第19話 救いとの遭遇 公国軍空挺団

疲労困憊のなか、四人と一匹は身を寄せあいながら座り込み、呆然として、開いたままの出口のドアを見つめていた。外は夕刻が近づきつつあった。


帰るべき場所が見えるのに、容易に出ていくことももままならない出口を……


ここから地上へ降りる手段を思いつけないまま、時間だけが過ぎ去っていった。


すると突然、ドアの外にドラゴンの顔が現れた。


「な、なんや! ドラゴンが来よったぞ!」


赤褐色の外見にターコイズブルーの目、そのドラゴンはホバリングしながら、ゆっくりと頭を下げた。


ドラゴンの背中には、鞍の上に手綱をもって座る、ゴーグルと飛行帽につなぎの防寒服に身を包んだ二名のパイロットの姿が見えた。


そして、二人の服に描かれている紀章をみたクラージュは叫んだ。


「そんなまさか! 公国軍の空挺団か!」


いっぽうドラゴン乗りの二人も、驚いた表情をみせて、聞き返してきた。


「君らは何者だ?」


「私たちは第三次魔窟探索隊だ!」


「た、探索隊? 魔窟の第三次探索隊!?」


パイロットはドラゴンの向きを変え、ドアに横付けする格好になった。


そして後ろに側にいたパイロットが、ゴーグルを外した。そのパイロットの顔をみたクラージュは驚いた。


「あ、貴方は、ファルケ大尉!?」


「やはり! 君はたしか、クラージュ?」


「クラージュ・フォルティスだ。貴方は、確かにファルケ大尉だな?」


クラージュの問いかけに大尉は大きく頷いた。


「そうそう、それで君はクラージュ・フォルティスだったな! あの第三次探索隊だな?」


「そうだ!」


「まさか、信じられん! 君たちは生きていたのか!」


ファルケ大尉はクラージュたちよりも数段驚いた表情をみせていたが、クラージュはかまわず聞き返した。


「空挺団は、ここで何をしているのだ?」


「半年ほど前に再編され、今は訓練飛行中だ! その途中で、上空に浮かぶ謎の扉を発見した! それから観察のために近づいてみたら、これだよ!」


つまり、ドラゴンを操っているパイロットは、新兵と教官という組み合わせらしかった。


「半年前に再編?」クラージュはとまどったが、かまわず続けた。「とにかく! 私たちを地上に下ろしてくれないか! 探索任務は継続不能の状態だ。疲労は極限、食料も底をつきかけている。早急に帰還したい!」


「ああ、分かった! 何人いる?」


「四人だ! それから一匹!」


「四人と、一匹ですか?」新兵のパイロットはポカンとした。


「よし、操縦を代われ!」


後方に座っていたファルケ大尉が言うと、新兵のパイロットは手綱を渡し、ドラゴンの下部へ移動した。


ドラゴンが少しばかり上昇すると、そこには輸送用ゴンドラが吊り下げられていた。


そうして可能な限り、ドアにゴンドラが横付けされると、先ほどのパイロットは両手を差し出した。


「ゆっくりと、一人づつ乗ってください!」


「分かった!」


四人はすぐに荷物をまとめ、いよいよ黄色い奇妙な迷宮からの脱出に挑んだ。


「よっしゃ!」ロクァースが言った。「先にソフィア嬢ちゃんとクラージュはんが乗るんや。レディファーストやぞ!」


そうしてソフィアとクラージュ、それから犬のフェデルタが順に飛び乗った。


「トリム調整用のバラストを少し捨てろ! 重量過多になりかけてる!」


上から大尉の怒鳴り声が聞こえる。


それを聞いた新兵のパイロットとクラージュは、砂の入っている麻袋や大きなレンガをゴンドラの外に放り出していった。


「よし、いいぞ! 残りも乗るんだ!」


「魔導士グノシーはん、先に行くんや!」


「うん、でも」


彼の足はすくんでいた。ゴンドラは揺れていて、ドアとは少しの距離があった。


「でもでも」


「グノシー、わてが行けと言ったときに飛ぶんや! いいか?」


ロクァースは彼の肩にそっと手を置き、タイミングを測った。


「そら、今や行け!」


グノシーも無事にゴンドラへ飛び乗ることができた。


「さて、わても行きまっせ!」


彼は帽子を深くかぶり直し、黄色い壁の室内のほうを一別した。


「もう二度と、こんなとこには来まへんで!」


そう言ってからゴンドラに向かって飛んだ。だが最後に、危うく彼の運が見放されるところだった。

飛び乗ろうとした瞬間、ゴンドラが揺れて少し距離が開いた。


「こりゃないで!」


ゴンドラの中に飛び乗るつもりが外側にしがみつく格好になり、皆が慌ててロクァースの腕や肩を掴んだ。


「落とすなよ!」


「では降下します!」


「あ! ちょ、ちょい待ってな」


「なんだ? こんなときに」


ロクァースはちょっとばかり振り向くと、自身の足を使って開いたままのドアを蹴とばした。そしてバタン! と大きな音がしてドアは閉まった。


「これでよか! さっさと地上に帰りまっせ!」


いっぽうで閉められたドアは、スッーと色が薄くなったかと思うと、だんだんと透けていき、最後には消えてしまった。


「ドアが消えた……」


そのグノシーのつぶやきにロクァースが答える。


「よかよか、結構なことや!」


それからドラゴンは、ドアがあったはずのあたりを一周すると、そのまま降下へと転じた。


「ところでドラゴン乗りの兵隊はん、ここで何をしよったんか?」


「輸送飛行の訓練中だったんです。僕は、パイロット訓練生なんです」新兵は言った。


「それはよか。まあ、神の御加護に感謝やで!」

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