第8話 鴨川の救世主
調査を依頼していた協力者からメールが届いた。奴は一見普通の小さなクモだが、小型カメラと盗聴器を搭載した優秀なスパイ動物だ。
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ハムーニャお待たせ。
秘書高嶺理子の自宅に潜入して情報を手に入れた。スパイ天国の日本にしてはセキュリティの頑丈な研究室だ。
まず最初に、研究室の入り口はアプリを使って解錠するタイプの鍵だ。これは秘書のスマートフォンをハッキングして解錠する。次に監視カメラは2つだ。入り口と教授のデスクの斜め上にある。潜入時間が決まればそれに合わせてこちらでカメラをOFFにするよ。肝心の教授のPCのパスワードと重要なファイルのパスワードも手に入れた。添付ファイルを確認してくれ。秘書の勤務時間は10時-17時。察時教授は朝が苦手だ。侵入は深夜より早朝の方が良さそうだ。
報告は以上。
何かあればいつでも連絡して。
幸運を祈る。
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ワタクシは翌日、察時研究室に潜入することにした。無事に鍵を開け、研究室に入るとタイミング良く司令から確認の連絡が入った。
「ハムーニャ応答せよ。」
「はい、こちらハムーニャ。」
「進捗を報告せよ。」
「ただいまターゲットの研究室に潜入。pcデータを移行予定でございます。」
「よろしい。完了次第データ送信を頼む。」
「リョハム!」
連絡が途絶えると、激しい耳鳴りがした。
そしてワタクシの頭の中に誰かの過去の映像が突然入ってきた。最近何だかおかしい。人の頭の中が急に見えるようになってしまった。
今見えているのは、先ほど連絡をしてきた司令官の過去のようだった。
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スパイ国立養成学校の入学式の日の光景だ。
「入学おめでとう。君たちは1600億匹から選ばれた50匹だ。我が国の目標はただひとつ。我々どうぶつをぞんざいに扱う人間を滅ぼし、全人類を支配することだ。人間はけしからん生き物だ。必ずハムスターが権力を握る世界がやってくる。君たちが優秀なスパイとして国に貢献することを期待している。」
入学と同時に新入生の寮生活が始まった。
4人部屋で眠っている自分の姿が見える。
するとそこに司令官が入って来た。司令は元養成学校の指導官でもある。
なんと、寝ている生徒の耳に司令が注射器で何かを注入しているではないか。
何を入れているのかは、小さすぎて見えない。まさかあんなことをされていたとは気づかなかった。
その後司令は、PCの画面で誰かの脳波を見ている。右上に表示されているID番号はham862 。これはワタクシの当時の学籍番号だ。
自分の脳波が常に監視されているようだった。恐らく、寝ている間に耳の辺りから微細なチップが埋め込まれ、それが検知しているのだろう。他の生徒も同様だった。
"不都合な思考が検知されました。"
司令官が監視している画面にそんな通知が出た。
学校生活に疑問を感じたり、人間に対して良い感情を持ったり、つまり、国の計画にとって都合の悪いことを生徒が頭で考えると、司令はわれわれの脳に電流を流し、思考を操作していたのである。
……………………………………………………
アンビエント国が脳をハッキングする技術を持っていることは知っていた。だが、国がこの技術を使おうとしているのは人間に対してのはずだ。
自分にその技術が使われ、洗脳されていたとは....
これまでのワタクシの人生は自分の意志で成り立ってきたものではないのか。そう思うと途端に人生が無意味なものに感じられた。ショックで任務に集中できない。ワタクシは抜き取ったデータを送信せず、研究室を飛び出してしまった。
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