初めての討伐クエスト
ホーンボアの討伐クエストを受けた俺とソフィーは、帝都の外に出るとホーンボアが大量発生している森を目指していた。
「トニー、あなた、モンスターと戦うのは初めて?」
「ああ、もちろんだ。今から楽しみで仕方がない」
楽しみなのは間違いないが、モンスターとの戦闘は初めてというわけではない。
たまに、バーナード先生とランドルフ先生が魔法と剣術の実践のため、兄さんと俺を連れてモンスターを狩りに連れて行ってくれた。
まあ、安全面と目立たないよう
「そう。楽しみなのはいいけど、安全には気を付けなさいよね!」
初めてのクエストということもあり、俺のことを心配してくれているのだろうか。
いや、単に先輩面をしたいだけだなこりゃ。
「そっちこそ、俺の戦闘に気を取られてヘマするんじゃねえぞ!」
「な!? 余計なお世話よ!」
自分も人のことを言えないが、ソフィーから浮かれた雰囲気を感じたため
元々ソロで活動するつもりだったし、気遣いは不要だ。
それに、ライバルって言うならお互い対等な関係でいないとな。
「そろそろだな」
「ええ、気を引き締めるわよ」
帝都から西に向かって30分程歩いたところで森が見え始めた。
森の中は木が生い茂っているため視界が制限される。そのため、死角からの攻撃に注意する必要がある。
「着いたな」
「そうね。とりあえず、中に入るわよ」
「ああ」
森の中に入って暫く歩いて行くと、複数のモンスターと冒険者だと思われる気配を感じる。
他の冒険者となるべく場所が被らないように進まないとな。
「よし、こっちだ。他の冒険者と狩場が被らないように進むぞ」
「へえ⋯⋯あなた、最初に会った時にも思ったけど気配に敏感なのね。私が気配を消して近付いたのに全く驚いてなかったもの」
「え? 冒険者ならこれくらい当然だろ?」
「そんなわけないじゃない! 同じAランクでも、私の気配に気付ける冒険者は半分もいないわよ?」
「嘘⋯⋯だよな?」
まてまて、あんなあからさまに「私、あなたに用がありますわ」って気配に気付けないAランク冒険者が大半なのか⋯⋯。
冒険者の時はある程度問題ないが、学園では少しでも気配を消して近付いてくる奴がいたら驚いたふりをしよう⋯⋯。
「本当よ! 私がライバルだと認めただけあるわね」
「ふっ、当然だ」
何が当然か全くわからないけど話を合わせておこう。
──っと、他愛のない話をしているとボーンボアだと思われる気配が近付いてきた。
「ホーンボアがいたわ、どっちが多く狩れるか勝負よ!」
「望むところだ!」
俺とソフィーの気配に気付いていないのか、7頭のホーンボアが群れを成して、俺たちとは逆方向に向かって走り続けている。
そのまま気配を消して1頭のホーンボアに近付くと、かけだし冒険者っぽい作りのロングソードで後ろからのすれ違いざまに一太刀浴びせる。
その際、剣の表面を魔力で覆って保護し、切れ味も上げる。せっかくイリスが用意してくれた武器だ、大切にしないとな。
「まずは1頭」
胴体が真っ二つに別れたホーンボアを視界に収めると次の標的に向かって疾駆する。
ソフィーは俺が一太刀でホーンボアを仕留めたことに目を見開いていたが、自分も負けまいとホーンボアに向かって魔法を放つため手をかざす。
「
周囲の温度が下がるのを感じると、ソフィーが魔法で氷の槍を放ち、ボーンボアを1撃で仕留める。
その様子を横目で見ていると、こっちに視線を向けドヤ顔をしてきた。
「氷魔法か、珍しいな」
何か言って欲しそうだったので、氷魔法について触れる。
「驚いたかしら? 私、氷魔法が使えるのよ」
「氷魔法の使い手は少ないと聞く。それに、初級魔法でその威力ならかなりの使い手だな」
「当然よ、私がAランク冒険者たる
そう言いながら、ソフィーが次の標的に向かって魔法を放つ。
「流石Aランク冒険者といったところか」
俺も負けじと次の標的に接近し、一刀両断する。
お互いに3頭ずつ仕留めたところで、ふと何かに気付いたようにソフィーが動きを止める。
「待って⋯⋯あなた、なぜ私が使った氷魔法が初級魔法だとわかったのかしら?」
あ、やべ⋯⋯。
流石に「俺も氷魔法が使えるんだ」と答えるわけにはいかない。
「込めている魔力量と効果範囲から推測したまでだ」
それっぽいことを答えつつ、ソフィーの動きが止まったのをいいことに、俺が最後の獲物を仕留める。
「あっ、ちょっと!」
「ん? どうかしたか?」
「私の獲物だったのに⋯⋯」
少し残念そうな顔でこっちを見てくるが、俺との話に気を取られていたのが悪い。
「早い者勝ちだろ?」
「うっ、悔しい〜っ。それはそうと、あなた、魔力探知も使えるのね。そうじゃなきゃ、私が込めた魔力量なんてわからないわよね?」
「まあな」
「やっぱり。あなた、一体何者なの?」
いいね、その質問。
ライナスの時もそうだったけど、何者か聞かれるのは謎の冒険者っぽくていい。
「ふっ、ただのCランク冒険者だ」
そしてこれだ。
誰かの「何者?」に対して「ただの〇〇だ」と答えるのが最っ高に気持ちいい。
「ただのCランク冒険者が、ホーンボアを一太刀で仕留められるわけないじゃない!」
「ソフィーこそ、氷の初級魔法でその威力。冒険者になってから身に付けたとは思えないな」
俺としても、ソフィーの素性について少しだけ気になった。
同じ年齢でこのレベルの魔法が扱えるなら、冒険者になる前に身に付けたと考えた方が腑に落ちるからだ。
「え? わ、私のことはいいのよ! それよりあなた、どうなのよ!?」
「どうって⋯⋯。一時的にパーティーを組んだとは言え、あまり個人の素性について詮索するのは冒険者としてマナー違反なんじゃないか?」
もちろん、謎の冒険者として活躍していくつもりだから素性を明かすわけにはいかない。
「それは、そうだけど⋯⋯」
「まあ、せっかくライバルになったんだ。少しずつお互いのことを知っていけばいいんじゃないか?」
この話題をずっと続けるわけにもいかないため、終わりに持っていく。
ソロの冒険者としてやっていく以上、あまり深く関わるつもりはないがな。
「それもそうね! 素性はともあれ、トニーの実力ならライバルとして不足なしよ!」
「それは光栄なことで。よし、素材を収納したら次の群れに向かうぞ」
「ええ、次は私が多く仕留めるわ」
次の狩場に向かう前に、マジックバックの中にホーンボアの素材を収納することを忘れない。討伐数が多くなることを見越し、大容量収納できるマジックバックを事前に準備していたのだ。
この後、俺たちは複数のホーンボアの群れに向かい、討伐を繰り返した。
そこそこの数のホーンボアと討伐したと感じたところで、終わりにしようとソフィーに声をかける。
「そろそろ終わりにしないか?」
「まだよ、もう少し狩るわよ」
俺たちの討伐数は現在それぞれ23頭ずつだ。
パーティーでのクエスト達成条件のほぼ5倍をそれぞれで達成したことになる。
「もう、かなり狩り尽くしたと思うぞ?」
「でも⋯⋯これじゃ決着がつかないじゃない!」
そう、討伐数で勝負している俺たちだが、討伐数が同じため引き分けの状態だ。
ソフィーはそれでは納得いかず、討伐を続けようとしているが日も落ちてきたため流石に終わりにした方がいい。俺は、なんとか終わりにしようと説得することにする。
「なら、今からどっちが先に2頭討伐するかで勝負しないか? 達成条件の5倍と、区切りもいい」
「いいわね、そうしましょ!」
「その代わり、2頭目の討伐タイミングが同じだったとしても終わりにすること。いいな?」
「わ、わかったわよ⋯⋯」
よし、なんとか納得させることができた。後はなんとか引き分けに持っていこう。
なんで勝負をつけないかって? だって、勝ったら後が面倒くさそうだし、負けたら負けたで
「丁度、ホーンボアが4頭いるようだ」
「ええ、決着をつけるわよ」
あ、危ねえ⋯⋯。引き分けに持っていこうとは考えていたが、
3頭だと同じ討伐数にならないし、3頭目の討伐タイミングを合わせる手もあるが、かなりシビアだからな。まだ、それぞれ同時に2頭目を討伐するタイミングなら、各獲物に集中するため多少のタイムラグは誤魔化せる。
「俺が先に仕留める!」
「いいえ、私が先よ!」
まずは1頭目。
仕留めたタイミングはほぼ同時だった。
そして2頭目。
俺はタイミングを外さまいとソフィーの動きと魔力に集中し、ソフィーの魔法が2頭目のホーンボアに当たるのと同時に自分の獲物を仕留めた。
「引き分け⋯⋯だな」
「⋯⋯そうみたいね」
「決着はつかなかったが仕方がない。約束通り冒険者ギルドに戻るぞ」
「納得はいかないけど、仕方がないわね⋯⋯」
ソフィーは不服そうではあるものの、諦めがついたようだ。
お互いに素材を収納すると帰路につく。
「ねえトニー、今日は楽しかったわ」
「そうだな、俺も初めてのクエストでモンスターと戦えて楽しかった」
「正直、戦いとは言えなかったわよね。まさか、初めてで私と同じペースでホーンボア討伐する冒険者がいるとは思わなかったわ」
「俺も、同じくらいの年齢で氷魔法が使える冒険者がいるとは思わなかった」
ホーンボアが
「トニーの戦いぶりを見ると、他のCランク冒険者が
「買い被りだ。ソフィーこそ、今日の戦いだけではまだまだ実力の底が見えないと感じた」
「そんなの、Cランクのモンスター相手では当然よ。Aランク冒険者だもの」
確かにそうなんだが、同じAランク冒険者のライナスと比べてみても実力が一線を
まあ、その点はもっと高ランクの依頼で一緒になった時にはっきりとわかるだろう。
「ライバルとしては異存なしってところか」
「
「そりゃどうも」
こんな調子で、冒険者ギルドまでの道のりの間ソフィーとの仲を深めるのだった。
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