バレちまったもんは仕方がない


 俺はウィリアムに、中級魔法を使っているところを見られていたらしい。

 周りの気配には気をつけていたはずなのに⋯⋯なぜだ。とにかく誤魔化ごまかそう。


「やだな兄様、ぼ、僕が中級魔法なんで使える訳がないですよ! 見間違いではないですか?」


「いや、中級魔法を使える俺が言うんだ、間違いない。それにそのあわて様、やっぱり使えるんだろ?」


 あちゃー、ダメだこりゃ。誤魔化せねえ。


「なぜ⋯⋯気付いたんですか?」


「知らなかったかもしれないが、俺は魔力探知が使える。最初はバーナード先生が、俺より支度の早いお前に、参考のため中級魔法を披露ひろうしているだけだと思っていた。でも、それにしては頻度ひんどが高い。低頻度ならまだしも、初級魔法を練習しているお前に何度も見せるというのもおかしい。そこで、今日いつもより早く支度を終えた俺は、気配を消してお前の練習風景を見ていたという訳だ」


「⋯⋯⋯⋯」


 まさか魔力探知を使えるとは。いや、俺も使えるんだけどさ。気配もここまで上手く消せると思わないよねー。

 作中でウィリアムが優秀なのは知っていたけど、7歳でここまで優秀なんて聞いてない。こんな展開になるなんて本にも載ってなかったぞ⋯⋯。

 うん、次から魔法の練習をするときはバレないように気を付けないとな。

 反省は置いといて、普通にバレちまったんだがどうすんだこれ。


「なあアンソニー、なぜ実力を隠してるんだ?」


 中級魔法の練習をしていたことがバレてあせっていると、当然の質問をウィリアムが投げかけてくる。

 くそっ、どうする⋯⋯。




 ──ええい、もう、なるようになれ!




「え、だって、そのほうがかっこいいじゃん!」


「⋯⋯え?」


 兄がポカンとした表情を浮かべているが、こうなったらもう仕方がない。


「兄さん、うちの書庫に参考書や歴史書だけでなく小説も沢山あるよね? その中でも主人公が本当の実力を隠し、いざという時に能力を発揮して色々解決していく物語、ほんの少しだけどあるの知ってる?」


「あ、ああ⋯⋯確かにあるな。だがその口調、急にどうしたんだ? それにあの物語は父さんの自」


「──俺! ああいう主人公みたいになるのが憧れなんだ!」


 ん? 父さんのじってなんだ?

 うーん、よくわからないからいっか。


「そ、そうか⋯⋯。なかなか理解に苦しむが、そういう事なら問題ない。俺も、今回のことは気にしないようにする」


 なぜか、呆れたような目でこちらを見ている気がするが、気のせいだろう。

 でも、この場は勢いでなんとか乗り切れそうだ。


「兄さんが物分かりの良い人で安心したよ」


「お前、今まで結構猫を被ってたんだな」


「だって、こんな5歳児嫌じゃない?」


「まあ⋯⋯言いたいことはわかる。俺も普通の7歳児と比べ、この環境も能力も異例であることは最近理解してきた。ビブリア家の人間として、振る舞いに気を付けなければならないこともな」


 何だろう、兄さんにも色々あるのかな?

 まあ、兄さん色々と才能あるし他の貴族との関わりとか大変そうだよね、今後。


「兄さん、一般的に見ても天才だもんね」


「5歳で中級魔法を使えるお前にそう言われてもな⋯⋯」


「でも良かったよ、バレたのが兄さんで。みんなには内緒にしといてね」


「もちろんだ。そもそも、5歳のアンソニーが中級魔法を使えるなんて言っても誰も信じないだろうさ」


 うんうん、やっぱ持つべきものは優秀で優しい兄だよね。

 最初はどうなることかと思ったけど、これで俺の平穏な生活は保たれそうだ。

 そして今日から兄さん呼びに変えよう。その方がしっくりくる。




 数日後。

 俺はいつものように早めに支度し、庭で魔法の練習をしているとすぐに誰かが近づいてくる気配を感じた。

 この感じは⋯⋯兄さんか。

 中級魔法の練習がバレてからは、魔力と気配には常に気を配って警戒をおこたらないようにしている。

 俺は、肩ごしに兄さんの方を振り向きこちらから話しかけた。


「兄さん、今日は早いね」


「よく近付いてきたことに気付いたな⋯⋯。俺も、お前を見習って自主的に練習をしようと思ったんだ」


「兄さんにはもう実力を隠しても仕方ないと思ってさ。一緒に練習できるなら俺も嬉しいよ」


「まったく⋯⋯お前の実力は底が知れないな。俺の成長のためでもあるが、一緒に練習することである程度カモフラージュになるだろ?」


「──っ兄さん! そこまで考えて⋯⋯」


「乗りかかった船だ、俺もできる限り協力することにしよう」


 なんだろう、兄がイケメンすぎて辛い。

 俺がただ実力を隠して無双したいだけなのに、協力してくれるなんて。

 こうなったら、とことん付き合ってもらうことにしよう。


「兄さん! これから魔法の練習から剣術の練習まで、とことん付き合ってもらうから覚悟しててね!」


 やっぱ、付き合ってもらうのなら魔法だけじゃ物足りないよね。

 剣術にも力を入れたいし、兄さんには頑張ってもらおう。


「⋯⋯ほどほどにな」


 兄さんが苦笑いをしているけど関係ない。

 無双できるようになるまでの道のりはまだまだこれからだ。




 こうして俺は、この世界における心強い協力者を得るのだった。

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