第27話 西行法師の調伏
去るどころか再び憑こうとする蛇に西行はまなじりを決し「作麼生(そもさん)、離れかぬは誰ぞ。‘なべてなき、黒き炎の苦しみは、夜の思いの報いなるべし’、汝(な)が執着より離れよ!喝(かーつ)!」と、数珠をかけた右手を蛇に向けて、さすがの気合いと歌わざもてこれを制し、空いた左手を璋子の身に充てて光を入れる。金縛りにあったようだったその身が解放されたのを見届けたあと、もはやこれまでとばかり「蛇よ。離れかぬるものは、せちなるものは、畢竟他者か、おのれか、いずれぞや。さを明かすべし。‘汝(な)が身にぞ欲(ほ)りするままに食らいつけこの六道を廻らば廻れ’」と歌を詠み調伏の経を無心に唱えつづけた。御仏の思し召しが現れたものか怒り心頭に達した大蛇が西行に食いつこうとしたが実際にはおのが尻尾に食らいつき、そのまま猛烈ないきおいで飲み込み始めた。胴体は口から逃げ口は身を追いかけ、畢竟ただグルグルと廻るばかり。まさに六道輪廻だ。そのあさましさにあきれかえる璋子に「お方様、身のさかえ、愛欲を求むるの心はただにこの通りと御覧ずれば、またそは六道の益なきわざと見取られたまえば、もはや現しにおはすも何にかはせむ。雲隠れの儀、さて御覚悟のほどは?」と西行は問い、また「皇子皇女様らの恋しくばお方様の御昇天こそ肝要なれ。そこにこそ皇子様らの魂はおはしまして、お方様を待ちはべるなれ。そのいたらむ国のみならず、輪廻転生またの世までも、この西行御随行つかまつるほどに、いざや、璋子様…」と再度の引導を渡す。
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