第6話 その破壊音は鬨の声となる
壊れ捨てられたビル街で、老剣士は一蹴りで数十メートルを放射線状に飛んで、コークスの群れから離れようとした。
その胸には片手と外套で一人の若い女性を固定している。彼女に意識は無い。戦闘が始まった頃、この老剣士の移動の加速度で失神していた。
老剣士の名は、オリヴァー・デイビス。七十二歳のイングランド出身。
剣をメインウェポンとし、かつて誰にも倒せぬと云われたドラゴンを倒し、ドラゴンスレイヤーの異名を持つ世界最強のスターゲイザーである。
しかし、今は身体のあっちこっちに怪我をして、血をダラダラと垂れ流していた。
「この程度の数に引けを取るとは……老いには勝てんな」
空中で苦笑いを浮かべたオリヴァーだったが、失血のせいで急に目眩とよろけに襲われた。
そのせいで着地に失敗し、片膝を付く。急いで顔を上げると、歪む視界の中でコークスの群れの"一番槍"数匹が目前に迫っていた。
「ちっ」
舌打ちをしながら、急いでオリヴァーは血が滲みる目を走らせた。
右三、左五……と一瞬のうちに認識すると、視界に一つの線が浮かび上がった。星が示す、この多数いる敵を一網打尽にする剣閃の軌跡だ。
オリヴァーは星燈を迸らせながら、それをなぞる様に剣を振った。
が、それは本来の軌道を逸れてしまい、二匹のコークスを仕留め損なった。
二匹が突進してくる。
そのうちの一匹は再度剣を振り切り落としたが、残った牛型のコークスはどうしようもなかった。
せめて、オリヴァーは抱える女性にぶつからないように体勢を変えて、コークスの体当たりをその身に受けた。
強い衝撃とともにオリヴァーは吹き飛ばされ、数十メートル飛んだ後、路地の突き当たりにあるガードレールに激突した。
血が喉を登り、ゴフッと口外へと吐き出される。
(星の導きによりこの地に来たが、老いたこの身で
しかし……)
胸から血がジワリと滲み出る。星燈術で一時的に止血しているが、それは致命傷だった。
オリヴァーはこの致命傷を負ったときのことを思い出した。
(しかし、この傷を与えてきたあの人型コークスが厄介だった。知性があり、どうやらこの群れを従えているらしかったが、今はどこに隠れたのか。
もう、オレは長くは保たん。星よ、早く導け。彼女を護る騎士をこの目の前に——)
オリヴァーはゆっくりと頭上を見上げる。雲が夜空の星を隠し始め、風が強く吹き、砂埃を巻き上げた。
そんな満身創痍のオリヴァーに向かい、コークスの群れは一心不乱に向かってきていた。
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