第3話 男

「可愛い男の子がいる」

 目を輝かせて言った。その時点でわかっていた。俺はお払い箱だな。

 多少はその予感を疑うこともした。

 けれど自慢するようにその男の子との触れ合いを話すのを聞いて察した。

 彼女は決断力のある人だから、一度決めたらそうそう心変わりすることはないとわかっていた。

 不甲斐ない自分も、それを許す自分も、全部全部自分が悪い。

 それなのに、いつまで経っても別れ話を切り出さない。

 キッカケだってあっただろうに。

 それとも嫉妬をさせて改心するのを促していたのか。

 そうではなく、ただ俺から別れを切り出すのを待っていたのだ。

 そうさせたのは誰のせい?

 やっぱり俺のせいなのかな。

 心に浮かぶ靄は黒く広がり、心を闇に変えていった。

 きっとこれは彼女が自分を悪者にしないための行動だ。

 他に好きな人ができたから別れてくれと言ってしまうと自分が悪くなる。

 そうやって彼女は俺を悪者にしたのだ。

 きっとそうだ。そうに違いない。


 そうやってまた、俺は過ちを犯すことにした。

 他人のせいにすれば心が楽になる。これでいい。自分を責めずに済むんだから。

 彼女が悪い。全部全部。

 俺が今、睡眠もろくに取れず、食事も喉を通らず、夜中にトイレにこもって嘔吐することが増えたのも、全部全部彼女が悪い。

 俺は悪くない。他の男に目移りした彼女が悪い。

 「恋人」であることを散々否定したけど彼女が悪い。

 嫌がる顔を見て喜んだりしていたけど彼女が悪い。

 月に2回も会わなかったけど彼女が悪い。

 全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部。


 悪い人にはお仕置きをしなくちゃ。

 本人を殺したリ、自分ガ死んだりしたってナンニモ面白くない。

 もっともっと苦しんでしまえばいい。

 どうすれば苦しんでくれるかな?

 

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