第18話 見つけた出口、容赦のない場所

気がつけば、幾何学模様のある代わり映えしない黄色い壁、目が痛くなるような白い明り、どことなくかび臭くて薄汚い印象の床、どこへ行っても聞こえてくる不快な雑音が満ちている、最初に訪れたのと同じ空間に戻っていた。


黄色い壁、黄色い壁、ときどき柱……どれだけ歩き続けているのか、もはや分からなかった。


携帯食料も水も、残りは僅かだった。


休息はもちろん可能な限りとっていたが、そこらじゅうで聞こえる雑音に、消えることのない明りの下で、脅威がまた現れるかもしれないという恐怖心、そんなもとで充分な睡眠などできるはずもなかった。


希望もなにも考えられず、目的も意識できず、ただただ彷徨うように進み、まるで歩く屍のようになりかけていた矢先だった。


「あれ、出口だ……」


グノシーがポツリとつぶやいた。


彼の視線の先、ほかと同じような黄色い壁には、焦茶色をした木製のドアがあった。そのドアの上には、明るい緑色ではっきりと【出口】の文字が光っていた。


「やった! 出口だ!」


そう言ってグノシーは走りだそうとしたが、ロクァースがとっさに彼の腕を掴んで制止した。


「待ちなはれ! 待ちなはれよ、グノシーはん! クラージュはんとソフィア嬢ちゃんも! あれは、ほんまに出口か?」


グノシーにつられるように進もうとしていたクラージュとソフィアも、彼の言葉にハッとした。


「まったく。ロカース、君の冷静さには、まったく感心する。あれが罠だとでも言いたいのか?」


「分かりまへん。けど用心するにこしたことはなか」


フェデルタは扉に近づくと、何かを吟味するかのように、扉とその周囲の匂いを嗅いだ。


「さてさて、わてが開けましょうか?」


「やるのか?」


「ここまで来たら、怖いもんなしや」


「気をつけるんだぞ」


「さて、フェデルタはんも下がっときなはれ」


フェデルタはソフィアの傍に戻って、クラージュは万が一に備えて剣を構えた。


そうしてロクァースは壁に身を寄せ、片手で銃を持ち、ドアノブにそっと触れた。


バコーンッ!!


ドアは大音響を鳴らして外側に向かって開き、直後に暴風かと思うような風が周囲に渦巻いた。凄まじい風切りの音が部屋で踊りまわった。


「なんやこりゃ!」


ロクァースは帽子を手で押さえ、銃をホルスター収めてから慎重にドアの外を伺った。


ドアの先には何もなかった……いや、青い空が広がっていた!


そして景色が見えた。それはまるで、とても高い塔あるいは灯台の上、もしくは山頂から森を見下ろしたような、そんな光景が広がっていた。


「こりゃまた、たまげたわ」


ロクァースに近づいたクラージュも、ドアの外に見える景色に驚嘆の声を上げた。


「信じられない!」


グノシーとソフィアも慎重に近づいた。そして景色を見て言葉を失った。


バタバタと風切りの音が響く中、彼らはドアから見える景色にくぎ付けになった。


雲の一端がドアの目の前を通り過ぎて、それから彼らはドアから離れた。


ドアを開けたときに部屋に吹き荒れた風は収まったが。風切り音は止まなかった。


「魔導士のグノシーはん……わてが止めずに、あのままドア開けとうたら、落っこちてまっせ!」


「それにしても、どうする?」


クラージュは今一度、ドアに慎重に近づき、外の景色をよく観察した。


「見える! あそこに見えるのは街だ。あれは公国だ。王宮も見える!」


「せやて、こんな高うとこから、どないすればいいや」


「空が飛べれば……」


ソフィアのつぶやきを聞いて、ロクァースはグノシーのほうを向いた。


「せやグノシーはん、空飛ぶような魔法かなんか、あらへんの?」


「ロカスさん、僕一人が浮かぶくらいならできるかもしれないけど、」グノシーは困ったように見渡した。「全員を運ぶのはちょっと……」


「んじゃあ、ドラゴンかなんか、空飛ぶようなデカいやつを召喚はできんのか?」


「それも無理、できないです」


「目の前に街が見えるのに、帰れそうにないなんて……」ソフィアは悲痛な声をこぼした。


「長いロープでもあれば、ここから……いや、それでも厳しいかもしれないな」


「せなら一か八か、わてが試しに飛び降りてみやしょうか?」


「まあ早まるな、ロカース。少し休めば、なにかいいアイデアが、なにか浮かぶかもしれない」

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