第22話 最悪のなかの幸運
フラッハ分隊は武器を没収され、その場で両手を体の前側で拘束された状態で、要塞へと連行された。そしてそのまま、全員が一つの地下牢に押し込められた。
「厄介なことになったものだ」
「分隊長、すぐに脱出を図りましょう」
「うむ、だがな……」
窓のない石積みの部屋。出入り口は鉄の扉で、そこには小さな格子窓があるだけだった。
「ここには同じように牢が並んでいましたが、他にも捕虜となった者がいるんでしょうか? もしそうなら彼らも」
「ああ、分かっている。だが、私たちだけでも厳しいぞ。来る途中に二か所、歩哨が立っていた。それに連中だって馬鹿ではないだろう」
「分隊長、少なくとも靴に隠していたナイフは持ってますよ」
「まあ、待て。私の見立ててでは、おそらく後で尋問があることだろう。その時がチャンスかもしれない」
そこで唐突にティザー・チュダックが声をあげた。
「マジかよ……ほんとか?」
そしては小刻みに震えながら、なにかぶつぶつとつぶやいたかと思うと、突然に立ち上がって歓声を上げた。
「よっしゃ! ついに見つけてやった! ここだぁ!」
「おい! チュダック、静かにしろ! 気でも狂ったか?」
「ああ、こりゃ失礼。だが、これを見てくれ!」
「君、あの道具を持っていたのか?」
「ああ、外で囲まれたときに、すぐに服の下に隠したからな。それに連中は武器にしか関心がなかったらしい。それよりこの表示を見てくれよ」
魔術の一種なのか、木箱に埋め込まれている石の緑色のほうが、はっきりと発光していた。
「それが、どうしたというんだ?」
「俺が探し求めていた場所を見つけた、ってわけだ」
そのときカツカツ!と足音が聞こえたかと思うと、低く威圧的な声が聞こえてきた。
「お前ら! なにを騒いでいる!」
どうやら歩哨の一人が声を聞きつけらしかった。
するとフラッハがとっさに答えた。
「なんでもない。仲間の一人が、暗くて狭い場所が苦手でね。少しパニックを起こしただけだ」
「おいおい分隊長! そりゃないぜ、そんな言い方」
「余計なことを言うな」
そのとき歩哨の苛立ち交じりの荒い鼻息が聞こえたかと思うと、二人の近くを槍の穂先がかすめた。
「な、なにすんだ」
チュダックが言い返そうとする間もなく、扉の小さな格子窓から槍は引き抜かれた。
「お前ら、これ以上ごちゃごちゃ騒いでると次は刺すぞ!」
「これは、ご忠告をどうも」
それから分隊長はチュダックのほうを睨みつけたが、彼は肩をすくめるだけだった。
突然、ガツン! と牢に音が響いて全員がびくっとなった。
歩哨が苛立ちに任せて扉に蹴りを入れたようだった。それから唾を吐く音が聞こえたかと思うと、足音が遠ざかっていった。
「チュダック、頼むから余計なことはしゃべらずに静かにしていてくれ」
困難である苦しい状況であったが、分隊長は冷静だった。しかし、部下の一人は違った。
チュダックに近づくと小声で忠告するかのように言った。
「ほんとだ、てめえ、軍属の分際で、気を付けねえと味方に刺されるぜ」
しかし、チュダックはその程度で怖気づいてしまうようなこともなかった。
「けっ! そのときは、せいぜい苦しむことにするぜ」
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