冒険者の登用試験を受ける


 ライナスに連れられ、冒険者ギルドの入り口と反対方向に向かって進むと、小さめの闘技場みたいなところに出る。少ないが観客席もあり、数十人程の冒険者と思われる観客もいるようだ。

 なんでも、パーティーメンバーを募集している冒険者たちが、パーティーに必要な能力を持つ新人をスカウトしたり、新人がパーティーに所属できる機会を増やすためなんだとか。


「ガキじゃねえか」「ちょっと若すぎるわね」「期待はずれだな」「時間の無駄だから飯でも食ってくるわ」


 観客席で俺に対する色んな意見が飛び交うが、試験に集中しよう。

 と、そこでなぜか周りが騒がしくなってくる。


「なんでギルドマスターが!?」「まさか⋯⋯ね」「ただの気まぐれだろう」「やっぱ、念の為見ておくか」


 どうやら、ギルドマスターも観客席で俺の登用試験を見るらしい。反応から察するに、わざわざ登用試験を観にくるのは珍しいようだ。


「冒険者は依頼でモンスターや盗賊と戦うことも多いため危険が伴う。よって、試験では実践的な実力を測るため武器を使った俺との試合か、魔法が使える者には魔法を実演してもらう。両方とも希望する者もいるが、お前はどうする?」


 ライナスが試験の内容を説明し、俺に選択を求める。


「もちろん、両方で」


「いいだろう。だが、やめるなら今だぞ」


 再度俺に警告してくるが、答えは決まっている。


「やります!」


「わかった、最初に試合を行うが武器はどうする? 俺は木剣を使う」


「では、俺も木剣で」


「用意するから待ってろ」


 ライナスは色々な木製の武器が並んでいる武器置き場に向かい、2人分の木剣を持って戻ってくる。


「ほら、木剣だ」


「ありがとうございます」


 木剣を受け取ると、お互いに距離を取り木剣を構える。


「これより、冒険者登用試験を始める。いつでもかかってこい」


「なら、お言葉に甘えて」


 開始の合図とともにゆっくりとライナスとの間合いを詰め、ある程度近付いたところで急加速し袈裟斬りを放つ。


「なっ、速っ⋯⋯!?」


 俺の振りが思ったより速かったのか、ライナスが慌てて受け止める。


「油断しすぎですよ」


 そう言いながら再度間合いをとる。ライナスも気を引き締めたのか、真剣な表情になった。


「ちっ、今度はこちらからもいくぞ」


 ライナスはそう言って、振り下ろし、袈裟斬り、逆袈裟と何度か俺に向かって剣撃を放つが全て受け流す。

 途中、牽制けんせいのためこちらからも攻めるが、流石Aランク冒険者、全部受け止めてくる。


「流石ですね」


「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯くそっ、お前何者だ? ガキにしては剣が重すぎる」


「ただの10歳児ですけど」


「そんなわけあるか!」


 ビブリア流剣術は先手で攻め切ることも可能だが、後手で相手の攻撃を見切ったうえで反撃を狙うことに特化している。ライナスは中々健闘したほうだと思う、でも。


「終わりです」


 何度か切り結んだ後、俺はライナスの重心がブレ、重さが乗っていない振りを見抜いて木剣を弾く。そして、隙だらけになったライナスの首元に、横から木剣の刀身を近付けて止めた。


「──っ!? ⋯⋯参った」


 ライナスは驚愕きょうがくで目を見開いた後、降参を認める。


「ありがとうございました!」


 試合終了後の挨拶とともに、俺とライナスの試合は終わりを迎えた。


「おい、見たか?」「あの子、強すぎない?」「嘘だろ、あのライナスを⋯⋯」「見ておいて正解だったな」


 しばしの沈黙の後、周りの冒険者達が騒ぎ始める。

 あー、この注目されている感じ、たまんねえ。


「お前の剣の実力はわかった⋯⋯。次は魔法を見せてもらおう」


「望むところです!」


 ライナスは俺の実力に気付いたためか、先程と態度が変わる。




「闘技場には魔力障壁を張ってあるため、ここで魔法を放ってもらって問題ない。なるべく使える魔法の中で威力が高いものを頼む」


「わかりました」


 そう言われたので俺は正面に手をかざし、魔力を集中させ火属性の中級魔法を準備する。


「燃え盛れ、炎よ」


 俺はシンプルな詠唱で、火属性の中規模な範囲魔法を行使した。炎がほとばしり、周りが熱気に包まれる。

 この世界の魔法は、決められた詠唱は存在せず人によって様々だ。魔法の発動に必要なのはイメージと、込める魔力量や魔力操作による魔法制御力である。


「あれは⋯⋯中級魔法!?」「なんなのあの子」「⋯⋯嘘だろ」「逸材かもしれねえな」


 周りは、俺が中級魔法を使えることに驚いているようだ。


「では、次の魔法いきますね」


「いや、ちょっと待て!」


 なぜかライナスに止められた。


「この規模の魔法を使っておいて、他にもあるのか?」


「はい、火属性魔法だけだと認めてもらえないかなって」


「⋯⋯こっちに来てもらえるか」


 そう言われたのでライナスの近くまで歩いていく。すると小声で話しかけてきた。


「ここには他の冒険者がいるから、聞こえないように話す。お前、あの規模の魔法を他の属性でも使えるってことだよな? それなら、これ以上手の内を晒す必要はない」


「そうなんですか?」


「ああ、登用試験は能力を確認するためではあるが、一定以上の能力は隠す者がほとんどだ。能力によっては、悪い奴に目をつけられる可能性もあるからな」


 ライナスが俺のためを思ってアドバイスしてくる。まだまだ本気で魔法を使っていないが、ライナスがそう言うなら従っておこう。


「ライナスさんって、もしかして良い人?」


「⋯⋯さっきは悪かったな。能力のある奴は大歓迎だ」


 頭の後ろに手を当てながら、バツが悪そうに俺に謝罪してきた。

 俺も生意気な態度だったことを謝っておこう。


「こちらこそ、生意気言ってすみませんでした」


「もう気にしていない。それより、登用試験の結果を伝える」


「はい! お願いします!」


 小声でのやり取りが終了し、ライナスが結果発表に移る。


「結果を発表する。トニーは近接戦、魔法において申し分ない能力を発揮した。よって、トニーを合格とする」


「ありがとうございます!」


「以上で冒険者登用試験を終了する」


 ライナスの発表により、俺が冒険者になることが決まった。


「お前ら、どうする?」「言うまでもないわ」「パーティーにほしいな」「スカウトするしかないだろ」


 冒険者のリーダーらしき人達が、俺をスカウトすることについて話しているのが聞こえてくる。

 うーん。冒険者パーティーか、どうしようかな。




「⋯⋯流石、あいつの息子といったところか」


 周りが騒いでいる中、ギルドマスターが何か呟いているような気がしたが、内容までは聞き取れなかった。




「正式な冒険者登録は受付で行う。話を通しておくから、お前はこのまま受付に向かってくれ」


「はい! 行ってきます!」


「⋯⋯トニー、期待してるぞ」


「任せてください!」


 ライナスに言葉を返すと、俺は受付に向かって歩き始める。


「これで念願の冒険者だ⋯⋯。あー、楽しみ!」


 登用試験に受かった俺は、これからの冒険者ライフを想像し、期待に胸を膨らませ試験場を後にするのだった。

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