討伐クエスト達成報告


 ホーンボアの討伐クエストを達成した俺とソフィーは、冒険者ギルドに着くと達成報告のためアリシアさんのもとへ向かう。


「アリシアさん、戻りました」


「あら、トニーさんとソフィーさん、おかえりなさい。いかがでしたか?」


「残念ながら⋯⋯引き分けよ」


 ソフィーはクエストの達成状況について報告するのではなく、なぜか俺との勝負の結果について報告する。


「まさか、ソフィーさんと引き分けとは⋯⋯」


 アリシアさんもアリシアさんで、勝負の結果について興味深そうにしている。


「おいソフィー、クエストを達成したかどうかの報告だろ?」


「達成したかどうかなんて、私がいる時点でわかりきってるわよ」


 まあ、確かにそうか。

 Aランク冒険者がCランククエストを受けて、達成できない方がまれだ。


「⋯⋯そうだな。アリシアさん、クエストを達成したので確認と素材の買取をお願いしてもいいですか?」


「かしこまりました。ちなみに、何頭討伐されたんですか?」


「トニーと私でそれぞれ25頭。合計50頭よ」


「ごっ⋯⋯50頭も!? ⋯⋯ひとまず、解体場までモンスターをお持ちください」


 討伐数が思ったより多かったのか、アリシアさんが驚いているようだ。

 解体場へ運ぶように言われたので、ソフィーと一緒にモンスターを持って行くと解体する作業員の方々も驚いた様子だった。


「おい、聞いたか!?」「あの二人、ホーンボアを50頭も狩ったらしいぞ」「あのソフィーと引き分けらしいな」「一人当たり25頭は狩りすぎだろ⋯⋯」「あの新人、とんでもねーな⋯⋯」


 モンスターを運び終えて受付に戻ってくると、周りから驚愕している声が聞こえてくる。


 やっぱり多いよねー。俺もちょっと狩りすぎだとは思ってたんだ。

 でもあれだ、大量発生してたしな。


「大量発生しているおかげでたくさん狩れました」


「いや、多ければ狩れるものじゃないですからね!?」


 アリシアさんは呆れた様子だ。

 でも、俺のせいにされては困る。そもそもソフィーが決着がつかないからと、なかなか切り上げなかったのが悪い。


「少し、張り切りすぎたわね⋯⋯」


 ソフィーは「お前のせいだ」と言わんばかりの俺の視線に気付いたのか、気まずそうにそう答える。


「ギルドとしては素材が増えてありがたいですが、トニーさんはまだ新人です。ソフィーさんは、先輩冒険者としてもう少し引き際を考えてあげてくださいね」


「うっ、悪かったわよ⋯⋯。でも、トニーの実力はある程度わかったんじゃない!?」


 先輩冒険者の行動として問題があるという自覚があったのか、申し訳なさそうにしつつ、これ以上の叱責しっせきまぬがれるように話題をすり替える。


「まあ、確かにそうですね。初めてにもかかわらず、ソフィーさんと同じレベルでクエストをこなすとは思いもしませんでした」


「でしょ!? 私もここまでやるとは思っていなかったわ。トニーならAランククエストでも問題なさそうだし、早く私と同じAランクまで上げてもらえないかしら?」


 実力を認めてくれるのは結構だが、俺を抜きにして話を進めないでくれ⋯⋯。

 確かに、いきなりCランクからAランクになれば目立つし、謎の冒険者感も増すだろう。

 正直それも悪くないが、コツコツとランクを上げていく過程を楽しむのも冒険者の醍醐味だいごみというものだ。


「ソフィー、能力を買ってくれるのはありがたいが俺はまだ初めてクエストを達成したばかりだ。ただでさえ異例のCランクスタートだし、もう少し慣れてからランクを上げていきたい」


「そんなの、待っていられないわ! だって、同じランクのクエストで競わないと張り合いがないじゃない!」


 どうやらソフィーは、一刻も早く俺とAランククエストで競い合いたいらしい。

 気持ちはわかるが、俺の気持ちもんでほしいものだ。


「ソフィー、無理強いはよくない。トニーも困っているだろ?」


 ソフィーが強引に話を進めようとしたところで、ルークさんがソフィーをたしなめる。


「ルークさん、いらっしゃったんですね」


「ああ、そろそろ帰ってくるだろうと待っていた。ソフィーの同行をお願いした身だ、迷惑をかけていなかったか気になってな」


 ルークさん、ナイスタイミング!

 保護者が現れたおかげで、これ以上話が変な方向に進まなさそうで安心した。


「ちょっとルーク、私が迷惑をかけるわけないじゃない! 今もトニーの実力を考えて、ランクを上げてもらえるように掛け合っているところよ」


「ソフィー、話を聞いていたか? トニーは慣れてからランクを上げたいと言っていた。本人の意向を無視して話を勝手に進めるのは迷惑だ。それに、ランクを上げるのはそんなに簡単ではない」


 え? そうなの?

 ルークさんがソフィーの暴走を止めてくれている様子をありがたいと思って見守っていたが、ランク上げについての発言が気になる。

 転生前に本で読んだ内容では、アンソニーが学園に通い始めてから冒険者になるが、学園生活でのストーリーが主なため、冒険者の制度ついては登用試験があることくらいしか知らなかった。


「ルークさんの言うとおりです。ソフィーさんのパーティーは自身も含め優秀で、気がつけばランクが上がっていたようなものですし、知らなかったのは無理もないかもしれません。実際にランクを上げるためには、ランクに応じた必要な種類のクエストを規定数こなす必要がございます」


「──と、いうことだ。残念だがソフィー、今回は諦めよう」


 なるほど、ランクを上げるためのクエストの種類と数が決まっているのか。話しぶりから察するに、ルークさんはこのことを知っていたのだろう。

 今のところすぐにランクを上げる予定はないが、今後ランクを上げたくなった時のことを考えるといい話を聞けたな。


「うう⋯⋯それなら仕方ないわね⋯⋯。でもトニー、あなたならすぐにAランク冒険者になれると信じているわ。待っててあげるからさっさとランクを上げなさいよね!」


「ああ、なるべく期待に添えるように頑張るよ」


 急ぐつもりはないが、それを伝えてソフィーに文句を言われるのも厄介やっかいだ。

 ここは話を合わせておくことにした。


「トニー、今日はソフィーを同行させてもらえたことに礼を言う。そして、迷惑をかけてすまなかった」


「ちょっとルーク!? 保護者みたいなことを言わないでよ!」


 いや、どう考えても保護者みたいなものだろう⋯⋯。


「いえ、全然大丈夫です。俺にとっても、いい経験になりましたので」


「そう言ってもらえるとありがたい。これから世話になることもあるだろう。すまないが、その時はよろしく頼む」


 当分の間はソロで活動するつもりだが、ルークさんの頼みなら無下に断るわけにもいかない。


「わかりました。俺も今後お世話になるかもしれませんし、こちらこそよろしくお願いします。ソフィーも、これからよろしくな」


「ええ、トニー、これからもよろしくね」


 いい感じに話がまとまったことだし、そろそろ帰ることにしよう。

 ──っと、その前に、クエストの達成報酬と素材の買取報酬を受け取らないとな。


「トニーさん、ソフィーさん。クエストの達成報酬です、お受け取りください。ただ、素材の買取報酬につきましては、討伐数が多いため解体にもう少し時間がかかるようです。今日はもう遅いことですし、後日の受け取りも可能ですがいかがなさいますか?」


 報酬のことについて考えていると、それを見計らったようにアリシアさんが達成報酬と受け渡しと、素材の買取報酬の後日受け取りを提案してくれた。

 やはり、アリシアさんが優秀なのは間違いなさそうだ。


「では、それでお願いします!」


「私もそれでお願いするわ」


 お互い、クエストの達成報酬だけ受け取って帰ることを選択した。

 報酬も受け取ったことだし、帰るか。


「⋯⋯トニー! 次は私が勝つわ!」


 歩き始めたところでソフィーが俺に声をかける。


「俺も、負けるつもりはない」


 俺は首だけ傾けて振り向き、返答してその場を去った。

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