いざ、冒険者ギルドへ
兄さんがヴィストレア魔法剣術学園へ入学する日になった。
ヴィストレア公爵領にある学園は、ビブリア伯爵領から馬車を使って丸一日ほどかかるため、学園では寮生活となる。
兄さんを見送るため、家族全員が外に集まった。
「兄様、少し寂しくなりますが、学園生活頑張ってきてください」
「ウィリアム、無理はしないこと。そして、良い人を見つけてくることを期待しているわ、ふふふ」
「お前のことだ、心配はしていないが、ビブリア家は他の貴族と違い少し特殊だ。上手くやれよ」
俺、母さん、父さんの順に激励の言葉をかける。
母さん、兄さんはイケメンで実力もあって優しいし、絶対モテるから安心していいと思うよ。⋯⋯いいよね?
うん、父さんも心配してなさそうだし、兄さんならきっと上手くやるさ。
「みんな、ありがとう! 行ってくるよ! 爺、頼んだ」
「はい、坊ちゃんの送迎はこの爺にお任せください」
兄さんが爺と呼ぶ人物は、ビブリア家の執事であるリチャードだ。俺にとってのイリスのように、兄さんの世話役を担っている。この爺さんかなり優秀で、俺が実力を隠していることに薄々勘付いている節がある。前に父さんと母さんに正体を聞いてみたことがあるが、なぜかはぐらかされた。何者なんだろうねほんと。
兄さんが学園に向かった翌日。
暇になるのは嫌なので、俺は早速冒険者になる準備をした。
「どう? 似合ってる? イリス」
俺はイリスに用意してもらった平民っぽい服に、かけだし冒険者が身に着けてそうな安っぽい装備を身に着け、鏡で確認した後イリスに感想を求めた。
「はい、どう見ても平民にしか見えません」
うん、イリスの折り紙付きなら問題なさそうだ。
俺の髪色は父さん似で黒に近いグレーだが、メッシュっぽく見えるように髪の一部を黒く染めることにした。もちろん、すぐに色を落とせるようになっている魔力が込められた特殊なカラー材を使用する。
見た目は厨二病っぽいが仕方ない。貴族には見えないだろう。
「じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ、アンソニー様」
支度を終えた俺は、イリスに出かけることを伝え、俺達が住んでいるレリテア帝国の帝都にある冒険者ギルドに向かうことにした。
冒険者ギルドの前についた俺は、冒険者になれる喜びを抑えきれずニヤニヤしていた。
周りに怪訝そうな顔を向けられたが気にしない。
「これが冒険者ギルドか⋯⋯よし、早速入っ」
──痛っ!?
「おい、ガキ! ギルドの正面に突っ立ってんじゃねえ! 邪魔だ!」
「あっ、すっ、すみません!」
「次から気を付けな!」
がたいの良い、柄の悪そうな大男が俺にぶつかった後、冒険者ギルドに入って行った。
いてて⋯⋯ちょっと浮かれすぎたのか、気配に気を配るのを忘れていた。
「入るか」
俺は冒険者ギルドに入った後、受付に向かう。
「どうしたのきみ、こんなところに来て」
迷子と勘違いされたようで、受付嬢に心配された。
「あの、冒険者登録をお願いしたいんですけど」
「失礼いたしました。私、受付嬢のアリシアと申します。冒険者登録ですね、こちらの登録用紙に記入をお願いいたします。文字の記入は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です、自分で記入します」
アリシアさんは、俺が冒険者登録を希望しているとわかると、すぐに仕事モードへの切り替えた。
おー、この人、受付嬢としてかなり優秀そうだ。
今の反応を見る限り、俺くらいの年齢で冒険者になる者は少ないものの、一定数はいるんだろう。
ストーリー中のアンソニーは、中等部に行かず12歳から冒険者になり、高等部から学園に通うことになるが俺はまだ10歳である。
追い返されないか少し心配したが、問題なさそうだ。登録用紙に冒険者名を記入し、アリシアさんに渡す。
「トニーさんですね、仮登録が完了しました。冒険者になるために、登用試験を受ける必要があるのですが、今日受けられますか?」
「はい! お願いします!」
本で読んだ通り、冒険者になるには登用試験があるみたいだ。
さっさと終わらせて冒険者ライフを満喫しよう。
「おい、お前みたいなガキに冒険者はまだ早い、帰りな」
さっきから複数の視線を感じていたが、その中でも30代くらいだと思われるベテランそうな冒険者が俺に警告してくる。
「嫌ですね。俺は冒険者になるためにここまで来たんで」
「俺はライナス、Aランク冒険者だ。これでもお前のためを思って言っている。悪いことは言わないからすぐに帰れ」
「意味がわからないです。アリシアさん、早く登用試験を受けさせてください!」
アリシアさんが困った表情で俺に返答する。
「今日はライナスさんが試験官の日です。申し訳ございませんが、試験官に認められないと冒険者にはなれないんです」
「そんな⋯⋯」
俺は絶望感に打ちひしがれ、項垂れていると誰かが近付いてきた。
「おい、なんの騒ぎだ?」
「「ギルドマスター!?」」
アリシアさんとライナスって冒険者が、驚いた声を上げているのでそちらを振り向くと、さっきギルドの前でぶつかった柄の悪そうな大男がいた。あの人、ギルドマスターだったのか、意外だ。
「お前、さっきのガキじゃねえか! まだいたのか」
「ええ、冒険者になりたくて」
「ほう⋯⋯俺はチョマソンと言う。お前、名前と年齢は?」
「トニー、10歳です」
「いいだろう、ライナス、こいつに試験を受けさせてやれ」
まじで? いいの?
全然見た目がチョマソンっぽくないけど、良い人だな。
「本気で言ってるんですか!?」
「この歳で冒険者になる奴だってたまにいるだろう」
「それは例外で⋯⋯」
「こいつもその例外かもしれない、興味が湧いた」
「そこまで言うのなら⋯⋯わかりました」
どうやら試験を受けさせてもらえるらしい。
「俺、冒険者になれるんですか?」
「試験に受かればな」
「頑張ります!」
俄然やる気が出てきた。実力を見せられるのならこっちのもんだ。
さっきの試験官、ライナスと言ったか? やーい、ばーかばーか! ギルドマスターに諭されてやんのー。
「あと、ライナスはお前みたいなガキが、冒険者になって死んでいくところを何度も見ている。許してやってくれ」
「⋯⋯わかりました」
調子に乗ってすまなかったライナス⋯⋯。お前にも色々あるんだな。
「トニーと言ったな? 試験場に案内する、ついてこい」
「お願いします!」
俺は登用試験のため、ライナスの案内で試験場に向かうことになった。
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