第6話 作戦会議

公国の国王陛下への謁見と、魔窟探索の勅命受諾式は、意外にもあっさりとした形式的なもので、終始淡々としたようすで行われた。


それと国王と側近たちは、腰にホルスターと銃を提げてケモノ耳と尻尾のついたガンマンの姿には怪訝そうな表情をみせたものの、それよりも若い女性であるソフィアが大きな犬を連れてきたことのほうが驚きのようだった。


最後に国王はクラージュに訊いた。


「ではよいかね、騎士クラージュ・フォルティスよ。なんというか、この独特なメンバーと思うが、この者たちと共に任務をこなせるかね?」


「はい、国王陛下。さほどの問題はないでしょう。あとは必要な装備と支援部隊をご用意頂ければ」


「よろしい。では頼んだぞ」


そして式も終わりになろうとしたとき、ロクァースは恭しいようすで国王に向かって言った。


「その国王陛下、ちょっとばかしのお願いを、よろしいでっしゃろか?」


「なんだね?」


「いえ、大したことじゃございやせん。魔物に備えて祝福なすった銀の弾丸を少しばっかし準備いただけるとありがてえと思う次第でございやす。わてはそれでも拳銃使いガンスリンガーをやっとりますんで」


国王はロクァースの言葉を聞いて小さく笑った。


「いまどき、信心深い者がおったか。うむ、構わない。どれほど用意すればよいか?」


「なあに、数えるほどで結構でございやす」


そして任務の勅命を受けた四人は王宮を後にした。


「さて、クラージュはん。」ロクァースは帽子を被り直すと意気揚々としたようすで聞いた。「これからわてらは、どないするん?」


「ひとまず近衛隊の旧宿舎へ向かう」


「旧宿舎?」


「戦争中は兵士たちでいっぱいだったが、今は空き家同然だ。ひとまず探索のための拠点になっている。今夜は三人とも、そこで寝泊まりしてもらうぞ」


「まあ、タダで泊まれるんならありがたいな」


「この後は食事をさっと済ませて、作戦会議をするとしよう。今日と明日で準備を整え、明後日には出発する」


「つまり、いよいよ始まるわけやな」



四人と一匹は食事を終え、宿舎の空き部屋にテーブルと椅子を持ち込むと、いよいよ探索の作戦会議となった。


「ほいで、計画はどないなっとりはるん?」


「第一段階は、日帰り行程の探索で内部を調査、記録することになっている」


クラージュは三人が頷くのをみてつづけた。


「まずは、魔窟の入り口付近に活動拠点を置くことになっているが、これは支援部隊がやってくれることだ。私たちは、入り口に到着したら装備を確認してすぐに内部へ向かう。半日程度で進める距離を、内部のようすを記録しながら進む。そして入り口まで戻る。夜は拠点のテントで休息し、翌早朝から再度、探索を繰り返す」


「ふーん、洞窟は一本道でのうて、入り組んどるんかいな?」


「少なくとも、入り口付近では三方向に枝分かれしていることだけは分かっている」


「難儀やなぁ。そもそもなんで調べとらんねんな」


「いろいろと事情があるのだよ。それに公国軍の探索は、すでに二度失敗している。慎重に進むのも重要だ」


「それは、せやな」


「それから、魔窟がある要塞跡の岩山自体は、半日もあれば一周できるほどの大きさだ。もちろん、地下の規模がどれほどのものかは、はっきりしないが、何週間も潜り続けて進むようなことは、現時点では考えていない」


「クラージュ、それで、」グノシーが控えめなようすで聞いた。「その、半日で進めなない長さの道はどうするの?」


「そこが探索の第二段階になる。深部へつながると思われる場所を確認したら、再度準備を整え、食料を二、三日分用意して進む。丸一日、もしくは二日、内部を進み続ける」


「ならもうちょっと、余分を持っていたほうがええやないか」ロクァースが唐突に言った。「万が一の事態を考えると余分があるほうがよか」


「だが、あまり装備を重くするものも考え物だ。もしも魔物、あるいはそのほかの脅威と遭遇して戦闘ともなると、可能な限り身軽なほうがいい」


「まあ、荷馬車引いて進むわけにもいかんわけやしなな」


「それに往路よりも、復路のほうが所要時間は短くなると見積もっている。不足はないだろう」


「クラージュ、どうして帰りは時間が少なくて済むの?」


「グノシーはん、進むときはいろいろ調べながら慎重に歩くんやで、帰りは来た道を戻るだけや。となれば、帰りの時間は短くなるっちゅうわけやな? クラージュはん」


「そのとおりだ」


「あの、」これまで静かに話を聞いていたソフィアが口をひらいた。


「どうした?」


「その、もしも深部がさらに広いというか、道が長かったら、その時はどうするんですか?」


「そのときは探索が第三段階に進む。といっても具体的にどうなるかは、その時の状況次第となるだろう」


「そりゃ、長丁場の行軍なりそうやなぁ」


「ところで、ソフィア」


「はい、なんですか?」


「君は絵を描くのが得意か?」


「ええ、はい。といっても薬草のスッケチとか、そういうのだけですけど」


「いや、それなら上出来だろう。魔窟を探索するときの地図を描く仕事をお願いしたい」


「わかりました。それなら大丈夫だと思います」


「わては何を請け負ったらよか?」


「貴様なら、だいたい分かっているだろう?」


「まあ、銃は撃てるで」


「魔窟探索のときの、後方警戒を任す」


「了解やで」


「それからグノシー、君は私の横について明かりを頼む。それと、先を警戒するために使えそうな魔法はあるかな?」


「それならお任せください!」


それから唐突に、ロクァースはつぶやくように言った。


「クラージュはん、わてがもっとも恐れとること言うたろうか」


「なんだいきなり、なにが怖いのだ?」


「もしも、なにも見つからんかったら、どないする?」


「なにを言うかと思えば、突拍子もないことを。これまでにいったい、何人の人たちが魔窟へ入ったまま、出てこなかったと思う?」


「まあ、せやな」


「ところでロカース。貴様は、なぜ魔窟に向かおうと考えていたのだ?」


「ははは、大したことじゃありまへん。とある女冒険家のことを忘れられへんでね。恩もあるんやが、探して旅をしとったら、彼女が最後に向かったちゅうんが、あの魔窟ってことですわ」


「女を追いかけて、魔窟へ向かおうというのか?」クラージュは大笑いした。「とんでもないことを考える奴もいたものだ!」


「だが、クラージュはん。いまだ逃亡中の幾人かの魔王軍の戦犯なんかには、たんまりと賞金が掛けられてまっせ。もしも魔窟に隠れ潜んどって、ついでに捕まえるこができりゃ儲けもんってやつや」


「まったく、あきれたやつだな」


「せやて、ソフィア嬢ちゃんやて、人探しで魔窟を目指しとるんやで」


「ソフィア、こいつのいうことはほんとうか?」


「ええ、まあ、私に施療師としての知識をいろいろと教えてくださった、お師匠様の行方を探しているんです。噂では魔窟探索に加わったと聞いています」


「なるほどな。だがまあ、ロカースに比べれば、ずいぶんとまともな理由に聞こえるな」


「なんでや、クラージュはん」


「まあ、ざっくりとしたことは以上だ。詳しいことは現地に行ってからになるだろう。それと質問があれば適宜したまえ」


そうして最初の作戦会議は終了した。

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