スカウト? 遠慮しておきます


 俺は試験場から受付に戻ってくると、再度アリシアさんの元へ向かう。


「すみません、冒険者の本登録をお願いします!」


「あ、トニーさん! 無事に合格できたみたいですね、おめでとうございます!」


 アリシアさんが俺の合格を祝ってくれる。


「これがギルドカードです、身分証としてもお使いいただけるので無くさないでくださいね。ちなみに、トニーさんは特例としてCランク冒険者からのスタートです」


「おー! ありがとうございます!」


 通常、冒険者はFランクからのスタートだが、それなりに実力が認められたのかCランクからでいいらしい。


「おい、聞いたか?」「Cランクスタートだってよ!」「スカウトしようぜ」


 冒険者登録が完了すると、話を聞いていた他の冒険者達が俺のもとに群がってき始める。

 すると、俺の登用試験を観ていた人達の気配を感じた。


「待て、俺たちが先だ」「外野は少し黙ってて」「登用試験を見ていた者が優先だ」「スカウトなら俺たちの後にしな」


 登用試験を観ていたパーティーリーダーと思わしき人達が、他の冒険者を押しのけて俺の前までやってきた。


「俺はレオン。さっきの試験を見ていた。よかったら俺のパーティに入らないか?」

「レイラよ。火属性の中級魔法、私達のパーティーでこそ輝くわ。うちに来ない?」

「ルークだ。ライナスを打ち負かす手腕は見事だった。ぜひうちで活躍してもらいたい」

「俺はオリバー、Bランクパーティのリーダーだ。Cランク冒険者なら仲間として申し分ない。俺たちと一緒に来ないか?」


 4人の冒険者達がそれぞれ俺をパーティーに誘ってくる。

 だが、俺の答えは決まっていた。


「あー、えーと⋯⋯結構です」


 スカウトしてもらえるのはありがたいが遠慮しておこう。


「なぜだ!?」

「どうして!?」

「どういうことだ?」

「せっかく誘ってやってるというのに」


 断られると思っていなかったのか、全員驚きを隠せないでいる。


「だって、ソロの冒険者のほうがかっこよくない!?」


 やっぱ冒険者はソロに限るよねー。一匹狼感がかっこいい。

 もちろん、パーティーを組んだらソロじゃ厳しいクエストに挑めたり、野営するときに交代で周囲を警戒できたりと、他にも色々メリットがあるのもわかる。

 でも、色々気を使わなきゃいけないし、学園に通う時に誤魔化すのが面倒だ。


「あいつ、断りやがったぞ」「あの4人、結構有名な冒険者パーティのリーダーじゃなかったか!?」「理由が意味わからん」


 この人達、そこそこ有名だったんだ。周りが騒がしい。


「そうか⋯⋯。また、パーティーを組みたくなったら声をかけてくれ」

「理由に納得はいかないけど、仕方ないわね」

「人数が必要な時も来るだろう。その時は遠慮せずに言ってくれ」

「おい、後悔しても知らないぞ?」


 あっさりと引いてくれるあたり、やたらと粘ってくる営業なんかと違って印象がいい。機会があれば今後一緒に組むのも悪くなさそうだ。

 レオンさんに、レイラさん、あとルークさんね。覚えておこう。

 あ、最後のオリバーって人は論外で。


「お誘いは嬉しかったです。クエストで一緒になることもあるでしょうし、その時はよろしくお願いします」


 同じ冒険者である以上、イメージが悪くならないように当たり障りのない返答をしておく。


「俺らも諦めよう」「ああ、あの4人で無理なら厳しいな」「他を当たるか」


 俺が4人のスカウトを断ったとわかると、周りの冒険者達も諦めたとばかりにその場を立ち去っていく。


「本当によろしかったんですか?」


 アリシアさんが俺に、スカウトを断ってよかったのか再確認してくる。


「ええ、俺はソロでやっていこうと思います」


 もちろん考えが変わるわけがなく、ソロでやっていくことを伝えた。


「かしこまりました。本日よりトニーさんは、Cランク以下のクエストであれば受注可能です。早速クエストを受けられますか?」


「いえ、今日は元々登録だけのつもりだったので、明日からまた来ます」


「かしこまりました。ではまた明日お待ちしております」


「明日からよろしくお願いします」


 俺はアリシアさんに明日からクエストを受けることを伝えると、冒険者ギルドを後にした。




 * * *




「まさか、私と同じくらいの歳でCランク冒険者になる奴が現れるなんてね」


 冒険者ギルドの片隅で、10歳の少年が登用試験に合格し、Cランク冒険者になった様子を遠目で見ていた少女は興味深そうに呟く。

 綺麗な白髪はくはつに水色のインナーカラーが入った髪色は氷雪を連想させ、雪のような白い肌と吊り目が相まって、幼いながらも少し冷徹さを感じさせる。


「珍しいですね、お嬢様が他の冒険者に興味をもつなんて」


「ルーク、私だって平民に無関心ってわけではないのよ」


「ソフィア様が慈悲深い方であることは存じております。ただ、今までは他の冒険者に見向きもしていらっしゃらなかったので」


 当然である。

 ソフィアと呼ばれる少女は10歳にしてAランク冒険者パーティーの実質トップだ。便宜上ルークをリーダーとしているが、パーティーの方針は基本的にこの少女が決定する。

 これまで、ライバルと言えるような存在がいなかったため、Cランク冒険者とは言え自分に並ぶ可能性のあるトニーに興味津々のようだ。


「ソフィーと呼びなさい! ここでは私も冒険者よ。でも、冒険者をしていてこれまで張り合いがなかったのも事実ね」


「すまない、ソフィー」


「いいわ、ルークには感謝しているのよ。私が冒険者をしたいって我儘わがままに付き合ってもらっているもの」


 ルークはソフィアの従者であり、かなりの実力者でもある。ソフィアの我儘によって、現在冒険者として活動しているのだ。


「俺のスカウトに応じてもらえなかったが、どうする?」


「むしろ好都合ね。同じパーティーじゃない方がライバルとして競い合えるわ」


「ふっ、楽しそうだな」


「当然よ、期待外れだったら許さないんだから」


 ルークはソフィアが楽しそうにしているのを微笑ましいと思うと同時に、過度な期待を持たれているトニーに同情を覚える。しかしながら、ライバルとの出会いによるソフィアの成長を願う身としては、トニーが期待通りの人物であることを願わずにはいられなかった。


「あまり我儘に付き合わせるとトニーが可哀想かわいそうだぞ」


「大丈夫、うまくやるわ!」


「そうか、ならいい」


 ソフィアのあまりの笑顔にルークは何も言い返せなかった。


「トニー、頑張れよ⋯⋯」


 こうなったソフィアを止めることが困難だと知っているルークはそう呟き、トニーを陰ながら応援することを決めるのだった。

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