第6話 追撃
緑川さんは終始笑顔で手を振りながら柚木さんと帰っていった。今日から友達としてよろしくと裕美ちゃんとしずくに伝え、明日から一緒にお昼ご飯食べようねと言って余裕あるお姉さんのように裕美ちゃんを扱い去っていった。これから二人で報告会らしい。
去り行く機嫌のいい緑川さんに対し、不機嫌きわまる裕美ちゃんはこちらに詰めてくる。
「告白されたんでしょ?それで約束守ったんでしょうね?」
「約束ってなんのことだよ?」
「ぷん! ぷん!。素直に好きだとか、胸が大きくてかわいいねとか、大きな胸触っていいとか、思ったこと口にしてないでしょうね?」
両のこぶしをグーに握り、頭の上に置きながら迫ってくる。
「そういうことは言ってないけど思ったことは伝えたよ」
「なんて言ったのよ?」
「顔と名前しか知らないから友達としてお互いを知るところから始めようって伝えた」
「ふんっ、まあそれならいっか。でもやだなー。友達になれるかな。あのおっぱいと…」
裕美ちゃんの緑川さんに対する認識はおっぱいに偏ってるみたいだった。
次の日、約束通り場所を確保し5人のグループになって昼休みを過ごした。
緑川さんと柚木さんが合流する前に、威嚇のため裕美ちゃんが彼の膝に座ってお弁当を広げ始めたり、戸惑う緑川さんを救うため柚木さんが裕美ちゃんを自分の席につまんで戻したり、微笑みながら見ているしずくと、不思議そうな目でこちらを見るクラスメイトの視線はあったが無事に楽しく昼食が始まった。
自己紹介のように自分の趣味や好きなものを聞かせてくれる緑川さんと遠慮なく、
『本当に付き合ってないのか?』
『なぜお弁当が同じなのか?』
と定番の核心的な質問を投げてくる柚木さん。
付き合ってるから、愛し合ってるからとバレバレ嘘を付く裕美ちゃん。
「未来の彼女って何?」
という質問には来年には彼女だから。来年には付き合ってるから。今準備期間だからと矛盾をさらけ出す裕美ちゃん。
「負けられないなー」
と小さな声でつぶやく緑川さんの声が聞こえたが返事をする必要があることじゃないなと感じ黙っていると、みんなそれぞれ昼食を食べ終わり、机を戻して解散となった。しずくと裕美ちゃんが腕を組みながらトイレに向かうと、
「ちょっといい?」
と柚木に呼び出されて屋上に続く階段の途中まで連れていかれた。
「どうなってるの秋野さん。本当に付き合ってはなさそうだけど理解ができなくて混乱してきた……。説明して↑」
柚木さんの語尾が強い。
「何を説明すべきかわからないんだが。何が聞きたいんだ?」
「もうっ…あんたたちは付き合ってない。それは理解した。でも秋野さんはあんたのこと好きだよね。それと三森さんもあんたのこと好きなんじゃないの?」
「嫌われてはないだろうな」
「そうじゃなくて、あんたはあの2人と付き合う気はあんのかと聞いてんの?」
主語が反転してないだろうか?女の子っていうのは聞きたいことを反対側から聞く癖でもあるんだろうか?
「それ聞き方が悪くね?それと将来のことはわからない。現状は付き合っていないし付き合う予定もない」
「もういい!じゃあまこちゃんはどうなの?告白されたんでしょ。付き合わないの?」
矢継ぎ早に質問が飛んでくる。お前は近所のおばちゃんか?
「同じだよ。将来はわからない。緑川さんとは友達からお互いのことを知っていく段階だし」
「まこちゃんはね、いい子なんだよ。付き合ってあげなよ。損はしないからさ」
「結構うざいタイプなんだな。何で他人の恋愛に口をはさむんだ。緑川さんに頼まれたのか?」
「きっしょ。頼まれてないし頼むわけないでしょ。まこちゃんがどれだけあんたのこと好きなのか知らないでしょ。あんなままごとみたいな恋愛ごっこしてないでちゃんと女の子に向き合いなさいよ。意気地なし」
「なっ…いや言い過ぎた…悪かったけどままごとをしてるつもりはない。それに彼女たちは悪くないだろ」
「…私も言い過ぎた…ごめんなさい……でもあれだけ好意を寄せられてるなら付き合ってみればいいじゃん。もちろんまこちゃんがお薦めだけど」
ほんとムカつく。近所おせっかいばばあ確定。だが顔には出さずに続ける。
「今は無理かな。それに付き合う相手と時期は自分で決める」
「強情、意気地なし、おたんこなす。何で無理なの?」
「いいなと思う子がいる」
「はあっ!何言ってんの。意味わかんないんだけど。それ誰?」
「好きになってくれるのはもちろん嬉しい。このまま何も起こらず裕美ちゃんか緑川さんを好きになる未来もあると思う。でもさ」
「おかしいじゃん。そんなの。秋野さんや三森さんは知ってるの?まこちゃんは?誰なのよ!!」
どんどん語尾が強く激しくなってくる。なぜいいなと思う子がいることがおかしいのかわからないが納得がいってないことだけはわかる。
恐らく柚木さんは無条件で緑川さんの味方なのだ。だから緑川さんが不利になる話は全ておかしいと言うだろう。それはとても尊いことだと思う。
「別に聞きたいなら教えるけど、聞いてもいいことないぞ」
「まあそうかもね。でもどんな子が好みかは気になるじゃん。その子がいるから他の子とは付き合ってないわけでしょ?」
「別に付き合いたいとかじゃないんだ。ただ入学式の時に見て、世の中にこんな美人がいるんだと感心したんだよ。ただそれだけ。こちらからは1度も話しかけたことすらない」
「いいじゃん、言ってみなよ。絶対応援はしないけど」
彼ははそっと指を前に差し出した。
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