第9話 デートプランミーティング
11月に入り寒さも厳しくなってきた頃に緑川さんが彼とデートをしたいと言い出した。こっそりSNSででも誘えばいいのに昼食の時間に全員の前で言ったのには何か考えがあるのだろう。
「私も行きたーい。緑川さんだけズルいと思いまーす」
まあ、絶対言うだろうと思われた裕美ちゃんが手を挙げて牽制している。
「秋野さんと三森さんはいつも一緒に帰れるし、ちょくちょく駅とかで2人きりで買い物したりしてるじゃん」
「学校の登下校はノーカンでーす。ねえ、しずく!」
緑川さんは電車通学の3人に対してバス通学で学校と最寄り駅以外で行動を共にしたことがない。
「えー。ズルい。自分たちはさ、駅でカフェに入ったり、休日に三森さん家で勉強したりしてるんでしょ?」
「でもさ、おっぱいボインボインと2人きりには出来ないよ。危なすぎる」
真剣な眼差しと口調で裕美ちゃんが言うから真面目に聞いてしまった。
「もー、生まれて初めてのデートなの!絶対行くし。邪魔しないでよ」
「えっ…それは……ちょっと…邪魔したら悪い気がするね。ねぇ、しずく」
いや、きみしか邪魔はしていないんだよ、裕美ちゃん。そして勝負あったところで柚木さんが参戦してくる。
「これさ、秋野さんが全ての原因だからあきらめて応援しようよ」
「なんと!そんなことはない…はず!!」
「あんたここ1週間ぐらい、登下校の話とか休日に明智くんと会ってる話とかするから、まこちゃんだって焦るよ」
「わかったよぅ…じゃあ1日デートすればいいじゃん!でも、マタニティみたいな胸の目立たない服にしてね」
『それは………』
他のメンバーが残念そうな顔でハモる。
そして次の日の昼休み、お弁当を視聴覚室に持ち込んでミーティングが開催された。主催者は裕美ちゃんだ。
「D・P・M・T(デートプランミーティング)を開催します!」
「わーわー、パチパチ」
やる気は微妙だが全員ノリノリではあるらしい。恋バナやデートの話が嫌いな女子高生はいないからということで意見は一致している。
「まず、デートの時間は10時集合、19時解散とします。暗くなるとキスとかしかねないので許可しません!」
裕美ちゃんの独断が凄い。9時間は結構長い気がするが、ここに彼の意見は組み込まれることはないので黙っているしかない。
柚木さんがノリノリで手を挙げた。
「ハイ、どこに行くかは重要だと思うんだよね」
「確かにメイン会場はデートで重要です。候補はありますか柚木さん!」
「無難なとこだと映画、水族館、遊園地もあるわね。街ブラとカフェで休憩はどうせするでしょ」
「では、しずくちゃんはどう?」
「おうちデート」
「却下!ハイ、緑川さん」
裕美ちゃんもノリノリで仕切る。他人のデートプランを作るのは、楽しくて仕方ないといった表情だ。
「えっと…映画は顔も見えないし、おしゃべりも出来ないから…最初のデートではパスしたい」
「なるほど、憎らしいほどの乙女思考。このデート破壊したい!」
裕美ちゃんはちょいちょい脱線する。じゃあさと柚木さんが元に話を戻す。
「やっぱ水族館じゃないかな。遊園地は寒いし。他にも美術館や博物館はあるけど興味ないだろうし」
「無難かー。動物園もいいけど冬はきついしなー。本当は私のデートで使いたかったけど緑川さんに譲るかー」
「ありがとう。秋野さん」
緑川さん、そこはお礼を言うところではない。まあイルカとペンギン以外は外に出ないからこの時期の水族館はありだろう。
「では、デートのメイン会場は水族館に決定です!」
「オッケー秋野さん。じゃあまず街に出るでしょ。10時集合でバス移動にするか。じゃあ10時34分に水族館に着くから…」
柚木さんが綿密に移動スケジュールを立てだす。
「まこちゃん、お昼も水族館の中でいいよね?」
柚木さんがペンを走らせながら問いかける。
「うん、いいよ。ちょっと長く居たいかなー」
「確かに、水族館行くと周りなんもないから、ここ一本になるんだよなー。しずくなんかいい案ない?」
最初はふざけてるとしか思えなかった裕美ちゃんも意外と真剣に考えてる。
「うーん。場所を変えられないなら人がイベントを起こせばいいよ」
『どういうこと?』
3人の女の子が同時にしずくに聞き返す。
「水族館に入ってから出るまで、トイレ以外は腕を組むか手をつなぐこと」
「却下却下却下却下!腕とか組んだら緑川さんのおっぱい当たるじゃん。そんなのお互い好きになったらどうすんだよ。しずくはどっちの味方だよ!」
暴れる裕美ちゃんは無視して、一人顔を真っ赤にして頬に手を当て、妄想の世界に行ってしまった緑川さんを見て柚木さんはルールという項目を付け足した。
そうして完成した手書きのスケジュール表はA4サイズでカラフルに全員で色々な書き込みがされていた。
「一生の宝物だよー」
と、喜ぶ緑川さんを見ていると色々注文をつけたそうな裕美ちゃんも沈黙を守るしかないようだった。
「当日、秋野さんは監視して邪魔させないから安心してね。まこちゃん」
「なぜバレたし!」
こうして、完璧なデートプランは完成し当日を迎えることになった。
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