第5話 四人と一匹 魔窟への探索パーティ結成

師団長が街でスカウトしてきたという拳銃使いガンマン施療師ヒーラーとの、いよいよ対面となった。


「わての名前はロクァース・リベルタ。銃を提げたしがない旅人や。よろしくたのんます女騎士さん」


「私の名はクラージュ・フォルティス。こちらこそよろしく頼むぞ、ロカス君」


「騎士のクラージュはん。ロクァースですぜ」


臆しない唐突な指摘にクラージュは、少し戸惑った。


「ろ、ロカース?」


「はっはっは。まあ、構わへんですわ。呼びにくい名前と言われるんは慣れとりますねん。ロカスでもロカースでも、好きなように呼びはってくれて結構」


「では、ロカース君。よろしく頼むぞ。君は射撃の名手を自称するようだが、後でその腕前をみせてもらおうではないか?」


「よかですよ」


それからクラージュはソフィアのほうを向いたが、ソフィアは少し緊張ぎみだった。


「まあまあ、そう固くなるこもない。君の名前は?」


「わたしはソフィアです。ソフィア・チェスノスチです。旅をしながら施術師ヒーラーとして活動しています」


「ソフィア、きれいな名だ。私はクラージュだ、よろしく。施術師とは言うが、どういった分野を得意としている?」


「特に薬草です。症状にあわせて、その場で調合できますし、あとは整体と少しだけ針治療の技術も」


「それはなかなか上等なことだ。ええ、あとは、」


クラージュはソフィアの連れている犬に視線を向け、少しとまどった。「ええと、さすがにオオカミではないよな? どうやって飼いならした?」


「彼はフェデルタです。わたしにとっては、兄みたいな存在というか、家族みたいな、そんな感じです。そして旅の相棒です。とっても賢いんですよ」


「フェデルタか。なるほど、まあいいだろう」


フェデルタはその場にきちんとお座りをして、まるで握手で応えるかのように片方の前足を上げた。


「なるほど、賢いのは確かなようだな」


それからロクァースが、クラージュの少し後ろに立っていたグノシーに対して、興味深そうな視線を向けた。


「ほんで、そっちの若いあんちゃんは、なに者や?」


「僕はグノシー・クランティブ。魔導士です!」


しかしそれを聞いたロクァースは笑った。


「し、失礼ですね。なにがおかしいんですか!」


「いやはや、魔導士になるには、ちと若すぎやと思うで」


「ロカースよ。グノシーは、ちゃんとした魔導士だ。私が言うのもなんだが、彼は優秀な部類のほうだよ。ただ、ひとつ付け加えるならば、彼が新米の魔導士という点だ」


「ほなら納得ですわ」


「ああ、もう! クラージュったら、余計なこと言わないでよ」


「なにを口ごたえるか。事実であろう?」


「まあまあ、魔導士のグノシーはん、新米だろうと頼りにしまっせ」


「さて、よいかな」クラージュが仕切り直すように言った。「では、これから国王陛下に謁見となる」


「へえ、ほんまに会えるんか?」


「当然だ。今回の魔窟探索も国王の勅命となっている。私たちは直接に、陛下から命令のお言葉を給うのだぞ」


「なるほどねぇ」


「ところでロカース君、帽子くらい取ったらどうだ」


「いやぁこいつは、わてのトレードマークみたいなもんです」


「だがね、ここでは儀礼というものが必要だ」


「いやぁ、」彼の視線が若干泳いだ。「そんなら、まあ仕方ないわな」


彼が帽子をとると、クラージュとグノシーは、その頭についているものを見てあっけにとられた。


「貴様、その獣のような耳はなんだ? もしや魔族の系統の出身だったか?」


クラージュは思わず提げている剣のグリップに手をかけていた。


「ちょいちょい! ご勘弁頼んますで。」ロクァースも思わず一歩引いた。「わては大陸北方の出身で、しがねぇ獣人の血が少しばっか流れとるだけです。ほとんど人間みてえなもんやて」


「よろしい。ついでだ、そのマントもちゃんと脱いでもらおうか」


「あーあ、しゃーないですなぁ」


「うむ。」クラージュは、彼の周囲をぐるりとまわって観察した。「やはり、立派な尻尾まで付いているようだな……」


「騎士のクラージュはん。でもなぁ、種族差別はあきまへんで。戦争だってとうの前に終わっとります。それにこの耳は、人間のそれより多少は利くで。探索ではお役に立てるさかい」


「ふっ、」クラージュはニヤリとした笑みをみせた。「この期に及んで、貴様を探索パーティから外すわけにもいくまい」


「そら良かった」


「だがな、」彼女は音もたてずに剣を抜き彼の目の前に突き付けた。「万が一にも裏切りととれるような行為があれば、容赦はしない」


「えええ、」ロクァースはのけぞるようにして両手を軽く上げた。「参った参った。騎士のクラージュはん。それは、まあ、ごもっともやで」


さすがにグノシーが、見かねたように口をはさんだ。


「ねえ、クラージュったら、ちょっとやりすぎだよ」


「ああ、構わへん構わへん。魔導士のグノシーはん。こういうのは慣れとりますんで」


「それにこいつは、訓練を受けた軍人でもなければ、公国市民でもない。この程度のことで挫ける奴は、今回の任務には不適格だ」


「ははは。じゃあ、わては試験には合格でっか?」


「おまけに、こうしてふざけた奴ときた。まあ、その冷静さだけは、評価してもよいだろう」


「そらありがたいことで」


なにはともあれ、ここにユニークなメンバーによる第三次魔窟探索隊が結成されたのであった。

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