第4話 準備とリサーチは完璧に

「へー。そうなんだ。しずくは来ないんだ」

 と返事しながら考えを巡らせて、最近の2人の動向を振り返るに思い当たる節がある。

「謀ったな、しずく!」

 しかしながら現実世界ではこの後、殺されるわけでも無いのであきらめた。起こったことは仕方ないので受け入れることにした。

「この後のプランはあるんだろうな?」

 女の子2人の買い物に付き合い、カフェにでも入って話をすると思っていたから彼には当然プランはない。一方でこの日の計画を練っていた秋野さんとしずくには綿密なプランがあるはずだった。


 そして駅ビルのちょっと広い、落ち着いたカフェに連れていかれる。隣との席は区切られており、雑踏は耳に入るが、何を言っているかまでは聞こえない感じのおしゃれなカフェだ。しかしながら個室ではないのでオープンで周りの人の表情は見ることができる。


 目の前の女の子は明らかに緊張している。キョロ充というやつを絵にかいたら今の秋野さんになるだろう。女の子が勇気を出しているのは理解できるので助け舟を出してあげようと思う。

「ちゃんと聞くからゆっくり喋っていいよ。最後まで全部聞くから」

 学校では突撃ダイレクトアタックを繰り返す少女とは思えないほど畏まった秋野さんは、出会いから、いかに2人に感謝しているか、そして今が思い描いていた高校生活より2段階ぐらい楽しいことを語った。徐々に表情も明るくなり本来の調子に戻ってくる。


 彼は『うんうん』と笑顔で全てを聞いてあげ、1時間ぐらい秋野はしゃべり続けていた。止まらない。たった数か月の思い出がとても楽しいらしい。そして、マシンガントークにいったん区切りをつけ、少し息をのんで本当に伝えたかった言葉を紡ぎだす。


「…それでね……良かったら…その…私と付き合ってほしいの?……だめ…ですか?」


 一言伝えるのにたいそうな回り道をするものだと思う。本人にはこのプロセスが必要なんだろうなとは思うが。

「ダメだ」

 少し秋野さんの頭の上の空間を見ながら言ってみた。

「何でそんなこと言う↑」

 食い気味に言葉を発し、語尾が上がってるのは明らかな不満の表明だ。


「私のこと嫌いじゃないよね。好きかは分からないけど嫌われてはない…はずなんだけど」


 自信があるのかないのかわからないが、今度の語尾は自信なさげだ。ここ数か月、膝の上に座るのも抱き着いてくるのも拒否したことはない。秋野さんのスキンシップは確認行為の一つだったのだろう。その結果、嫌われていないという回答に至ったから今があるのだ。


「好きだよ。いい友人だと思う。余計な一言が多い女の子だけどだいたい相手を思って発言してる。ズレてるけど」

「ズレてる?ちょっとそこは分からないけど好きならいいじゃん!」

語尾が強く言い切ってくる。ゲームをやらせたらごり押しするタイプだと思った。


「好き、好き、好き」

 なぜダメなのか。理解してもらうために秋野さんにわかりやすく発音を変えながら伝えてみることにした。

「何、どういうこと?」

「好きにも種類があると思って」

「好きだけど、付き合うほど好きじゃないって言いたいの?」

「ん-ん。ちょっと違う。秋野さんはいい子だよ。一緒にいて楽しいし、これからも一緒にいたいと思うよ」

「ん?意味が分からないんだけど?じゃあ何でダメなの?」

「上手く説明できない。今はダメだと感じるし、付き合うという必要性が分からない」

「あんたの方がアタオカじゃない?説明してよ!」

 自分がアタオカ女と言われていることを認識しているらしい。


「明確な理由があるわけじゃないけど、強いて言うと秋野さんのことをよく知らないから」

「だーかーらー。お互いに知るために付き合うんじゃない↑」

 両手をテーブルに叩きつけて立ち上がる。声がでかい。イライラしているのが良くわかるが、お客さんの数名がチラチラとこっちを見ているので勘弁してほしい。


「三森さんなの?……しずくちゃん大丈夫だよって言ってたけど。もしかして…好きだったりする?」

脱力して椅子に落ち、自信なさげに問いかけてくる。感情の起伏が激しい。


「違うよ。しずくが言ってることは正しい。秋野さんへの返答にしずくは関係ない」

「わからない。理解できないじゃん。嫌いなら嫌いって言ってよ。振るならちゃんと振ってよ。どうすればいいか判断できないじゃん!」

 意外と理性的な発言だが、見た目は明らかに混乱していて涙目になっている。


「ちゃんと言ってる。好きだよ。でも付き合う気はない。お友達からってことじゃダメかな?」

「もう、友達じゃん!先に進みたいんだよ。言葉通じてる?」

 本当に感情のジェットコースターだ。


「友達として、これから先に進むというのはどうだろう?」

 相手の感情に合わせず冷静に問いかける。

『はぁ…』

 暖簾に腕押しと思ったかどうかはわからないが、そんな感じでため息をついた秋野さんは意を決したように言葉を続ける。


「もういい。わかった。友達だけど友達じゃやらないことするから。知らないから。友達の概念塗り替えるから」

「そういうことなら受けて立つよ。本当に秋野さんのこと好きだよ」

「……あんたね…そういうの本当にダメだから…今後禁止ね!」

 顔を真っ赤にしながら、真剣に言ってくる。

「そういうのって?」

「素直に気持ちを伝えるの!ほかの人にはしないで。それと私の呼び方は裕美だから。それ以外で呼んだら返事しないから!」

「前半は気を付けるとして、裕美呼びはちょっと躊躇いあるな」

「そうなの?私は構わないけど気にするもんなんだね。じゃあ裕美ちゃんでいいよ。最初は妥協してあげる」

 

『へへへ』、と言いながら男の子と名前で呼び合うこと、彼の名は隆だからたかちゃんでいいかとか確認を取り、また『へへへ』と不気味な笑いをする。


 なんか夢が一つ叶ったと素直に喜んでくれる秋野さんを見ていると悪い気はしない。だから素直に謝意を伝えることにした。

「ありがとう。最善を尽くすよ」

「それとね。もう友達は嫌なの。だから今日から未来の彼女ね」

 ソイルワークかよ。未来のメタルと言われているバンドが思い浮かんだが、

「最善を尽くすよ」

と答えておいた。

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