第6話 一通のメール


時刻は零時をとうに回っており、静寂な時間がただ流れ過ぎていた。



物音ひとつしない部屋のベットの上で俺はスマホを前に黙り込んでいた。



「ごめん。少し話がしたい」



いや、これじゃない!



俺は打ち込み途中だった文字を全て消す。

誠達とのゲームを中断し、スマホを取って彼女にメールをするまでは良かったのだが、先程からなかなか送るメッセージを決められないでいた。



「もう一時間か…」



すでにスマホとにらみ合いを始めてから一時間が経過しており、時刻も次の日に差し掛かっている。



「話を聞いてくれないか。」



あぁー!これも違う!



何度もメッセージを打っては消してを繰り返している。ずっと彼女になんと送ればいいのか分からないでいた。



もう一度誠達の所に行って聞いてくるか?いや、それだと俺の伝えたいことじゃない!俺が本当にあいつに言いたいこと…



「もう一度一緒にゲームがしたい。」



俺が心からあいつに伝えたいのはこれだ。誠や凛に見せたらなんて言うだろうか。いや、今はそんなのどうでもいい!俺が本当に言いたいのはこれだから。



俺はその一文を打ち込むと送信ボタンへと指を伸ばす。だが、指がそこに触れることはなかった。



何を躊躇うことがある。ただ、このボタンを押して返信が来るのを寝ながらでも待てばいい、それだけだ。なのに指は震えて固まったように動かない。



大丈夫。これを押しさえすれば明日の朝には前と同じように返信が来てるはずだ。そしていつも通り彼女からは長文の煽り文句が飛んできてそれに返信するんだ。…でも、また既読だけついて無視されたら?そんな思考が頭の中に出てきてしまったせいで後一歩踏み出せずにいる。



一度深呼吸し、スマホの電源を落とす。無造作にスマホを自分の枕元に投げると、ベットの上に横になる。ずっと考えていたせいで頭の方はもういっぱいだった。



少しだけ仮眠しよう。そうすれば変な不安も無くなるに違いない。起きたらすぐにメールを送ればいい。



布団は被らず、ベット上で横になる。天井を見上げながら、彼女に最後に言われた言葉を思い出す。「もう知らない」この言葉があの日からずっと頭の中から離れないでいる。



ダメだ。また考えがマイナスの方に。あれだけ誠にも言われたのに。



俺は頭を左右に激しく降ると体を横に向けて眠る体制に入る。



今は少し休んでまた後で考えよう。



今は休むことが大事だと自分にも暗示をかけ、目を閉じる。自分でも気付かない程大分疲れていたのか眠りに入るのはあっという間だった。



「んん。」



ゆっくりと瞼を開く。どれくらい寝ていたのだろうか。頭はまだ完全には覚醒しきれていないが、寝る前よりかは遥かにスッキリとはしていた。スマホの電源を入れ、時間を確認すると画面には5:30と映っていた。



しまった。つい寝すぎた。



メッセージを送るため少し仮眠しようとしたつもりが熟睡してしまっていた。焦りながらスマホのメールを開く。



「え?」



一言それだけが自分の口から漏れる。



メールを開くと一番上に新着メッセージが来ていたことに気づいた。俺はその新着メッセージの送り主の名前を見て固まる。熟睡した後のあのボンヤリ感が一気に消し飛び、頭の方も目覚めたのか瞬く間に覚醒する。新着メールの送り主の名前には「ハナ姫」となっている。見間違い等ではない。確かにそこにはあいつからの新着メールがあった。俺はメールを確認しようと指を通知の方へと伸ばすが、ここでもまた指の震えが出てきてしまっていた。



ッ!こんな時にまた。



俺は一度スマホを置き、手を開いたり、閉じたりして自分を落ち着かせる。



大丈夫だ。今回はあいつから送ってくれたんだ。メールを確認したらすぐに寝て忘れよう。



俺は目の前のスマホに手を伸ばし、いつもより重く感じるそれを持ち上げる。指はまだ震えているが、意を決してメールをタップする。



スマホの画面が切り替わり、あいつとのやり取りしていた画面が映し出される。その瞬間自分の目に飛び込んできたのは、煽り文句でも激昂した言葉でもなく一言。



「ゲームしよう!」



それだけだった。

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