第5話 霊獣学の授業
前期の授業が始まった。僕は単位取得が楽な授業を片っ端から調べて履修登録した。今日の4限はその中でも特に楽だと噂の民俗学aの初回授業。
教室に入ると、ざっと50名はいた。民俗学を純粋に学びたい学生に申し訳ない気さえする。
「はい、それでは授業を始めまーす。どうも初めましての人が多いかな。この授業を担当する鳥山です。」
鳥山先生は見るからに人の良さそうな顔をしている。歳の頃は40代だろうか。社会の荒波に揉まれたことのなさそうな純粋な笑顔が特徴的だ。
「この授業では、主に霊獣学というものを勉強します。京都に古くから伝わる妖怪の話とかね、そんなんを楽しく見ていきましょう。出席は面倒なので取りません。」
「早速ですが今日はね、皆さんせっかく京都に住んでるわけですから、京都市内でもしかしたら見つかるかもしれない面白いものを紹介します。」
「まず初めに、京都という街は非常に東西南北がわかりやすいつくりをしてます。ほら、碁盤の目になってるってよくいうでしょう。」
鬼門って聞いたことある人いますかね。昔の人って風水をものすんごい気にしたんです。
北東は鬼が出入りするとか言ってね。みんな北東をこれでもかというくらい封じたがります。例えば、比叡山延暦寺はその代表で、平安京から見て北東に当たる場所に延暦寺を建てることで京都を守ろうとしました。
それだけでなくてね、京都には東西南北を守る神がいると言われてます。今日の授業の目玉はこの四神!北の玄武、東の青龍、南の朱雀、西の白虎。それぞれ役割があります。
これ毎年テストに出すんですけどね、四神のところだけ、やけに皆さん正解率が高いんです。まず北の玄武からいきましょう。これは亀と蛇が合体した感じの神ですね。玄武の特徴は、現世と冥界を行き来できるとこですかね。冥界、つまりあの世から伝言を預かってこれるすごい奴です。四神の中で、冥界と繋がることができるのは玄武だけですよ。あ、ちなみにこういう話をするとね、毎年僕のことをスピリチュアル系の先生だと言う人がいます。別にスピ系じゃないんだけどね僕。こういうの嫌な人がいればスルーしてくださいねえ。今後もこういう話がたくさん出てきますから、どうしても無理だ〜という方は早めに違う授業に変えた方がいいかもわかりません。ハハハ。
はい、話が逸れましたね。戻りましょうか。
四神というのは元々中国の神話に出てくる生き物なんです。ですので、陰陽五行の考え方に基づいています。5つの元素、水・金・土・火・木のうち玄武の属性は水です。
色は黒、季節は冬を司ると言われています。
それでね、この四神以外にも多くの霊獣が京都には住み着いています。ここからは、先生の授業でしか知ることのできない裏情報です。聞き逃さずにね〜。最近は市バスに霊獣が乗っていたのを見たという目撃情報もあってね。特に京都市バスの28系、9系統に乗っていることが多いそうです。目撃者によれば、霊獣はみなさん西本願寺前で降りるとか。跡をつけた人が口を揃えて言うのが、堀川通正面にある本願寺の総門をくぐるところまでは姿が見えるんですって。その門の先は姿を消すんだそうです。どうやら、門の先に霊獣が住む寮があるみたいなんですけど、居場所はまだ突き止められていません。見つけた人は僕に連絡をください。駆けつけますんで。
僕はこの話に心当たりがあった。今住んでいる場所にとても近い気がする。霊獣が姿を消すと言うその門は僕の部屋から見えるのだ。
はい、じゃあ今日はもう一つ紹介してから授業を終わりますね。
レジュメの裏面をみてください。霊獣が好む食べ物というのが京都で採れます。えっと、まず知っておいてほしいのが京都の7つの出入り口。これ、聞いた人いるかもしれませんけど、京都と他の地方を結ぶ街道の出入口になっています。この出入り口で育つ野菜や植物を摂取することで霊獣たちは霊力を養ってきたそうなんです。時代によって呼び方も数も変わっていますが、この授業では江戸時代の終わり頃、京都の古地図に載っていた出口を紹介しますね。
レジュメ右下の地図をみてくださいね〜
北から順番に
長坂口の人参
鞍馬口の山芋
大原口の大葉
粟田口の山椒
伏見口の蓮根
東寺口の胡桃
丹羽口の枝豆
秋になったら課外実習でこれらの食材を探して回る授業を予定してます。楽しみにね〜。はい、じゃあ今日はここまでです。お疲れ様でした〜。
僕は他人事ではいられなかった。今の家に引越した初日。頼んだ覚えのない七口弁当。
あれはいったいなんだったのだろう。
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