英雄たちの再集結、新たな仲間、そして〈奥の部屋〉へ繋がる扉を封印せよ!
第37話 悲哀の再会
ティザー・チュダック、レザール・アシエ、カリタ・コルテシアの三人はそれぞれ大きなバックパックを担ぎ、小高い丘の頂点にたどり着いた。
そこからは、かつての魔王軍要塞の姿がはっきりと見えた。しかしそれは変わり果てたものだった。
「ありゃりゃ……酷いもんだぜ。半分はがれきの山じゃないか?」
チュダックは目を細めて、まじまじと眺めた。
「地震が発生して崩落したという噂話は聞いておりましたが、あそこまで崩れているとは、わたくしとしても予想外でした」
コルテシアは二人の横に並んで、ただ黙って同じ景色を見つめるだけだった。
連邦統治王として大陸南部の諸勢力をまとめ上げ、戦線で自らが指揮を取っていた魔王ことベルフェクティオ・ソッレムニスが戦闘のさなかで死亡したという話が広まると、南部連邦軍の瓦解はほとんど一瞬のことだった。
連合軍の強襲を受けた要塞から命からがら逃げ出した三人は、一息つく間もなかった。
大陸南部に対する連合軍の進駐および残党の掃討作戦は迅速に行われ、かつて同胞だった者たちの裏切り、魔王軍戦争犯罪人の指名手配……混乱と混迷から遠ざかるように、三人は大陸の南へ南へと逃げたのだった。
連合軍の軍属にもかかわらず魔王軍側に寝返った小生意気な科学者のティザー・チュダック、要塞で使用人たちの統括責任者をしていたカリタ・コルテシア、そしてソッレムニスの側近の一人であったレザール・アシエの三人は居場所を失ってから共に行動し、大陸南部の各地を転々として過ごした。
そうして大陸統一暦も、今や七年目に入ろうかという時期になった。グランツ大陸南部の混乱もようやく一段落し、いろいろとほとぼりが冷めてきた頃合いだった。
三人は今となっては、いびつだが一つの家族のようだった。彼らは、かつての要塞を目指して大陸を北上して来た。
「お二人さんよ、別にもう俺に付き合う必要なんてないぜ」
「なによティザーったら、今さら格好つけちゃったりして」
「ですけれどもティザーさん、この様子ですと、お一人で地下へ向かうのは一苦労だと思いますよ」
「だいたいね、あなたの研究っていうあの扉は、もう残っていないんじゃないかしら?」
「あーまったく、カリタもレザールも相変わらずごちゃごちゃ言うなって。まあ、どうだろうかな。簡単に運び出せるもんでもないからな。どのみち確かめるつもりだ。この目で直接な。まあついてきけりゃ来ればいいさ」
「どちらにしても、道案内が必要になるのではありませんか?」
「まあ、その時はその時だな」
残っていた地下通路への入り口は、奇しくもかつて逃げ出すのに使った場所だった。
三人は慎重に内部を進んだ。地下通路の途中は崩れているような場所もいくつかあったものの、なんとか目的の部屋の入り口までたどり着くことができた。
チュダックは手にしているランタンの明かりを掲げて部屋の中を見た。
部屋の中央に立つ巨大な木枠が残っているのを見て、チュダックは思わず色めきたった。しかし部屋に一歩踏み込むと、一転して落胆に変わった。
そこに残っているのは枠だけだったのだ。
「やられた。ご丁寧なこったぜ! 枠だけ残して封印した部分だけを、あの連合軍の連中は持っていきやがったわけだ」
「ほーらやっぱり、わたしが言ったとおりだったじゃないのよ」
「それにしましても、酷い状況でございますね」
かつては整然と装置の類が並べられ、精緻な魔方陣が床から壁にまで描かれていたが、ほとんどの物品は壊され、床は汚され、資材のほとんどは持ち去られていた。
チュダックは今一度、部屋を見渡した。すると部屋の隅に倒れている人のような物体があるのが目についた。
「こいつ。まさかな」
そう言いつつもチュダックは、すでに確信していた。
「どうかなさいましたか?」
「ああ、これを見ろよ」
チュダックはその物体へ向かって、ゆっくりとと近づいた。
「ティザーさん、それはもしかしますと」
死体だった。ほとんど白骨化していたが、チュダックにはそれが誰なのか判った。
服の胸の部分に空いた穴、特徴的な長い尻尾……間違いなく、チュダックの助手として、ここで多くの時間をともに過ごしたジョンドウの亡骸に他ならなかった。
突如、部屋に銃声が響いたように感じて、チュダックは崩れるように、その場に跪いた。
「だ、大丈夫?」
コルテシアとレザールは慌てて駆け寄って支えた。
「ああ、ちょっとめまいが。あの時のことが、少しばかり思い出しただけだ」
チュダックはそのまま、その遺体の傍に跪いた。
「一人ぼっちのままだったわけか」
つぶやくように言うと、遺骨を集めはじめた。
「ちょっとティザー、なにをする気なの?」
「見りゃわかるだろ? ここから運び出して、きちんと埋葬してやるのさ」
「それでしたら、わたくしもお手伝いたしましょう。コルテシア、」
「分かってるわよ。わたしも手を貸すわ」
部屋に放置されている資材の一つに大きな麻袋があるのを見つけると、遺骨をそれに全部納めて、もと来た通路を引き返して地上に戻った。
「それで、ティザーさん。どうするおつもりです?」
「たしか、でかい木が敷地内にあっただろ? 今も残ってるなら、その下にでも埋めてやるさ。墓標も立ててな」
「それからは、どういたしますか?」
「とりあえずエスポワル公国の街へ向かう。〈扉〉が何処へ運ばれたのか、探すことにするぜ」
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