第39話 奇遇な再会

ロクァースはジャスール向かって魔窟探察の体験談を少しばかり大げさに語り、ソフィアとフェデルタはその後ろに続いた。


そうしてこの三人と一匹は、街角のとある食堂の一つに向かった。昼は大衆食堂、夜は酒場として営業している店だった。


昼時を少し過ぎた店内では客の姿はまばらだった。


カウンターの近くのテーブル席には一組の男女がいたが、その姿はロクァースとソフィアにとっては見覚えのあるものだった。


「もしやするともしやして」


ロクァースはそのテーブル席に近づいて声をかけた


「やっぱりや、クラージュはんとグノシーはんやないか?」


「おや? ロカース君じゃないか。ひさしぶりだな」「あ、お久しぶりです。ロクァースさん」


「にしてもクラージュはん、平服でっしゃね。休暇中でっか? そいでグノシーはんも、なんか大人びよった気がするな。あ、それとももしや、お邪魔やったかいな?」


ロクァースは少しばかり冗談めかして言ったが、クラージュはさらりと受け流した。


「そんなことはない、ロカース君。同郷の友人と久しぶりに、他愛ない会話と食事を楽しんでいただけのことだ」


「そら、結構なことで。んじゃ、食事を同席してもよろしいでっしゃろか?」


「構わんぞ。それにソフィアも一緒なのか?」


「はい、クラージュさん、グノシーさん、お久しぶりです」


「ああ、久しぶりだ。だがそれはともかく、そちらにいるキツネ頭の獣人は、いったい誰なんだ?」


クラージュの一言に、ジャスールは少しむっとした顔になった。


「ちょっと! キツネじゃないって! ねぇロクァース、この失礼な女は誰なのよ」


「まあまあ、ジャスール。そないカッカせんでもええ。クラージュはんはいっつもこんな調子や」


それからロクァースは二人に彼女のことを紹介した。


「クラージュはん、彼女はジャスール・サンダラーや。まあ、わてとはいろいろとある仲や」


「ジャスール?」


クラージュは奇妙だなとでもいうように、少し眉をひそめた。


「ロカース君、その名前は確か、あの黄色い迷宮の中で出くわした遺骸の前で、なんとなく聞いたような気もするが、どうだったかな? それとも私の勘違いだろうか?」


「勘違いはわてのほうやで。せやな、人違いやったちゅうわけやで」ロクァースは自嘲気味に笑った。「こりゃ情けない話やろ。あの遺骸はまったくの他人やったんや」


「ねえちょっとロクァースったら、またその話するつもりなの? いい加減にしてよ、あたしはこうして生きてるんだから。もういいでしょ」


「ああ、すまんすまん。ほいでなジャスール、こちらは公国軍の女性騎士のクラージュ・フォルティスや。それとこっちの若いのは魔導士のグノシーはん。グノシー・クランティブや」


それから彼女は、仕切り直すように軽く咳払いをすると、改めて自己紹介をした。


「どうも、ロクァースの紹介のとおり、あたしはジャスール・サンダラー。職業はまあ、カッコ良く言えば冒険家ってところかしらね。まあ、これからどうなるか分からないけど、どうぞよろしく」


ともかく、ロクァースたちは席に腰を落ち着けて飲み物と料理を注文した。そしてそれらが運ばれてくるのにさほど時間はかからなった。


食事をしながら、彼ら彼女らの会話は続いた。


「ところでクラージュはん、今も騎士で軍におるんか?」


「今は後方だ。剣術の教官をしている」


「後輩育成ってわけやな」


「どうだろうな。教官といっても私の方は閑職だよ。剣術はさほど重要なものではなくなりつつある。先の戦争のおかげで戦い方も軍の在り方も変わってしまったようだ」


「はぇー、いろいろとあるんやろうね」


「それに私は、軍の恩給を受けられるようになったものでね。慎ましく暮らせば、これから食うに困るようなことはない」


「そら、それで良さそうやなぁ」


「ところでロカース君はどうなんだね?、革細工の仕事は、はかどっているのかな?」


「まあ、ぼちぼちってとこやな。今月は暇が多くて困るわ」


「ソフィアはどうだ? 薬屋をやっていると聞いたが」


「ええ、おかげさまで、そこそこ繁盛しています」


「それは良いな」


それからロクァースはジャスールにも話題を向けた。


「せや、ジャスールはどうかいな? 大陸南部をまわっとったんやろ?」

「そうよ。まあ、良くも悪くも混沌としていた感じね。まあ、共和国の人間たちなんかよりは、人当たりがマイルドだった気もするけど」


「そら、結構なことや」


そしてロクァースは、何かを思い出したようにほくそ笑んだ。


「わてなんか、クラージュはんに挨拶のあとで剣を突き付けられたからな」


「なにを言うか」クラージュはあきれたように答えた。「あの時は、ロカース君が自分の出自を意図的に隠そうとしていたからだぞ。情勢も踏まえれば、むしろあって当然のことだ」


「はぇ、手厳しいご意見やな」


「へぇー、ロクァースってまた背中とか切られそうになったわけ?」


「そんてことなか。大したことじゃなか」


それから次にグノシーに話を降った。


「ほいで、グノシーはんは何をしとるんかいな」


「僕はもちろん魔導士として、いろいろと活躍しているんですよ」


彼は得意げなようすだった。


「最近は共和国からの依頼を受けたんです。魔王軍から押収されていた、とある封印された物品の解析の仕事をしているんです。今はちょっと王立図書館に書物を調べに戻ってきたところ。休暇も兼ねてだけど」


「魔王軍が持っていた物か、それは興味深いな」


「あ、でもだめだめ。これ以上の詳細は言えませんからね。クラージュにだって言えないから」


「それはまたどうしてだ?」


「今回のお仕事は共和国の極秘事項トップシークレットなのです! だからこれ以上は話せません」


「グノシーはん、そないな大げさなこと言いよって、ほんまかいな? でまかせちゃいまっか?」


「う、噓じゃないですよ! ほんとのことです。でも仕事の契約上の、」


「グノシー、そうムキなることもあるまい。私は信じる」

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