その3 さっちゃんの浮気
「そんなこともあったな~」
三月「現実逃避するな!」
ところ変わって今、俺たちは22歳。29歳のはずの兄ちゃん必殺のアイアンクローの威力に衰えはなく…なんか新宿ルノアールでそのまま朽ち果てそうな俺。
「兄ちゃん…なんか気持ち良くなって来ちゃった。俺死ぬのかな~一度もさっちゃん抱けずに」
五月「キモっ!!」
三月「まあまあ、正直なところは、こいつがそうそう浮気する訳は無いと思うぞ?」
五月「何でよ」
三月「だってよ、後少しでこいつは社会人。満願成就でお前を抱けるんだ。そんなときに浮気するかよ」
五月「だって相手の子凄い可愛いって」
三月「お前より可愛い女なんてそうそういないんだよ五月」
五月「お兄………」
「あの~兄ちゃん~全くもってその通りなんだけど…そう思っているなら、このアイアンクロー止めて!」
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「いてて…」
五月「だってさあ…お兄、こいつ前科があるじゃん…」
三月「前科ってことなら…お前だってそうだろ」
五月「うっ…そ…そうだけど、あの時はあんなに強引にこられるとは思ってなかったんだもん」
「………」
三月「五月、あれは浮気だよ。認めたくないかもしれないが、お前はあの男に身体も心も許していた」
五月「ううっ…ごめん…お兄」
22歳のさっちゃんは、絶世の美女だ。そのさっちゃんが兄ちゃんの前でだけはほんの少しかもしれないけど、可愛い子供っぽさを醸し出す…でもさ!
「(さっちゃん、何で当事者の俺には謝らないの!?)」
さっちゃんの中での、兄ちゃんと俺の扱いの差…今更ながら悲しくなるわ。
俺たちの危機は二回あったんだ。一回目は高校二年生のとき。さっちゃんのバイト先だった喫茶店にその男が…恐ろしく女慣れした強引な大学生がいた。
そいつは、いくらさっちゃんに交際を断られてもめげなかった。
それどころか、最初は騙し討ちみたいに奪ったキスを毎日のように繰り返してきて。
こんな強引さを知らなかったさっちゃんは、とまどいながらいつしかそれを受け入れていった。
「彼氏にちくっちゃうぞ~」最初はそれを阻止するためだったらしい。それでも男の振る舞いはどんどんエスカレートしていって。
さっちゃんはいつの間にかバイト先の店の奥で、ほぼ毎日、胸を揉まれながらのディープキスを当たり前のように受け入れるようになっていたらしい。
そんなことも知らず俺たちの仲もどんどんおかしくなっていって。
見かねた兄ちゃんが介入してくれなかったら、さっちゃんの処女は確実に奪われていただろう。
兄ちゃんと俺が大学生の家にさっちゃんを迎えに行ったとき、さっちゃんは下着姿でそいつの夕食を作っていた。本当にギリギリのタイミングだった。
知らないとは恐ろしい…激昂したその男は無謀にも兄ちゃんに殴り掛かり、あっさりと組伏せられた。
兄ちゃんは、さっちゃんの目の前でそいつの四股(同級の大学生あたりはまだしもバイト先の店長の奥さんまで)を詳細に暴き出し、呆然としているさっちゃんを尻目に、その大学生を徹底的に追い込み破滅させた。
そして「申し訳無くて正太郎と顔を合わせられない」と泣くさっちゃんと自信を無くしてしまった俺が取り残されたんだ。
―
―
三月「別に俺は五月が幸せになってくれるならお前じゃなくてあの男でも良かったんだ」
ある日の夜、俺は兄ちゃんにドライブに誘われて、兄ちゃんの赤いシビックSiの車中にいた。
三月「だけど、ちょっと調べただけで、あの男の悪行は目に余るものだった。あの男に五月を任せる訳にはいかなかったったんだ」
「兄ちゃん…ごめん…俺、不甲斐なくてごめん」
三月「………」
「謝りついでの泣き言でごめん…俺、自信無い…あんな男がこれからも現れるなら…俺、さっちゃんを繋ぎ止めておく自信無い…」
三月「…だってよ!五月」
「…へ?」
五月「…正太郎…ごめん…ごめんなさい」
「さ!さささ、さっちゃん!?」
後ろの席に…さっちゃんが隠れていた。
「に、ににに兄ちゃん!こ、これって」
三月「…」
兄ちゃんは無言のまま車を建物の駐車場にぶちこんだ。
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三月「この部屋で良いな」
目の前には、入室可能部屋を示すパネルが。
「………」
三月「清算方法とか…この後のことは五月にレクチャーしてある。大丈夫だな…五月?」
五月「…うん」
「お袋にはうまく言っておく。朝まで良いぞ」
五月「分かった」
「…兄ちゃん?」
三月「五月を好きにして良い」
「…え?」
三月「正太郎。男なら…五月の身体にお前を刻み付けて…五月を繋ぎ止めろ!!」
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五月「…お風呂のお湯を入れてくるね」
ラブホの一室。未だに呆然としている俺を尻目にさっちゃんが動く。
「…どうしてそんなに慣れてるの?」
五月「あの男と入ったと思った?そんなことしていないよ」
「…でも」
五月「…先日、お兄と入ったんだ」
「…へ!?」
五月「お部屋の使い方をレクチャーして貰ったんだ。帰りのタクシーの呼び方も教えて貰ったから」
「あ…ああ、そういう」
五月「もうすぐお風呂にお湯が溜まるけど…正太郎が…あたしを脱がせてくれる?」
「…え……え!」
五月「…良いよ…」
さっちゃんは、普段着のピンクのボタンダウンシャツにタータンチェックのスカート…それが逆に扇情的で。
五月「あっ!」
…震える手で第2ボタンを外すと…そこには非日常的な薄紫のブラジャーが。
五月「下もお揃いだよ?」
「さっちゃん…」
五月「正太郎…来て?」
「さっちゃん!」
五月「…あ!」
「さっちゃん!さっちゃん!!…へ?」
乱れたボタンダウンシャツのポケットから、さっちゃんが出してきたのは?
五月「ごめん…お兄からの伝言、始まる直前に渡せって」
「……」
『正太郎…五月に何をしても良い。五月も応えるだろう。だかな?一線だけは越えてはダメだそ?もし
越えたら…怒るからな!?』
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