ウィリアムが学園に行くらしい


 兄ウィリアムの協力を得てから5年が経つ。

 俺は10歳、兄さんは12歳になった。


 今日は週に一度、父さんが剣術を教えてくれる日だ。

 剣術は普段、兄さんと自主練をするか剣術の家庭教師であるランドルフ先生に教えてもらっている。

 ランドルフ先生はなんでも、元Aランク冒険者で父さんの知り合いとのことだ。もう若くないため、冒険者を引退してビブリア家で家庭教師をしているんだってさ。

 基礎的な剣術はランドルフ先生に、父さんからはビブリア流剣術を教えてもらうことになっている。


「はあっ!」


「とうっ!」


「せいやっ!」


 掛け声と共に木刀で打ち合う音が庭に響き渡る。


「よし、今日はここまで。アンソニー、ウィリアム、強くなったな。特にウィリアム、もう俺から教えることはほとんどなさそうだ」


 父さんは、実践形式で俺と兄さんのそれぞれと打ち合った後、俺たちを褒める。

 俺から見ても、兄さんの剣術は一般的に見てほぼ完成系と言っても過言ではなかった。

 そう、一般的にはね。


「父様、ありがとうございます!」


「父さん、ありがとう。でも、俺はまだまだ上を目指すよ」


 俺は褒められて嬉しそうに礼を言うと、兄さんは礼を言いつつ俺のことをチラ見しながらそんなことを言う。


「そうか⋯⋯さすがは俺の息子。いい心掛けだ」


 父さんは、少し不思議そうな顔で俺たちを見つめた後、兄さんを褒める。


「2人共、今日の午後、ウィリアムの今後について話し合いをするから、そのつもりでな」


「「はーい」」


 


 この世界で魔法や剣術の才能がある者は、魔法剣術学園に通うことになっている。初等部から通う者もいれば、中等部や高等部からの者もいる。

 ビブリア家の方針としては、好きなタイミングや必要だと判断したタイミングで通えばいいらしい。しかし、初等部のレベルはビブリア家の俺たちにとって学ぶ価値が薄いため、中等部か高等部から通う予定となっている。

 兄さんが中等部に通える年齢になったので、今日は学園についてどうするか話し合いが行われる。

 家族で昼食をとった後、それぞれ少しの自由時間を過ごし、ティータイムに再び集まった。


「ウィリアム、お前はもう学園の中等部に通える年齢になったが、どうするつもりだ? 一応、ヴィストレア魔法剣術学園からはお前宛に招待状が届いている」


 父さんは、イリスが入れてくれた紅茶を一口飲み、学園についてどうするか兄さんに問いかける。


「うーん。少し迷ったけど、俺は今年から学園に通うことにするよ」


「あら、やっぱりそう言うと思ってたわ。ウィリアムはもう上級魔法まで使えるから知識面で学べる事は少ないと思うけど、今後のために人脈を広げておきなさい」


 母さんは思った通りと言わんばかりに、兄さんが学園に中等部から入学することに賛成する。

 兄さんは既に魔法も剣術も中等部レベルを超えている。だから、学ぶためとういうよりはビブリア家を今後継ぐにあたって、見聞を広め人間関係を構築するためという意味合いが強い。

 いや、それよりも聞き逃すわけにいかない情報があった。


「え、兄様⋯⋯いつの間に上級魔法が使えるようになったんですか?」


「ふふふ、だって、私が教えたんだもの」


 し、知らなかった⋯⋯。

 俺は兄さんに目を向けると、少し気まずそうに俺から目をらすのが見えた。

 おいい。それにしても、いつの間に練習してたんだ。あ、あれか、俺が書庫にこもって本を読んでいた時か。


「それはさておき、ローランはウィリアムの学園通いについてどう思う?」


「そうだな、フィオナの言う通り、剣術も俺から教えることはほとんどないし、学園で人脈を広げておくのがいいんじゃないか?」


 父さんも、兄さんが中等部から学園に通うことに賛成のようだ。


「決まりね」


 こうして、兄さんが中等部から学園に通うことが決定した。


「──ちなみに、アンソニーはいつから通うつもりなんだ?」


 兄さんが、逸らした視線を俺に戻すとそんなことを聞いてきた。


「うーん、そうですねー。兄様が学園に通ってみた感想を聞いてから決めることにします」


「お前って奴は⋯⋯。まあいい、お前が学園で上手くやっていけるように下見役になってやるよ」


「流石兄様! 頼りにしてます!」


 そう答えると、兄さんがジト目で俺のことを見てきたが、気にしない。

 表向きの生活では兄さんの加護の下、楽して生きていくって決めてんだ。

 ニート根性? 知ったこっちゃないね。




 話し合いが終わると、それぞれ自由に過ごす事となった。

 俺以外の家族がその場からいなくなると、イリスがこちらに近付いてくる。


「ウィリアム様はああ言っていましたが、少し寂しいのだと思いますよ?」


「うーん、やっぱイリスもそう思う? でも、俺は俺でやりたいことがあるし、12歳から学園に行くとも限らないからねー」


 俺はイリスに対しても素で話すようになった。

 そう、この黒髪美人メイドにも俺の協力者になってもらったのだ。

 協力を取り付けるのになかなか苦労したけど、今となっては頼もしい相棒だ。どうやって引き込んだかは置いておこう。


「何をするおつもりで?」


「身分を隠して、冒険者になろうと思うんだ」


「それはまた、なぜ?」


「だって、依頼を次々とこなす謎の新人ソロ冒険者、かっこよくない?」


「はあ⋯⋯理解には苦しみますが、身分を偽る手筈はこちらで整えておきます」


「いつも助かるよ。あ、屋敷を離れることになるから、父さんにも許可もらっといて!」


「かしこまりました」


 俺は、兄さんが学園に通うことで暇になることを見越し、冒険者になることを決意した。

 一応、屋敷から長時間いなくなると心配かけるし、父さんに許可をもらうことも忘れない。

 念の為、イリスが父さんに余計なことを言わないように、後をつけて見張っておこう。




 イリスが父さんの部屋に入るのを確認すると、気配を消して部屋まで近付き、扉に耳を当てる。


「ローラン様。アンソニー様が、身分を偽って冒険者になりたいと仰せです」


「ほう、アンソニーが」


「ええ。こちらで手筈を整えてもよろしいでしょうか?」


「ああ、構わない。しかし、懐かしいな。俺も同じくらいの年頃に冒険者をしていたんだ」


「存じております」


「アンソニーなら大丈夫だろう。サポートは任せておく」


「かしこまりました」


 うん、会話を聞いてる限り、ビブリア家としても問題なさそうだ。しかし、父さんの物分かりがやけに良い気がする。気のせいか?

 まあいい、これで1つ、この世界でやりたいことが実現できそうだ。 

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