第4話 ビックニュース

「で、結局昨日はお前が殺されて終わったと。」



俺は昨日の苦い記憶と一緒に白米を噛み締めながら静かに頷いた。



「ははははっ!ばっかでぇー。」



「うるさい!」



誠が卵を箸で掴みながらこっちを見て笑っている。余程ツボに入ったのか必死に腹を抱えながら笑っている。



「おい。笑いすぎだ。」



「だってよー。昨日俺があれだけ言ったのに、また喧嘩した挙げ句殺されて終わるなんて面白過ぎて。お前って本当に…アッヒャッヒャッヒャッ!」



こいつの笑いの感性は一体どうなっているんだ?

さすがにここまで笑われるとは思っていなかった。



「もういいよ。話した俺が馬鹿だった。」



「ごめんって!お願いだから拗ねないでくれよ!倭が楽しそうで安心したんだよ。」



「今のを聞いてどこが楽しそうに聞こえるんだよ。」



「だって、話してるときずっと笑ってたぞ。」



笑ってた?俺が?昨日の件に関しては煩わしさしかないが。



「口では色々と言ってるけどさ、本当は倭自身心から彼女とのゲームを楽しんでるんじゃないの?」



「いや…俺は別に…」



ゲームさえ出来れば良いと言おうとしたがその言葉が口から出てくることはなかった。



さっきから心臓がジクジクと痛む感覚に襲われている。まるで自分に嘘をついているかのような。

何とか自分の気持ちを整理するために心を落ち着かせようと深呼吸するとそれを遮るかのように誠が唐突に話し出した。



「あ!そうだそうだ忘れてた!昨日話しそびれてた話があるんだった。」



本当にこいつは普段何を考えているのだろうか。

急に話し出した誠に狼狽えていると誠はそのまま話続ける。



「りんりんから聞いた話なんだけどよ…」



そこまで聞くと俺はこれ以上聞きたくないと言わんばかりに必死に首を振る。



「嫌だ、嫌だ!お前らの惚気話なんて聞きたくない!」



りんりんと言うのは隣のクラスに在籍している綾瀬 凛のことで誠の彼女でもある。明るい性格で好奇心旺盛と言った感じだ。誠とは中学の頃からの付き合いで、俺も二人がくっつくのは当たり前のことだと思っていた。何度か彼女ともゲームをしたことがあるが、終始彼女の荒々しいプレイに驚愕していた。誠曰くそれが彼女の長所だと言う。もちろん誠も彼女と一緒にゲームをしており、遊んだ次の日には聞いてもいないのにお昼の時間を使って詳細に惚気話をしてくる。こっちとしてはたまったもんじゃない。だが、俺にとっては中睦まじく、楽しくプレイしている誠達こそベストコンビなんじゃないかと思っている。



「まぁ、そう言わずに聞いてくれよ。倭だって絶対食いつく話だと思うぞ?」



「何回そう言われてきたと思ってるんだ。毎度のように綾瀬さんの話ばかりで!」



「今回のはガチだって!本当にすごい話持ってきたんだからよ!」



「そうだよ!今回のは特ダネだからね。倭もきっと驚くと思うよ!」



背後からもう一人の声が聞こえてきたが振り返るより先に誰か分かってしまった。



「綾瀬さん?何でここに。」



俺の後ろに腕を組んで仁王立ちしていたのは案の定彼女だった。



「それはもちろん誠に会うために決まってるでしょ」



あぁ。聞いたのが間違いだった。



「りんりん…お前…」



「誠…」



結局こうだ。こうなると二人が満足するまで続くので俺はと言うと食べかけの弁当をしまって、場所を移すことにした。



「ちょっとちょっと倭もここいてよ。私まだ何も話してないよ?」



「何で俺までいなきゃなんだよ!それに綾瀬さんだって俺もいるより誠と二人きりの方がいいでしょ。」



「うーん。確かに誠とは一緒にいたいけど、今日は本当に話したいことがあるんだよ。あ、あと呼ぶときは綾瀬さんじゃなくて凛でいいって言ってるじゃん。」



「本当に倭はそういうところは紳士的だよなぁ~。昔っから本当に変わってねぇ!」



本当にどこか場所移そうか。

ラブラブな二人を前に俺は真剣に考えた。



「ほら一回こっちにきて話だけでも聞いてよ!」



俺は仕方なく自席に戻ることにした。



「それで話って言うのは?」



「えっとね。これは一週間前くらいに誠と放課後教室に残って勉強してた時の話なんだけど。」



「あん時は楽しかったなぁー。俺も教えるのはへたくそだったけど有意義な時間だったぜ。」



「誠は教えるの上手だったよ。お陰で今回の小テストも結構解けたもん!誠のお陰だよ!」



「へへっ。そうか?」



「どっか行っていいか?」



「それでね一通り終わって帰る準備してた時のことなんだけど。」



「無理やり話を戻すな。」



「帰る準備してたら、ちょうど教室に見回りしてたシャークンが入ってきたから少し話してたら、面白いこと教えてくれたの!」



シャークンとは自分のクラスの担任の先生こと鮫島先生だ。苗字に鮫が入っていることから皆からシャークンと呼ばれている。



「面白いこと?」



「うん!なんとねこの学校の、しかもシャークンが担任のクラスに転校生が来るんだって!」



「シャークン担任のクラス?それはつまり…」



「そう!誠と倭のクラスに転校生がやってきます!イェイ!」



そう言うと凛は俺と誠に両手でピースを向けてきた。



「転校生?今時しかもこんな田舎の学校になんて珍しいな。」



転校生が来るなんて初めてのことなのでどう驚くべきなのかがあまり分からなかったが、少し浮わついた気持ちになっているのは自分でも良くわかった。



「反応薄!誠にはもう言ってたからまだ分かるけど、倭はもっと驚いてよ!」



「いや、これでも内心すげー驚いてるし、ワクワクしてるよ。」



「じゃあ倭。今度は俺からさらにビックニュースだ!」



誠が俺の方を真剣な眼差しで見てくる。



「なんと!転校生は女の子です!」



「それがビックニュースか?」



「っておおぃ!反応薄すぎないか!?そんなに薄いと髪まで薄くなるぞ?」



「余計な心配だっての!俺の髪なんか心配すんな!」



「何だよーもっとはしゃぐかと思ってたのに。」



この二人は俺を一体なんだと思っているんだ。



「だってよー転校生だぜ?しかも女の子。もしその子が可愛いかったらどうするよ?俺等の教室どころか2学年の男子全員が動き出すぜ?」



そんなにこの学年の男子が女子に飢えているわけではないと思うが。



「えぇー。転校生が可愛かったら誠も行っちゃうのー?」



「そんなわけないだろ。りんりんは俺の一番だからな!」



「誠…」



やっぱり聞くのは今じゃなかったのかもしれない。



軽い後悔がお昼終了のチャイムと一緒に俺の中に響いてきた。

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