第28話 御僧にこの身、託さばや
璋子はと見れば「義清、いや法師様。この蛇にわが身を見ればただあさましゅう覚えてなむ。み前に恥じ入るばかりなり。もしいたるべきものならば、許されるものならば、西方浄土へ参りたし。御僧にこの身、託さばや」と虚心に云う。その途端廻る大蛇のすがたは璋子の眼の中で塵の世を示す万華鏡のようなものに変わった。廻っている。人々の喜びや悲しみ、怒りやそねみ、愛憎の相などを呈しながら無限にどこまでも。そのめくるめく様に魅せられるなら、人は決してその轍から逃れられないことが、いまの璋子にははっきりと自覚された。肉体を去ってようやく知ったみずからの愚かさに璋子は静かに涙し続ける。すなわち心の中を法雨がぬらして行く。璋子の新生を願って西行はしばらく光を入れ続けた。六道の万華鏡が億土の彼方に去って行く。俗世の身の落飾ではない心の、まことの落飾を見とどけたあと西行は「なんのこの西行拙なければともにみ仏のもとに参らすまで」と応じ、さらに「璋子様、彼処を御覧ぜよ」と璋子の目を誘う。いかなる神わざか虚空に開いた先ほどの浄光の一点が光を増して行き、西方の空が明るんだと見るや、なんとそこにいま1組の西行と璋子の姿が現れた。こちらの2人を見詰めていると思いきや、彼らを追って今度は俗世姿の義清と璋子が現れ、さては法衣の2人はそちらを見ていたのかとも思うし、やはりこちらを見ているとも思える。それはあたかも魂、心、現象それぞれの西行と璋子が顕現したがごとくだった。
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