までバカにされるのだろう。

 友達すらいないのにどうやって学園生活を満喫しろと言うのだ。

 せめて恋人がいたら楽しい毎日が送れただろうに。

 いや無理だな。

 クラスで孤立した人間が最後の最後まで耐えきれるはずがない。


「なんで漫画やラノベみたいな人生が送れないんだよ……」


 過去に戻れるなら戻りたい。

 勇者に憧れた俺がバカだった。


「ん?」


 交差点で信号待ちをしている時だった。

 一人の幼女が周りをキョロキョロしている。

 赤髪のショートボブ。

 ぱっちりとした大きな茜色あかねいろの瞳。

 白い肌。

 小さな黒いリボンの髪飾りを頭につけている。

 お嬢様学校にありそうな可愛らしい制服の上に黒のポンチョを羽織り、留め具の代わりに赤いリボンを蝶結びに結んでいた。

 スカートから伸びる黒のニーソ(ニーハイソックス)にオシャレなブーツを履きこなしている。

 育ちの良いお嬢様ってところか。

 年齢は6歳~8歳だと思う。

 周りの人たちに近づいては彼らの顔をジッと見つめていた。


「お嬢ちゃん? どうしたの?」


 中年のサラリーマンが話しかけている。


「零和充一はどこだ? 言え」


 ん? 聞き間違いだったか。

 俺の名前を言っていたような。

 しかも見た目に反してお姉様系のイケボだった。


「ごめんねお嬢ちゃん。おじさんよくわからないんだ。よかったら君のお家に案内してくれるかな?」

「善人面してるな。詐欺師め」


 一瞬の出来事だった。


「え?」


 サラリーマンの上半身が崩れ落ちる。

 下半身は安定感を失い、横断歩道の中央で倒れた。


「は……? ちょ……え?」


 夢でも見ているのだろうか。

 真っ二つに切断された体を見て愕然とする。

 あまりにも衝撃的過ぎて理解が追いつかなかった。


「きゃあああああああ!」


 近くにいる女性たちの叫び声が響き渡った。


「な、何が起きて……あ……」


 よく見ると幼女の右手が真っ赤に染まっていた。

 指先から鮮血が滴り落ちている。


「まさか……素手で……?」


 すると、遠くからセダン車がエンジン音を鳴らして急接近してきた。

 運転手は横断歩道の中央に幼女がいることに気づいたようだ。

 ブレーキ音が発生する。


「そのデカい塊で私を殺すつもりか? 強盗犯」


 幻覚でも見ているのだろうか。

 幼女の左手から火の玉が浮かび上がる。

 彼女は車に向かって左手をかざした。


業火砲ヘルファイア!」


 勢いよく手のひらから火の玉が発射された。

 車体は火に包まれて大爆発。

 おぞましい爆発音が街中に轟いた。


「なんだよこれ……」

「やっと会えたな。零和充一」

「!?」


 視線を落とすといつの間にか幼女がいた。

 背丈は俺のお腹辺りだ。

 先ほどの光景を目撃してから断言できる。


 この子……人間じゃない……。


 そう思った瞬間、足下に震えが湧き起こった。


「ひ、人違いですよ」

「嘘吐け。顔と名前は神様から教えてもらった。真の勇者を探すついでに犯罪者たちを処分していたのだ」


 アイツら犯罪者だったのか。 


「真の勇者って?」

「転生すれば分かる」

「転生って……死ぬってことだよね?」

「魔力や神力が使える体にするためだ。さあ行くぞ!」

「いやだ! 死にたくない!」

「甘ったれるな! お前は私から逃げられない! 覚悟しろぉ!」


 なんでこうなるんですか。

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