第2話 cerulean hunter


帝王セルリアン―その最大の強みになるのは、何と言っても全方位から襲いかかってくる触手なんだよね。負傷しちゃった先輩が言ってたけど、なんでも敵のいる前からだけじゃなくて、全方位から囲んだあとに、攻撃してくるんだってさ。まぁ、相手が回避できない所まで追い詰めてから攻撃するってのがあいつの戦法のミソってワケ

だからさ・・・



帝王セルリアンはイッカク先輩を倒した後、わたし達のテントの方に迫ってきていた。


「本体が見えてきたらもう触手に囲まれてると思った方が良いね。あと聞いたら触手透明で見えづらいらしい。」

ティラコスミルスはそう私に語った。


彼女の話した作戦は確かに効果的な作戦であると思った。―それが実現可能かどうかを考えなければ。


でも・・・彼女ならやってのけてしまうだろう。あの子の瞳にはそう信じさせる不逞さがあった。


遠くに淡くセルリアンの姿が見える。


「ティラコスミルス・・・死なないでよ。死んだら・・・何もできないけど」


ヤマカガシはセルリアンの姿を確認すると、背中を見せて逃げ始めた。さっき完成しかけていた包囲網は意味をなさなくなってしまった。しかし相手は一体。触手はどこまでも伸びていくのだ。セルリアンに感情があるのであれば、なんと無意味なことを、と思ったであろう。


しかしセルリアンにとって意外だったのは思ったよりヤマカガシの逃げ足が早いことであった。今までのハンターは一矢報いようとするのが常であったが、これは弱腰の逃げっぷりであった。セルリアンはしょうがないと思ったのか触手を更に伸ばした。

もうヤマカガシは本体からは見えない位置に来ていた。


―まず、目がついてる触手があると思うんだ。だからそれを潰す。

ヤマカガシは肩のマントに丸く収めていた鞭を取り出すと自分の斜め上を飛行していた目付き触手に絡みつけた。鞭を強く握ると触手に強く絡みつき、目は地面に落ちた。

すかさず空いている手で背中に担いだバズーカを放つ。散弾が弾けて触手は先からセルリウムが漏れ出し、やがて力をなくして地面にへばりついた。


―やつの触手は全方位からの攻撃に拘るんだと思う。だとしたら回避する方法は2つ     

 あるんだよね。

―2つ?

―そう2つ。まずは動き続けること。全方位囲むってことは全ての方向に触手がなく    

 ちゃいけないって事だから。なら、ある方向に触手が来ないように逃げ続ければっ

―なるほど・・・これならあたしでもできそう!

―まあね。触手って、実は結構足は遅いしね。

―あと一つは?

―あと一つはね・・・



セルリアンに感情というものはないが、もしあったならば「卑怯者」と謗ることだろう。触手が精密操作できないところまで逃げ、そこに来たら一気に逆襲してくる。すごくシンプルな戦法であったが、今まで触手に対処できるようなフレンズは迷わず突撃してきたので、ハンターではなく一般フレンズと見誤ってしまったのである。


セルリアンはまだ辛うじて生き残った触手を一回手元に引き戻そうとした。「奴」は近づいて処理する。そう判断した結果であった。


しかし、セルリアンは触手に気を取られ、自分を狙う暗殺者の存在に気づけなかった。


急に土煙が上がった。土煙が落ち着いた瞬間、目の前には全速力で突っ走ってくる一人のハンターがガラスの瞳に映り込んだ。


―もうひとつの方法。それは逆に接近して囲めない位置で戦闘するの。


あいつはヤバい。セルリアンはサブとして残しておいた触手を面に展開し、全速力で走るハンターに向かわせた。


しかしハンターは一切速度を緩めることなく走りながら、背中のバズーカを迫りくる触手に投げつけた。


本来はフレンズの体を突き刺し、トドメを刺す触手の先端。その先端にバズーカの起爆装置が見事に突き刺さった。


爆炎は同心円状に面展開していた触手に穴を開けた。


「バカの一つおぼえじゃぁ!」

ティラコスミルスはサンドスターで作られた戦斧を閃かすと同心円を2つに裂いて、

ついに本体にたどり着いた。



今のところ、わたしの予測どおりになりすぎて怖いくらいだ。セルリアンは右腕から触手が生えているので基本左に警戒しておけば大丈夫でしょ。


わたしはまず触手を切り裂いた勢いで右腕に斧を叩きつけ触手を切り落とした。同時に左腕からのアッパーが腹に飛んでくる。ここで回避して後ろに下がれば触手の餌食(切り落とされた触手もしばらくは動く)になるので避けられない。


腹に焼きごてでも押されたような痛みで一瞬意識が行きかける。痛みを消すために斧を横にスイングするとセルリアンの腹に・・・斧がすり抜けてしまった。

嘘・・・っ!ストレートが顔面に入る。わたしはセルリアンから引き剥がされそうになった。

「まだまだ!」


セルリアンの拳ではフレンズは死なないのだ。なら・・・

「いくら食らったってぇ!」

セルリアンのパンチを右腕で受け止めると骨が折れる音がした。でも不思議と痛みは感じなかった。


まだ生きているセルリアンの触手がわたしのふくらはぎに突き刺さる。凄まじい激痛で本当に意識が遠のいていくのがわかった。


わたしは左腕でナイフを逆手に横一文字に振り回した。セルリアンの頭が宙に飛んだ。

続けて逆に横一文字に振り回して腰とそれより上を切り分ける。胴体に核があるなら逃げられずに仕留められるはずだ。


切った胴を空に投げ核が安置されてる場合が多いみぞおちにナイフを突き刺した。

その途端、胴が液状になって崩れていく。

っ!!!まずい!足に核を移植していたのか!


ふくらはぎをやられて、もう歩く体力は残っていなかった。


くそっ!くそっ!ああ!


足はゆっくり勝ち誇ったように遠ざかっていく。


うう・・・



・・・緑と橙の模様の縄がわたしの頬をかすめた。その縄は逃げる足を捕え、わたしの方へ引きずってきた。


「ヤマカガシっ!」


ヤマカガシは鞭の付け根にある毒針をセルリアンに刺し込むと最初は逃げようと動いていたセルリアンもやがて動かなくなった。

  


かくして帝王セルリアンは征討された。しかし今回発生した犠牲、損害はセントラルハンターの組織としての形すら揺るぎかねない結果であり、戦術的には辛勝であったが、戦略的には完敗と言わざるを得なかった。


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