第五話 …またねっ!!

―(回想高校二年生春)―

「劉さん、まじな話、君はアルトの声がはっきりして綺麗なんだから、錦野さんと一緒にアナウンサー目指したほうが良いと思うんだよ」

あれは、放送室で行われた放送部の新人歓迎会のときだったな。


一週間前に放送室の機械をぶっ壊しかけた、やる気はあるんだけどちょっと困った機械スタッフ希望の女子新入生に俺はやんわりと?アナウンサー転属を勧めていたんだ。

……正直、機械を守りたい一心で。


秀美「き、綺麗……な、なんですか!?わ…私を、く…口説いているんですか!?」

「口説いてねえ!!」


(画像)

https://kakuyomu.jp/users/kansou001/news/16818093079521746612


ショートカットに端正な目鼻立ちが可愛いその子はスレンダーだけど大きな身体をワタワタと揺らしながら立ち上がり、そして、


秀美「と、とにかく私は機械スタッフ希望を変えませんから!!」

「ば!待て!!こんな配線だらけのところでやみくもに動いたら!!」

秀美「きゃああ!」


お約束のように配線に足を引っかけて倒れこむ彼女。

……その時、見ちゃったんだ。

彼女の足が曲がってはいけない方向に曲がってしまったことを。

―(終)―


ゆうこ「あのとき、先輩は全く躊躇すること無く劉ちゃんをお姫様抱っこして保健室に走り出したんですよね」

「中学野球部で、結構見ちゃったんだよな、あの手の怪我」

ゆうこ「成井先輩に聞いたんですよね…桂木先輩って何であんな格好いいんですか?って。そしたら、成井先輩…あいつ良くも悪くもガキだから…って」

「…あの野郎!」

ゆうこ「悪くもガキってのはその後すぐ分かりましたからね」

「…俺は、あの後のゆうこちゃんの、俺への初めての言葉を忘れてないからな」

『先輩、ホントくずですね。さっき格好いいと思った私の感動を返して欲しいです。そんな先輩は、満場一致でこの後の劉ちゃんへの付き添いが決定しました。劉ちゃんのカバン持ってさっさと病院行って劉ちゃん自宅に送り届けてくださいっ!!』

(画像)

https://kakuyomu.jp/users/kansou001/news/16818093079895160740

ゆうこ「…だって本当に呆れたんだもん。保健室のベッドで大女だの重いだのちびだの延々と二人で言い争ってて…子供じゃあるまいし」


一見のほほ~んとした見てくれの、ゆうこちゃんの強烈な啖呵。

後ろで成井と平田ちゃんが慌てて、


『俺たちは言ってない、言ってないよ!』

とばかりに手を振っていて。


「…あの後、家に送り届けるまで、こいつ本当に一言も喋らなかったんだからな。気まずいのなんの」


俺はそこにいるはずの秀美の幻影をにらみつける。

…こいつ、そっぽ向きやがった!


ゆうこ「そうですか?私はそれから数週間の劉ちゃんの百面相が面白くて。突然黙りこんでから先輩の悪口言いはじめたり、真っ赤になって何か言い訳はじめたり。今考えると劉ちゃん、だいぶ早い時点から先輩にメロメロだったんだろうなって」


…秀美の幻影は…真っ赤になってそっぽ向きやがった!!


「…全然、気がつかなかったわ」

ゆうこ「先輩は、ガキ…真っ直ぐだったから」

「…言い換えたね?言い換えましたね!?」


エヘヘっとばかりに、ペロリと出してくるゆうこちゃんの小さな舌が可愛くて。


ゆうこ「まあまあ……そろそろ本題です。そんな真っ直ぐな先輩がやせ我慢って…本音を教えてください」

「うん…ゆうこちゃんには絶対にかなわないから」


俺はさっき電車の中で考えていたことを話した。


「…五月を抱く…これはアウトだ。ゆうこちゃんの言う通り、俺はあいつを秀美のかわりにしてしまう。それ以前に俺はあいつが大好きだし、多分あいつもだ。俺たちは多分二人で狭い世界を生き続けるだろう。…五月の可能性と引き換えにだ」


ゆうこ「…少し異論はあるけど…それで?」


「これからゆうこちゃんを抱く。多分俺は止まらない。もう一度君の中に俺の痕跡を叩き込み、二度と離さなくなる。多分、五月も成井たちも応援してくれて、きっと俺たちは一緒になる。但し…それは君の夢と引き換えに…なる。それが正しいのか…もう、俺には…分からないんだ…」

ゆうこ「…先輩」

「何より…俺にはそんな資格なんか…無いんだ」

ゆうこ「…先輩…」

「ん?」

ゆうこ「私、九州で二人の男の人に抱かれたの…1回ずつ…」

「………」

ゆうこ「…全然、気持ち良くなかった…それなりに好きな人だったけど…嫌悪感だけが強くなって……先輩のことが浮かんできて…涙が止まらなく…なって!」

「………」

ゆうこ「でもね?先輩。私…劉ちゃんが生きている間…先輩のこと好きだなんて思ったこと…1度も無いんですよ…先輩は私にとって一番近いのは…親友?」

「…うん」

ゆうこ「ずっと考えてた。身体の相性は多分最高。気持ちは…腐れ縁の大好きな男友達と…しょうがないね?って一緒になる?五月ちゃんもお母様も成井先輩や平田先輩もきっと祝福してくれて…」

「………」

ゆうこ「…それはきっと暖かくて幸せな日々で…でもね…先輩…私たちはきっと思い続けるんです…私たちの隣に…やっぱり劉ちゃんがいないことを」

…もう俺たちには、秀美の幻影は見えなくて…俺たち三人のお茶会は…幕を閉じたんだ。

ゆうこちゃんとベッドに…お互い生まれたままの姿で…片手は恋人繋ぎ…片手はお互いの身体をまさぐりあって…俺たちの足は複雑に絡みあって。


ゆうこ「…ね、先輩」

「ん?」

ゆうこ「一年、待って貰えますか?私が私の感情を整理するのに…10年は長過ぎです(笑)」

「………」

ゆうこ「整理出来て…、一年後、お互いフリーだったら…私はあなたの元に飛んできます!」

「ああ…分かった。…待ってるから」

ゆうこ「うんっ!…あ!それと…今日はやっぱり抱いてくださいね!」

「ゴム無いんだ…何としても我慢するつもりだったから…」

ゆうこ「大丈夫…今日は安全日。それに…今日は、先輩をもっと感じたい…」

「初めてだな…着けないの」

ゆうこ「ふふっ…うんっ!…あ…でも…」

「ん?どうしたの?」


ゆうこちゃんが艶然と…でもちょっとだけ子供っぽく


ゆうこ「優しくして…くれますか?…お願いっ」

「それは…無理だよ…ゆうこ」

ゆうこ「…名び捨て…ずるい…」

ゆうこ「んっ、んむっ……ぁ、はぁっ……んッ、んぁっ!」

久々の本気キス。

貪るように、舌や唾液を絡めあう。糸を引きながら唇を離すと淫乱なブリッジが二人をつないで落ちる。


ゆうこ「やだっ、あっ……先輩の舌、きもちいいよっ」

久しぶりの素直な反応がたまらない。暴力的な衝動に突き動かされるまま彼女を抱き寄せる。極上の柔らかさと熱い体温、それに女の子の甘い匂い。


ゆうこ「先輩、きてっ!」

「なにをしてほしいの?言って?」

ゆうこ「ぁんっ……先輩の…、いじわるっ!」

「ちゃんと言って?ゆうこちゃん」

ゆうこ「…欲しい…、欲しいの!…先輩の…◯◯◯◯っ!」

「良く言えました」

「あ!ああっ!!…だ、だめっ!これだめっ!は、離してっ!」

はじめて…余計なものの無い…尋常じゃない様子のゆうこちゃんの両手を恋人繋ぎに拘束して…そのまま…


ゆうこ「あっ、あっ、あっ、ひっ!」

今まで聞いたことがないような切羽詰った声。

はじめての……は創造もつかなかったほど何もかも違う世界で…ゆうこちゃんはまるでスタンガンを食らったかのように飛び跳ねながら痙攣し続ける。


ゆうこ「…だめ、だめ、…だめだめだめだめだようっ!」

俺とゆうこちゃんの両手はずっと恋人繋ぎ。


ゆうこ「あああぁっ!あっ!ああっ!ひっひっ!ひいいぃっ!」

普段は五月に「清楚なお嬢様って感じで…セックスなんて無縁って雰囲気」なんて言われるゆうこちゃんはそこにはいない。

多分…俺だけが知ってるゆうこちゃん。


「はっんっ!んっぐ!んっぐぅぅっ!…ああああああっ!…こ、壊れ……壊れちゃうっ!」

甘い声に込み上げるものを感じながら、俺はもう我慢する必要が無いことを理解した。

きっとこのまま朝まで…

ゆうこちゃんがどれだけ派手に痙攣しても、もう一切止めない。そして…ゆうこちゃんは絶叫し続ける。


朝まで…朝まではまだ…時間はたっぷりあるんだ…


翌日の朝…俺が目覚めたときには…ゆうこちゃんは既に出掛けていた。

有り合わせの朝食と…、短い手紙と…家のマスターキーがそこに…


『先輩、ありがと、…またねっ』

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